第4章 マイペースで行こう!
守秘義務の契約書を交わしたらもうお昼になっていた。
レン達3班が出勤してチョコレート菓子を作り始める。
それを見学してる6班に引っ越して来いと声を張る。
6班がいなくなると3班に告げた。
「ガトーショコラの作り方は一切見せるな!見せるのは大丈夫だと確認してからだ!」
「「「「「はい!」」」」」
1度寝てから来るか。チェンバーはカレーライスを食べたら、休憩室で寝た。
チェンバーをお姫様抱っこで俺の部屋に運び、まだ寝てるティムの隣りに寝かせる。
休みの日は賄いはない。お腹空いた。
予備の布団を出して床に敷きそこで寝た。
夕方にロクシターナさんに起こされた。
「休みにすまないが歓迎会を開きたい。いろいろ作ってくれないか?」
ティムとチェンバーを起こす。
「パーティーやるから、いろいろ作ろう!」
「お腹空いた!いっぱい作っていっぱい食べる!」
魔法カバンの中身を確認すると、今日の目玉はレインボーフィッシュらしくいっぱい送ってくれてるから、カブとクリームスープにしよう。お肉もいっぱいある。醤油と酒と摺り下ろしたショウガとニンニク、塩コショウで下味をつけてから揚げに。海老フライとフライドポテト、トリッパの煮込みに、子羊のグリル、バケットも焼いてブルスケッタもオシャレでいいね!ナスで作ったラザニアも、ハンバーグも、と作ってたら22:00になっていたが、皆パーティーにウキウキしてる。
サロンで行われた歓迎パーティーは、1時間給仕してる間に終わった。
「僕とチェンバーのナスのラザニアーーーッ!」
何一つ残ってない上に片付けまである。怒りの俺たちにショルツさんが内緒だとチョコバナナパフェを作ってくれた。
「ショルツさん助かりました」
「気を付けろよ。ヤツらは俺たちの胃袋を握っている。怒らせれば飯抜きだぞ?」
何だかごちゃごちゃ言ってるがあんまりひどい目に遭わされると飯抜きもあり得るかもね。
「おいひい~~~!」
「夜中のアイスは背徳的だ。美味!」
「何チェンバーはおじさんみたいなこと言ってるんだ?」
「夜中に食べると太るんでしょう?背徳的じゃあありませんか?」
「うん!わかるよぉ!背徳的ぃい!」
ティムの言い方!おかしくなってしまい、噴き出す。
0:00の始業時刻までに洗い物を片付けなければいけない。覚悟して洗い場に行くとレン達3班が片付けてくれていた。
「ありがとう!皆」
「こちらこそ。美味しかったです!お茶でもいかがですか?」
始業時刻までそれぐらいしかない。
チェンバーが紅茶を入れて皆でティータイム。
「まず、まともに合格したメンバーにクーベルチュールの扱い方を教える。頼み込んで合格した5名はクーベルチュールを刻ませる」
ショルツさんが噴き出す。
「ナナ様もなかなかなオーガだな」
「何でもやるって言ったんだからやらせる!」
「その人達、僕とチェンバーが見てようか?」
「「「「「「頼む!」」」」」」
などと作戦会議を繰り広げてるうちに真夜中になり、6班が出勤して来た。
クーベルチュールの扱い方を正規の合格者9名に教えてる内にティム達が、クーベルチュールを刻ませる作業を敗者復活戦を勝ち抜いた5人にやらせてる。
一応ティム達が、八つ当たりされないために説明しておく。
「俺の孫弟子のティムとチェンバーだ。クーベルチュールを開発した子達だから、チョコレート菓子のことは詳しい。クーベルチュールの作り方の質問は受け付けないが、チョコレート菓子の質問には答えてくれる。
お互いお手柔らかにな!」
「自己紹介します!ティム先生、チェンバー先生!サティスです!よろしくお願いします!」
おお!礼儀正しい!ポイント高いぞ!
くすぐったい気分で、合格者の方へと移動する。
「監修役のナナ=クロワッサンです。緑の月の間に皆さんに基本的な作業を覚えてもらいます。よろしくお願いします。まずは、チョコレート菓子から、教えて行きます。クーベルチュールと言うチョコレート菓子の元を加工して作るのですが、まず……」
緑の月の間に詰め込めるだけ詰め込む!
覚悟決めろよ。オメェら!!
◆○◆○◆sideサティス
この坊っちゃん達、いろいろ教えてくれるなぁ。
「これが湯煎です。ちなみにお湯が溶かしたクーベルチュールの中に入ったらアウトです!気を付けましょう」
「さっき、丸めて氷室の中に入れたのは?」
「ガナッシュは、もう少し後で登場します」
ふむふむ。溶かしたクーベルチュールの温度を調整する為に行うテンパリングという作業が案外難しくて何度かやり直すハメになって恥ずかしかったが、一発で出来たヤツはいなかった。
ガナッシュにクーベルチュールを纏わせてココアの海に転がしたら【トリュフ】の出来上がりだ。皆で喜んでいると、坊っちゃん達が皆で協力して数を作るよう言って出来上がりを魔法カバンに入れる。
初日はトリュフだけをオーガか、って言うほど作らされた。
2日目はチョコチップマフィンという一番売れてるお菓子の作り方を教わった。
ティム先生は感覚型、チェンバー先生は理論型。どっちも良いところが有る。最初はチェンバー先生に習って実技はティム先生に見せてもらうのがベストだ!
大量に作るので計算が必要だ。基本の量の5倍くらいが上手く作れる上限だった。
バターと砂糖を一体化させるのが、腕力を結構使う。後は小麦粉を混ぜる時にふんわりと混ぜるのが難しい。最初は練ってしまって、焼くとあんまり膨らまなかった。
「どんだけ混ぜてんの?!」
ティム先生に「メッ!!」された。ボウルを片手で少しづつ廻しながらリズミカルに混ぜてらっしゃるティム先生とチェンバー先生を見て必死で真似した。
ちゃんと焼けた商品を一つ皆で分け合う。
チェンバー先生も見逃してくれた。
お菓子の概念を変えるのに充分な衝撃の味だった。それから3日間俺たち7班は、チョコチップマフィンの係になった。腕がプルプル震える。
先生達はトリュフをテキパキと作ってらっしゃる。手を振るとティム先生がこちらに来た。
「腕が痛いでしょ?明日は別の作業させるから、今日は頑張って!」
6日目は食べて見てこの店の面接に来たお菓子、プリンだった。
またもや知らない調理方法で作られるデザートに俺たち7班は、喜びに沸いた。
「ダメ!こんなに焦がしたカラメルソースじゃアールディルの人達には受け入れられない!色がもっと薄かったでしょう?」
「チェンバー先生!でも色が濃い方が美味しそうです」
チェンバー先生はため息をつくと、1つだけ濃いカラメルソースのプリンを作られ俺たち7班に食べさせた。何だコレ?!苦っ!
「わかった?」
「「「「「すみませんでした!」」」」」
「アールディルの人は甘さがはっきりしてないと美味しくないみたいだから、カラメルソース作る時は薄いくらいがちょうど良いくらいだよ」
その日は一日中プリンを作っていた7班だった。
翌日はお休み。6日分の給金をもらった俺はナナ様の弟子が始めた食堂に出かけた。2つの列になっていて短い方に並んだらパンにおかずを挟んで売っていた!窓から手渡ししている、ゴツい男達。愛想はいいので、話してみた。
「食堂は何時から?」
「12:00からだけど、人気だから11:00には並ばないとハンバーグは食べられないぜ」
「ハンバーグは美味しかった!ナナ様達が作ってくれたんだ」
「そりゃ、最高だな!惣菜パンはローストビーフのサンドイッチしか無い。ちょっと高いが美味い」
「4つ買う!」
「毎度あり!」
一つ大銅貨3枚するのか!
紙包みを握りしめ店に帰るとナナ様の部屋を訪ねた。
ノックするとナナ様がでてきた。
「これを皆さんに食べさせたくて」
3つ渡して部屋に帰ろうとしたらナナ様が一緒に食べようと誘ってくれた。
テーブルでは勉強してたのか一般教養の教科書が乗っている。拗ねてる様子の俺の先生達。ハハーン?機嫌取りに俺を使うか?
「2人とも、サティスがわざわざヨールの店でお昼ごはん買って来てくれたよ?」
「サティスさんありがとう…わ?!ローストビーフのサンドイッチだああああ!」
喜ぶティム先生。チェンバー先生は嬉しそうだが、困っているようだった。ナナ様は文机の引き出しからお金を取り出すと3人分支払ってくれた。
「これじゃなかったら、もらったけどこれ高いからね!ありがとうサティス」
チェンバー先生も嬉しそうに食べ始めた。
なんだこの肉厚は?!食べると絶品の少し甘いソースが垂れてきて慌てて袖口をまくる。
「食べにくいけど美味しいよね!」
顔中で食べたのか、ソースがあちこちについてるティム先生の顔をナナ様がタオルで拭いている。
「サティスさん!聞いてよ!ナナ様ったら、6年生の一般教養まで全部終わらせちゃったんだよ?!」
この国の人ではないのに、それはすごい!
「ナナ様は大人だから、覚えてないと困ることがたくさんあるからです。褒めてあげて下さい」
「サティスさんは出来るの?」
「イヤミには慣れたので、それなりに」
「「アカン奴や!慣れないで!」」
思わず噴き出すと、怒った先生方に揉みくちゃにされて、何だかこんなに穏やかな日常がこの先も続くようにと、何かに祈った。