表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/45

エピローグ また会う日まで

 蓮の國は復興に時間がかかるだろう。来る日も来る日も瓦礫の除去。特に東側の地域は被害が大きかった。魔人や大量になだれ込んだ災獣たちによって町はほぼ全壊。それでもルイたちは下を向かなかった。亡くなった國長や國の人々に胸を張れるように生きるしかない。新しい國長にはレナが就任。前國長であるたった一人の家族が亡くなったにも関わらず、彼女は動き続けた。また、オーガの指示の下、獣人たちが街の復興を手伝ってくれた。最初は皆、彼らを白い目で見ていたが、献身的な姿に心を打たれ、気づけば友情の芽が息吹いていた。


 アラサラと戦ったレオ、エマそしてミアは各所の骨にヒビが入ったりと怪我がひどい。彼らはしばらく自宅で療養することとなった。同期で深刻な怪我がなかったのはルイ、リュウそしてルナだけ。


 魔人たち襲来のちょうど三日後。彼らは九時頃、協会周りに集まった。ルイはなんだか懐かしい面子に少し胸が躍るも早急に街の復興作業に取り掛かっていた。

 

黙々と倒壊した家屋の木材を片付ける中、ルイはリュウとルナの考え込むような表情が気になっていた。


「二人とも怪我がなくてよかったよ。」


 と作業をしながら少し朗らかな声をかけると、リュウは作業している手を止めた。


「……お前はリョウガのことをどう見てる。お前の目にはあいつがどう映った。」


 真っ直ぐな眼差しをルイ向けた。ルイは目を瞑ったり、腕を組んだり、首を傾げたり。以前彼と遭遇した時のことを思い出す。表情や行動、そして言葉を。


「……あんまりわからない。一見敵ではなさそうだけど、底が見えないというか。すべての言葉が膜で覆われているというか。」


 顎をつまみ考えあぐねる中、ふとリュウを見ると彼は再び片づけを開始している。大きな木片を抱え、荷車にドスンと置いた。


「……実はな。あの戦いで俺たちはリョウガと戦っていた。」

「お兄さんもあそこにいたの?」

「あぁ。しかも魔人側についてな。」


 リュウは淡々と抑揚のない声色で語る。しかし、ルイの疑問が大きくなる。


(もし魔人の味方だとしたら、セナさんと戦っていた時、暴走した自分を止めた理由はなんなだろうか。)と考えていると、


「ほんとムカつく。ムカつく。ムカつく。」


 ルナが小さな石を手押し車にぽいぽい投げながら、ぶつぶつ文句を言っている。いつも無表情だった彼女が眉間に皺を寄せて怒っているようだ。普段と様子の違う彼女にルイは違和感を覚え、リュウの耳元に近づく。


「ねぇ。ルナどうしちゃったの。なんか雰囲気変わってない?」

「知らん。あいつが魔人の味方だからだろ。」


 ルナはジトーッとした目つきでリュウに視線を送る。


「違う。またいなくなったから。」


 そういった後、ルイは彼女の視線が徐々に自分に向いていることに気づいた。先ほどのジトーっとした目つきではなく、微かに潤いのある瞳。彼女は小さな唇をキュッと締めた後、口を開いた。


「ねぇ。ルイはリョウガが敵だと思う?」とどこか弱弱しく。


「……正直わからない。味方っぽくもあるし、敵っぽくもあるし。でも僕は味方って思いたいね。」


 その言葉を聞いたルナはふっと鼻で笑い、満足気な顔をリュウに向けた。


「ほ~ら。ルイはそういってるよ。あの時だってリョウガは私たちを守ってくれたもん。」


 リュウは苛つくように眉をピクピクと動かし、癪に触るようなどや顔のルナから視線を外した。そしてあの日リョウガと戦っていた時のことを思い出した。




 リュウがチェインを発動させ、ルナと共に攻撃を続けているが、リョウガに全く歯が立たなかった。体力の底がつき、立っているのがやっと。リュウは見下ろすリョウガを睨むことしかできなかった。


「おい。何遊んでるの。さっさとそいつら殺しなさい。愚図が。」


 突如頭上にイブが現れる。空中で翼を羽ばたかせ、腹を立てたような口調でリョウガに強い言葉をぶつけた。


「いいところなんだ。それぐらい許せ。」

「あぁ。じれったい!もう僕が殺す!」


 イブは両手を掲げ、大気を圧縮させるあの球体を作り出した。そしてそれを地面に向けて放った。リョウガは落下地点へ瞬時に移動。イブの放った攻撃を刀で受け止め、空に弾き飛ばした。空高く飛ばされたその球体が眩い光と衝撃波を発する。それらが地上に襲いかかる中、イブとリョウガは激しく視線を交錯させている。イブは眉間に深い皺を刻み、リョウガを見下ろす。


「は?なんなのお前。」

「これは俺の獲物だ。手を出すな。」


 と抑揚のない声色で言うと、イブは舌打ちをして飛び去った。イブの姿が見えなくなった後、小さく鼻から息を抜いた。そして納刀し、リュウとルナの方を向く。


「そろそろ時間だ。お前たちはつまらん。もっと強くなれ。強くなっていつか俺を殺しに来い。」


 それだけ言い残し、彼は二人の前から姿を消した。




 リュウは住居の木片を片付ける手が止まった。なぜあの場で俺たちを殺さなかったのかと。その時、思考に割り込むように聞き飽きたボヤキのようなつぶやきが聞こえてくる。


「やっぱり捕まえて、ぐるぐる巻きにして無理やり話をさせないと。またにげられちゃう。もっと突きの速度をあげよう。修行しなきゃ。」


 リュウは何か言うのを諦めたように鼻から大きく息を抜いた。そして意を決した表情に。


(俺はまだあいつに勝てない。だから強くなって必ずあいつを超える。)と心に炎を宿した。


 そんな二人の姿を見たルイは口元に弧を描いた。彼らは一歩前に進みだしたのだと。




 それから二週間がたった頃。あの戦いで怪我をしたハンターたちも回復し、ちらほら街の復興作業に参加していた。ルイは手押し車で瓦礫を運んでいる途中で病み上がりのカルマと遭遇した。チェインをかなり長い時間使用したカルマは体力の消耗が激しく、回復するまでに時間がかかっていた。あと時見たカルマは身体中が傷だらけだった。それでも一人で刀を振るい、身を挺して災獣の進行を防いだのはさすがだ。久しぶりに会うカルマはいつもと変わらず、穏やかな表情をしていた。


「ルイ。魔人を倒したと聞いたぞ。もう儂よりも強いかもしれんの。」

「いや~。僕一人じゃないからね。それよりも体の傷はもう大丈夫なの?」


カルマはコートの袖を捲って見せた。すでに傷は塞がっているが、腕に螺旋状に切り裂いた傷が刻まれている。


「ひとまず動けるぐらいにはなっておる。寝てばかりではいられないからの。それにしてもあの魔人は厄介じゃったわ。」


 オーガと共に二人でチェインを発動し、やっと倒せた八つの蛇頭を持つ災獣。あれを倒してもなお、エンフェリアには傷一つつけることができなかった。最後に彼女に切りかかった時、何をしたのかわからないが、この傷が腕に刻まれていたのだ。


「やつらはまた来るだろう。それまでに戦力を固めなくては。」


 と言い、少し短くなった髭を撫でる。そんなカルマにルイは強く活き活きとした視線を向ける。


「心配いらないよ。みんなこんな状況でも前を向いてるんだもん。次にやつらがきても大丈夫。その時は僕たちも強くなってるからね。」


 ルイの活き活きとした瞳にカルマは胸を打たれ、つい口角が上がってしまう。


「それは頼もしい。だがまだ若いものに負けるわけにはいかんの。久々にいい戦いができた。儂もまだ強くなれそうじゃ。」


 カルマは嬉しそうに顔をほころばせ笑った。後日聞いた話でカルマはその夜久しぶりにオーガと酒を飲んだらしい。




 そして一か月が経つ。街の瓦礫は少なくなっていき、建物の建築が始まった。朝から晩まで大工の掛け声と金槌を叩く音が響いていた。


 そんな昼下がりの陽が真上に上る頃。ルイはタクトたちの墓がある修行場に向かっていた。彼らの墓参りという理由もあるが、もう一つそこに行く理由がある。シオンに会いに行くためだ。


 ルイが修行場に到着して目に留まったのは刀を振っているシオンの姿。ルイは「シオンさん!」と声を上げ、駆けていく。するとシオンは微笑み、タクトたちの墓に手を差し示した。


 ルイはタクトとトーリの墓の前で手を合わせ、彼らに色々なことを伝えた。みんなで力を合わせて魔人を撃退したこと。セナと篝火のメンバーたちが味方になってくれたこと。彼らに関わりがある人たちは無事なこと。そしてもっともっと強くなること。


 最後に(ずっと見守っていてください。)と心の中で強く呟いた。


 合わせた手をほどいた後、ルイがシオンの顔を見上げる。彼はどこか元気がなさそうに見える。


「改めて申し訳ない。君たちが必死に戦ってくれたのに、勾玉を取られたのは僕の責任だ。」と頭を下げる。


「シオンさんだけの責任じゃありません。僕たち全員の責任です。それにレナ様が無事だったのはシオンさんのおかげです。人は死んだら戻ってきませんから。」


 ルイが朗らかな口調で話すとシオンの表情が和らいだ。シオンはイブとの戦闘のことを話してくれた。


 チェインを発動させた二人はイブと交戦。セナとは不思議と馬が合い、うまく連携を取り、イブを切り裂いた。突如イブが空に飛び立ち、突如切り裂くような突風を地面に向けて放つ。広範囲の斬撃があたりに襲い掛かり、シオンとセナが姿を見失うと、二人は一瞬のうちにイブに蹴り飛ばされた。そしてイブはそれを最後に彼らの前から姿を消したのだ。


 しばらくして、レナは首飾りがないことに気づいた。他のハンターに話を聞くと、小型の鳥型災獣がそれを持っていくのを目撃したらしい。恐らくエンフェリアの仕業だろう。シオンとセナの二人で戦ってもイブを倒すことはできなかった。


「ルイ。君はチェインのその先を見たんだろ。嘘に聞こえるかもしれないけど、実は僕もチェインにはまだ先があると思っていたんだ。」

「チェインのその先……。」


 ルイは思慮深い顔で思い出していた。あの時、ルイを助けてくれた人たち。なぜかどこかで会ったような気がしてならない。そんなルイをシオンは穏やかな表情で見守り、


「これから僕は旅に出る。もっと強くならないといけないからね。それで……ルイに提案がある。一緒に来ないか。君は強い。恐らく数年すれば僕よりも強くなれる。だからこそ危なっかしい。トーリがそうだったように君も一人でやろうとするからね。僕が君を強くする。そして僕も強くなる。どうだい?」


 今までのルイであれば、一晩考えさせてください。と言っただろう。何かあった時、自分がそこいないのが怖かった。でも今のルイは仲間を信じている。ルイは意を決した面もちでシオンを見つめ、


「お願いします。僕も一緒に連れて行ってください!」と熱のこもる声で答えた。

「かなり大変だよ。とんでもなく強い災獣と戦うからね。」

「覚悟はできています。」

「わかった。それじゃあ一週間後、ここを立つよ。準備しておいてね。」




 そして一週間はあっという間に過ぎた。まだ太陽が真上に昇る前の時間。ルイは意を決した面持ちで家にしばし別れを告げた。そしてハンター協会があった場所へと歩きだした。太陽の光が優しく地上を照らし、暖かな風がルイの頬を撫でる。カン、カンと大工の金槌の音が軽快に響く。街が少しずつ形を取り戻していく。


 懐かしい道のりを色んなことを思い出しながら歩いていた。小道の裏路地でハンナと出会い、レオ達と一緒に訓練所に行ったり。そんなことを考えていると協会跡地に。視線の先にはシオンがいた。憧れの人とこれから修行の旅に出る。ルイは胸が高鳴った。そしてシオンと共に郊外へ。


 綺麗に整地されていた地面に草木が増えてきた場所。ルイの視線の先にはレオやエマ。同期のみんな。カルマやハンナ、フーゴたち。今まで一緒に戦った人たちがそこにはいた。


 別れの挨拶はもう済んでいるのに彼らはここに集まった。

「シオン。改めてルイを頼むよ。お前さんがついていれば安心じゃ。」

「任せてください。彼を必ず強くして見せます。」


 カルマとシオンは固く手を結んだ。そんな中、フーゴは泣いてルイを離さなかった。それをみんなが笑い、和やかな雰囲気が漂っていた。同期たちと握手を済ませ、互いの目標を語り合った。ミアは獣人と里と國の架け橋に。エマはハンナみたいな綺麗で強い女性を目指すそうだ。そして……。ルイはレオと視線を交える。


「戻ってきたら俺と戦え。俺は最強になってるからよ。覚悟しとけ。」と口角をグイっと上げたレオが拳を突き出す。

「うん。いいよ。絶対に負けないように僕も強くなる。」


 ルイはレオと拳を合わせた。そして多くの人たちに見送られてルイは街の外に出た。



 ルイは先をどこまでも見通せそうな草原を歩いていた。乾いた風が草木の香りを運び、その風がルイの柔らかな髪を優しく揺らした。


「いい友達を持ったね。彼らはもっと強くなる。君も負けてられないね。」


 前を歩くシオンが柔らかな声色で言った。ルイは力強く「はい!」と返事をし、果てしなく続く道の先を輝く目で見ていた。


「これから先どんな困難があっても強くなって見せます。守りたいものを守るために、困っている人に手を差し伸べられるように。僕がハンターを目指した理由だから。」


 ルイの心を映し出すかのように、澄み渡る青い空がどこまでも広がっていた。


ご愛読ありがとうございます。

せっかくなので作者の気持ちを書こうと思います。お時間がある方はお付き合いください。

僕が初めて小説を書こうと思ったのがこのハンターズライフです。

しかし、何回も頓挫し、なかなか完成まで行きませんでした。あるあるだとは思いますが、このシーンは思いついたけど、そこまで書ききれない。と言うのを繰り返してました。

ある日ふと作品を賞に応募してみようと思い、1か月で書き上げました。賞にはかすりもしませんでしたが、書き上げた時の感動や達成感を今でも覚えています。

人はちょっとした気持ちの在り方で、できなかったこともできるようになります。きっと僕はこの先も作品を書き続けていくだろうな。


少し長めに書きましたが、一言だけ。読んでいただいてありがとうございます。少し目を通していただくだけでも僕の心は満たされます。


それでは次の作品でお会いできることを心より祈っています。 白モン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ