第2章 オバケ屋敷にて
怒濤の3日間が過ぎると、正装したロクシターナさんが迎えに来た。
転移魔法陣でエルフの里に行き、人魚の涙を体から取り出してもらい、遊び呆けていたティムとチェンバーを回収して、エルフ達にお礼を言い、リチルの学園の裏庭へと転移魔法陣で飛ばしてもらった。
ここまで半日。
炊き出しをいつも通りやり始めると休みの間に実家帰って食べられなかったのか細くなったクラスメイト達が手に椀を持ち、列に並ぶ。
何杯かお替わりさせながら聞くと、休みの間も俺達に食べさせて貰えば良いと言われたらしく泣いていた。
「じゃあ、お店で働きながら賄いを食べてみない?」
チアーズクラブの真骨頂【貧しい家庭にもお安く提供】である。
調理するのはもちろん皆で俺達は資金提供するだけ。
いわゆる大神殿の2番煎じだが、お金は小銅貨2枚取るかどうかだ。むろん儲けはない!
早速、3人で手分けして調理を教えるけれども覚える気概が無い。
これにはさすがにティムも怒ってお説教した。
「自分たちの為だよね?!何で覚えないのさ!!」
「だって、給金も無いんだろ?そんなのキツいだけじゃん。それなら、実家で粥啜ってる方がマシ!やーめた!」
「俺もそう思う」
「ごめんなさい。ただ働きはイヤなの。あ、炊き出しには明日も並ぶわよ」
そして誰も居なくなった。
怒髪衝天のティムとチェンバーをなだめて3人で御領主様に会いに行く。
子供食堂の概要説明をしたかったのと、チョコレートソースを手に入れたかったのとで、アポなしだが、許して貰おう。
◆○◆○◆
「子供を持つ親子の為の食堂か、良いけど利益が全く出ないぞ?良いのか?」
トビアス様は俺達が作って来た書類に目を通すと、そう問いかける。
「「「僕(俺)(私)達のチアーズクラブの活動は元々そういうものだから良いんです!」」」
「では、明日から母子家庭、父子家庭を対象に子供食堂の利用札を発行する。店はどこにあるんだ?」
「「「ちょっと待って、これから~」」」
「なんだ。まだなのか。やることがせっかちだな。じゃ、2週間後から利用札を使えるようにしておくから、それまでに店を開くように!」
「店はどこに開けば良いと思いますか?」
「そうだな、学区内に開けばお前たちの自己チューなクラスメイト達も勝手に食べに来られるだろうよ」
「「「そうですね」」」
「で?チョコレートソースは何に使うんだ?」
「学園内のパン屋で、クレープ売るんです。また食べたいっていう声が多くて」
「配当金から引いておくからな?あ、学区内か。あの屋敷が使えるかもしれないな…」
「買わせて下さい!!」
「学園通りに入って直ぐの黒い屋根の屋敷だ。古いがまだ十分に使える。厨房は改装した方がいいかもな」
するとティムとチェンバーが怯えたように身を縮める。
「「それって!2番地のオバケ屋敷じゃないか!」」
トビアス様は困った顔をした。
「俺の家の一つなんだけど、学生達に、イタズラされたりしてたから、オバケ屋敷の噂話を流したら新聞にまで載っちゃう騒ぎになってね。しばらく、使用人に管理させてるんだよ。有効活用してくれ。ちょっと安く譲るから」
「ありがとうございます」
「本も寄付するよ。後で届ける」
「誰も読まないよ!」
「私は読みたいです!」
ティムとチェンバーの両極端な意見に、トビアス様は目を丸くしている。
「謹んでいただきます。学生には何よりの財産になります」
するとトビアス様はプッと笑った。
「絵本とか図鑑もあるから、ティムくんも嫌がらずに読んで見てくれ」
「ええーーっ!何で僕だけ?!」
この正直者め。上辺だけでも喜べ!本は高いんだぞ?!
◆○◆○◆
翌日、俺達は昼の炊き出しが終わってから、2番地のオバケ屋敷に行って見ると早くも工事中だった。中を使用人さんに案内されて、わかったのだが、広いのだ!
ダンスホールもサロンもあるし、こんなに使い切れない!とか思ってたらチェンバーがイヤな感じの笑みを浮かべた。
「家庭教師を2~3人雇って、勉強する時間に当てるといいな」
俺とティムを指差す。
「一般教養の授業。必要であるだろう?特にダンスは2人ともヒドい」
「でも、誰が給仕するんだよ?」
チェンバーはもっとイヤな感じのする笑みを浮かべた。
「私たちを食い物にする愚かなクラスメイト達に、食事を賭けて1時間無償で手伝わせる!」
あ~あ。バカな奴ら。チェンバー怒らせてどうするんだよ。チェンバー怒ったら見境ないからティムより怖いんだぞ?
しかし、クラスメイト達は手伝わせるくらいなら食べないと言い出した。
まあ、それならそれでいいよ。
2週間の準備期間に家庭教師を引き受けてくれる高等科の学生と、昼、夜の賄いをタダで食べる代わりにお手伝いをしてくれる中等科の学生を学園の掲示板に広告を貼って募集したら、無償でいいから、勉強を教える代わりに賄いを食べたいという得がたい人達まで、ゲット出来た!
全部で20名のお手伝い。チェンバーがシフトを組んでしっかりサポートしてくれる。
そしてエルフの里から俺の魔法カバンに支援物資が届き、その代金を送ったら、米と小麦粉が山ほどまた届いた。
意地になってお金を受け取らせようとしても物資が送られて来る。倉庫と氷室がいっぱいになったので、お金を送るのを止めたら領収書が届いた。ただし、まだ、商品の未納分有り、と書かれていてロクシターナさんにむけて今回は、これでもう十分です!とお手紙を送った。返事はまだ無い。恐ろしい!
呪い粉はルベル先輩がちょっと安く売ってくれた。まとめて買ったからかもしれない。
ミルクはアリアナ先輩に頼んだら、その日の夜に届けてくれた。
夜に明日のパンを焼き、スープ類も仕上げておく。
チアーズクラブは活動メンバーを27人として皆が本拠地を新しい店に移した。
これで学園外での自由な行動が許される。
お屋敷の部屋はまだまだいっぱいあるのでどんだけ来ても大丈夫だ。
ちなみに俺達は3LDKの部屋に住んでいる。大きなベッドがドカンとあって、そこに3人で寝てる。
大神殿でも寝てたからもう慣れた。コイツら2人とも寂しがり屋の甘えん坊なのだ。
今日の朝食はベーコンエッグとロールパン3つ、サラダがもりもりだ。ちなみに卵は毎日新鮮なのが、アリアナ先輩んちから配達される。規格外の卵なので、お安く仕入れられるのだ。食後のデザートにプリンを付けたら皆がデレてる。
皆が一斉に登校。トビアス様の使用人さんマティスさんが、微笑んで見送ってくれた。
マティスさんは、俺達が雇ってる唯一の大人だ。
トビアス様がこの子供食堂をテストケースにするからマティスさんを雇って欲しいと言ったのだ。
ま、要するに心配されてる。その心配を受け入れた。
今日は実力テストの1日目。
一般教養からだから、阿鼻叫喚の地獄絵図がそこここで、繰り広げられる。
マナーは補習授業も受けてたからなんとかなった。ダンスは踊りきったけどパートナーの女の子に泣きながらビンタされた。ティムも両頰が腫れてる。しかも泣いてる。
チェンバーが魔法で氷を作ってくれたので、俺とティムは両頰を氷で冷やしながらチアーズクラブ本部へ帰る。
そこには厚顔にも程がある。手伝わせるくらいなら食べないと言ったクラスメイト達が食べる為に来てたのだ。
「アイツら!!「チェンバー耳貸して」うん?」
ティムがチェンバーに何か囁くとチェンバーの顔色が一気に悪くなった。
「それ、マズいぞ!ティム」
「でもねぇ、神様のおぼしめしだから、仕方ないよねえ?」
うわっ?!怒らせて怖いのはティムだ!
「ティム、こんな小さなこと大げさにしないでくれ。それに勝手ながらそれぞれの事情もあるだろうし、イチイチ気にしてたら保たないぞ?」
すると2人が左右から抱き付いて来た。
「「ロギ、大好き!」」
「ははは、俺もお前らが大好きだ!」
仲良く押しくらまんじゅうしながら屋敷の勝手口から入るとマティスさんが厨房でアレもこれもと、温めたり、パンを籠に盛り付けたりと大忙しだ。
慌てて俺達も荷物を放り出して手伝う。
その日のお昼は見たことある奴らばかりだったが、夕方から、ホントに小さい子がお父さんやお母さんとやってきた。
今日はハヤシライスにサラダ、デザートにプリンが付いてるスペシャルメニューだ。
お父さん、お母さん方にも味わってもらって安心して欲しい。
お父さんお母さん方は、仕事の途中で抜けて来たので預かって欲しいと言った。
今日の先輩たちは頷く。
「お預かりします」
「お母さんと息子さん合わせて小銅貨4枚です」
「ああ、ありがとうございます!明日からもよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。私はチアーズクラブ代表のチェンバー=スペンサーといいます。何かご要望がありましたら、また何なりとご相談ください」
今日は顔合わせ。ずっと挨拶回りをした俺達はクタクタになった。