うさぎとななさん後日談
汐井サラサ 氏の*兎の世界にとりっぷ! 兎の国にさようなら読了後がお勧めです*
「そういえば」
午後のお茶の時間、まったりと寛いでいた所に、ふと、思いだしたようにレヴィアン様が呟かれました。
「どうされました?」
首を傾げて問いかければ、護衛として少し離れている所に立っているルゥが、あらあら、またつられて首を傾げています。
愛らしさに小さく笑みを浮かべていれば、レヴィアン様は、好奇心を隠しきれない表情で、目をきらきらさせてこちらをみています。
「先日の、兎の国の方がこられたとき、ルイ殿をナナは連れ去られてゆかれましたが――あのとき何をされたのですか?」
そういえば、そんなこともありました。
兎の国の落人である夕菜ちゃん――とても愛らしい若い娘さんでした――が、思い余って兎の国を飛び出してきたときのことですね。
とても一生懸命で、真面目で、優秀で、あの仕事には厳しい、近習のジルさんが褒めていたほどのお嬢さんでした。
――さまざまな行き違いから、色々とあったようですけれど。
思いだして、小さくくすりと笑いが零れます。
「別に、なにも。ただ、お話しただけですのよ?」
本当に、ただ、それだけ。向かい合って静かに、お話させていただいただけなのです。
――落人の立場というものを。 世界から切り離された思い、というものを。
「――本当ですか?」
それだけなのか? と不思議そうなレヴィアン様と、ルゥにライ。
私はそっと笑みを深めました。
「ええ、本当にそれだけです。穏やかににこやかに、お話させていただきました」
にっこり、と、微笑めば、視界の端でルゥの顔が僅かに引きつったようです。
あら、失礼な。私の微笑になにか問題があるとでも?
しかし、それには気づかぬ風で、レヴィアン様は、感極まった様子です。
「そうなのですか――! さすが、ナナですね。話しただけであれほどまでにあのルイ殿が納得されるなんて。素晴らしいです」
「そんなことはありませんわ」
くすくすと微笑む私に、ルゥの「いや、あの笑顔で静かに話されたらコエェって……」と呟く声が聞こえましたが、聞こえないふりをしてあげましょう。
あら、となりのライにごん、と拳骨落とされて蹲ってしまいましたね。あらあら。
ゆっくりと、紅茶の香りを楽しんで過ごすひと時。
――そういえば、夕菜ちゃんのお茶は、斬新でした。
思いだしてふふ、と小さく笑って、そっと窓の外を眺めます。
遠く遠く、あの森の向こうの、更に遠く。
同胞たるかの少女に幸いあれ、と、静かに祈るのでした。