第3章 慈愛の女神の使徒のお仕事⑥
「ナナ様!!お体大丈夫ですか?!」
「まだ、寝てていいよ?ロ、ナナ様!」
「クルクルのコート以外は100点満点だな。ロ、ナナ様!」
ティムもチェンバーも不審者だからね!おしゃれなチェンバーのファッションチェックに引っ掛かったが痛くもかゆくも無い。
前世から俺はおしゃれじゃないし。洗濯さえしてたら十分だろ?
「ロギ!そういうとこ、な?!モテないぞ、セトさんに!」
「う、チェンバー先生指導よろしくお願いいたします!」
「王都では服、買いまくるから付いてきたまえ!」
「え、ええ~~?」
「素材は良いんだから、着る物にさえ気を使えば何とかなるはず!ならなかったら、体と心を鍛えろ!」
王都1日目の予定が決まった俺は預金が幾ら残ってたか真剣に心配した。服って高いんだよ!
今日の炊き出しはティムのリクエストで坦々スープとモチモチパン。モチモチパンはポン・デ・ケージョのことだ。
ティムはやや焦がして坦々スープに入れて食べるのが好きなのだ。
多分お餅を知ったらお餅でやるようになる。……と思いたい。
「その悪食治るといいね」
……チェンバー先生。俺が我慢してたのが台無しです。
ティムはチェンバーの頭を思い切り叩いていた。
本日はジョシュア達が懺悔を聞きに行ってるので3人だけで調理している。
「あすは何にする?」
「小麦粉のお団子が入った具だくさんのスープがいい!」
すいとん入りのけんちん汁か。あれも七味入れるから好きなんだろうな。
「チェンバーは?」
「肉がゴロゴロ入ったシチューが食べたいです」
「すいとん入りけんちん汁が朝、シチューが夜で」
ティムが洗い物をし始めた。坦々スープは売り切れたのに、モチモチパンは余っている。
小山になってるから、魔法カバンに入れた。
リクエストメニューはスープ1品だけ聞いて後の組み合わせは俺が、考えるようにしよう!あんまり、奇抜な取り合わせじゃ、残るからな。
気が付けばティムが大号泣していた。チェンバーが俺にラリアットを喰らわせている。
「その考え事口に出すクセ、クソだ!」
と言うわけで心を込めて謝ったら、坦々スープに合う「餅」が食べたいって、2人が言い出して明後日の朝につくことにした。餅米を洗って給水させておかなきゃいけないけど、こういうイベントって、良いかも!
2人は餅つきを楽しみにしてるみたいで、皆にふれ回っていたら、餅つき当日の朝、結構な人が、集まっていた。
バスの後ろに大きな荷物は入れていて、杵と臼もそこから、エルフのアージェイルさんが、出してくれた。
餅米を蒸して臼に移すと、アージェイルさんと、セトさんのコンビで餅つきを始めた。杵でつくのが、アージェイルさん。餅の位置を直しながら水を付けるのがセトさん。
「よいしょ!」「ほいしょ!」「よいしょ!」「ほいしょ!」と掛け声もソレっぽい。
ティムは餅つきがやりたいと言い出してチェンバーを相手にのんびりつき始めたが、チェンバーの手をつき損ねて2人して泣き出す。
ちょっとした恐怖体験だった。
アージェイルさんとセトさんが一気に餅つきして仕上げてしまって、おれは餅粉を手に付けて坦々スープに餅を丸めて投入し続けた。
「ティム、チェンバー、お餅1個づつ入れて配って!鍋の底に沈んだら、取れないよ!」
それを聞いたジョシュアとユージンも頑張って餅入り坦々スープを村人達に配った。
さて、初めての餅はどうかな?
ハフハフして食べているティムとビニョ~ンと伸ばして食べてるチェンバー。
俺が自分の分の坦々スープを持って2人の所へ行くと2人は口いっぱいに餅を頬張りながら、ニッコリ笑って見せた。
坦々スープは餅と一緒にお替わりされて、皆に2杯は行き渡った。
炊き出しの奇跡が発動して気怠かったが、気分は最高だ!
今日は昼から移動する日。ちょっと我慢すればバスで座ってられる。
洗い物が終わると皆一斉にバスに乗り込み、村人達に手を振って出発。
2番目の村まで夕方過ぎに到着した。
その村はやけに静かで村の外に止まって車中泊することにした。
チェンバーがお湯を魔法で出して紅茶を入れてくれたので余ったポン・デ・ケージョをここぞとばかりに出して夕飯にしていたら、エルフの護衛さん達が武装してバスの外に出て行く。
「気をつけて」
彼らは肯くと走り去っていく。
バスのドアが閉まる。
穗高様が皆に言う。
「フォレストウルフの巣が村の近くにあるからセト達が討伐に向かった!討伐が完了したら、解体をすることになるから、解体出来るヤツは早めに寝ておけ!」
俺達3人はリクライニングシートを倒して毛布をかぶり、速攻で寝た。
夜中過ぎに穗高様に起こされて、解体をやるんだなと、気合いを入れているとエルフの戦士達が帰って来た。
「お腹が減りました。何か作ってくれませんか?」
5人とも部活動の後の高校生みたいにお腹が減って脱力してるだけのようだ。
ビーフシチューをフォカッチャで、食べて貰った。皆の分作ったつもりだったけど、エルフさん達にもりもり全部食べられてしまった。
それからは、エルフさん達と500頭余りのフォレストウルフの解体。1人80頭がノルマ。
ティムとチェンバーは獅子奮迅の働きで2人で300頭解体していた。ただし大雑把なので、セトさんに教育的指導を喰らっていた。
「「ロギ~~!セトさんがぁ!」」
とうとうナナ様の時でもロギ呼びか。
「お前ら毛皮のこと考えて無いだろう?上手に解体したら、フォレストウルフならいいお値段になるんだぞ?せっかく苦労して傷つけずに倒した獲物がそんな扱いされてみろ?気を悪くして当たり前だ!」
2人がお葬式みたいになったが、反省してもらわないとこれから、困る。
「ほれ!五体投地して謝れ!」
エルフさん達は笑いを堪えて俺の裁きを見ている。
ティムとチェンバーは泣きじゃくりながら謝った。
「「毛皮を、ダメにし、てご、めんな、さい!どうやっ、て、解体し、たら、いい、ですか?」」
アージェイルさんとメリーマンさんが親切に教えていた。肉はピケしたあと、クレイジーソルトと塩コショウの2種類をまぶして1週間分、魔法で熟成させて、燻製するんだけど小屋を借りなきゃならない。
朝になったし、1番デカい家の扉を叩いてみた。俺の後ろにはジジルー神官達がいる。
使用人だろう男性は神官達の軍団にすぐ主を呼びに走った。
それから15トーン程待たされていかにも村長が出て来た。
俺を見て罵声を浴びせようと口を開いた男に、ジジルー神官が、俺を背後に隠してご挨拶する。
「大地の女神ハラナルニア神様の恵み遠き季節、よくご無事でお過ごしでした」
「あ、ああ、でもな、フォレストウルフが毎夜村まで来ては家畜を食べて行くからアンタ達が来てももてなしは出来ない!」
「承知しております。フォレストウルフは討伐いたしました。肉を加工したいので空き家か納屋を1軒貸してくれませんか?もちろんただでとは言いません」
村長の目がギラギラと光った。
「泊まる場所も必要じゃろう。我が家に泊まられるが良い。……もちろんその分たっぷりもらうがな!」
こんな欲に塗れた奴が村長なのか。
あんまり、滞在しないでおこう。