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愚か者のエッセイ  作者: 黒猫の凜


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⑤人が生きる理由

人は、なんの為に生きるのか…?


これは、誰もが一度は直面する問題かもしれない。


恐らく明確な答えはない。

あるいは、一人一人違う答えがあるのかもしれない。



……



私の場合は、「他者の為に生きる」を解として人生を歩んできた。


といっても、慈悲の心に溢れていたわけではないし、他人に尽くしていたわけでもない。


どちらかというと、

自分が頑張る原動力が「他者」に由来していた——

と表現した方がいいだろう。

これは子供の頃から続いていることだ。



〇〇をすれば周りが喜んでくれる———



なにをするにも、これが思考の中心にあった。

“自分が何をやりたいか”よりも、

“何をすればみんなは喜んでくれるか”を基準にしていた。


親が望んでいる学校を受験し、

周りの期待に応えるように部活を選んだ——


親を支える為に就職して金を稼ぎ、

上司に頼まれてリーダーを引き受けた——



幼少期から周りの顔色をうかがい、喜んでもらえるように振る舞ってきたが…

その理由は、恐らく子供なりの防衛本能も含まれていたのだろう。


だが、成長するにつれて、いつの間にか周りが喜んでくれるかどうかが自身の行動原理になっていった。

「他者」が頑張る為の原動力になっていたとも言える。



……



だが…

私は自身の弱さに押し潰され、組織を抜けた。


「他者」から原動力を得ていた私が、「他者」の為に頑張るリーダーをなぜ続けられなかったのか…?



後から振り返ってみれば、

「他者」から得た原動力だけでは、あらゆる苦痛を乗り越えるには到底足りなかったのだろう。


実際にその頃は、

周りの期待や喜びだけでは耐えきれない…

この苦痛に耐えてまで、頑張る理由がもう無い…

そう感じていた。


結果として、エネルギー不足のまま走り続けた私は、心まで擦り切れた。



……



こうして私は、社会との繋がりを無くした。

残されていたのは親との繋がりだけだったが、その繋がりも長くは続かなかった。


別に関係が悪化したわけではない。

誰でも聞いたことがあるような病気に罹り、ほどなくして亡くなった。


こうして私は、全ての繋がりを失った。

それはつまり、全ての原動力が断たれたのと同義である。



……



そこに至り、私はようやく気付いた。

これは、“自分の人生を自分の為に生きてこなかった”代償なのだと。


考えてみれば、私には夢や目標が何一つ無かった。


今までずっと、前に進む理由は、

誰かが望んでいるから、みんなが喜んでくれるから…

それだけだった。

そこに自分の意思は含まれていなかった。



そんな生き方を続けてきた私は、今更どう生きればいいのだろうか…?

そう思い、しばらくは途方に暮れていた——




他者の為に生きることが、必ずしも悪いとは思わない。

しかし、もしあの時、他者の為だけではなく、自分の為にも生きていたなら…

私はもう少し頑張れていたかもしれない。



……



——それから私は、自分が生きる理由を探し始めた。


今更、夢や目標を考えてみても何も浮かばないのは分かりきっていた。

なので、とりあえず身近なところから試してみることにした。


趣味と呼べるものに没頭してみたり、あまり経験の無いことに手を出してみたりもした。


だが、どれも「生きる理由」と思えるようなものではなかった。




別に生きる理由なんてなくてもいいじゃないか…

そう思う人もいるかもしれない。

しかし、私にはどうしても理由が必要だ。


私はずっと他者の為に生き、それが原動力となっていた。

逆に言えば、原動力が無ければ前に進めない生き方をしてきたのだ。


自分の為に生きる理由が見つかれば、自身からも原動力を得ることができる。

それはなによりも望ましいことに思えた。


今の心が擦り切れてしまった私に、新たな繋がりを作ることは難しいだろう。

しかし、時が経てば、少しずつ繋がりも戻ってくるかもしれない。


それがいつかは分からないが…

その時に、「他者と自分、両方の為に生きる」ことができる私になれていれば、きっと昔よりも遠くまで進めるに違いない。



……



不思議なものだ。

初めは、エッセイを書き始めたのも、生きる理由を探す過程の1つに過ぎなかった。


その頃はまだ気持ちの整理もついておらず、

「いつ訪れるか分からない死をただ待っているよりも、こうして過去を振り返る方が幾分マシに思えただけだ。」

などと投げやりなことを書いてしまった。


だがこうして過去を振り返ってみた今は、自分の進むべき道が少しは見えてきたように感じる。

やはり、色々と試してみるのはいいことだ。


……


これから私は旅に出る。

エッセイはここに置いていくことにしよう。


とりあえずの目標は、心が癒えるまでに自分の生きる理由を探すことだ。

こうして過去を振り返ったことだし、昔住んでいた場所を巡ってみてもいいかもしれない。



人間は常に過去と繋がっている。

過去の私が今の私を形作り、幸せとは呼べない人生に辿り着いた。


それなら、現在の私が未来の私を形作る一部となって、少しくらいは幸せを感じる人生を送らせてやろうじゃないか——


もっとも…

私のことだから、きっとまた遠回りすることだろう。

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