第2章 変身!
万能薬をクロワッサン領に卸さない?
大変だ!ただでさえ冒険者のケガが絶えないというのに!
万能薬がなかったら、重篤な怪我人の治癒と解毒が出来ない!
「ナナ様に行かせます!後2日どうか、お待ちください!」
「クロワッサン騎士爵は重病ではないのですか?」
「精神的な病を克服しようと頑張っているのです!では、失礼します!ごめん、ティム、チェンバー後は任せた!」
エルフ休養所へ直行して、稔司様に会いたいというと屋敷の大広間にある転移陣からエルフの里へ送ってくれた。
稔司様の家に行こうとしたら、目の前に稔司様が出没した。
「稔司様!!俺から取り出した人魚の涙ちょうだい!ナナ様の、クロワッサン領のピンチなの!」
「はい、あーん」
「今はダメ!学園を休む手続きしないと!」
「グレンマイヤー公爵にさせるから、早く銀月教の総本山メールドール市国に行きなさい!ちょっとした事件になってますから言動がおかしい素振りは必要ないからね。ほら、あーん」
素直にあーんした。そして気付いた。このままでは制服が破れる!急いでパンイチになる。
「イタタタタ!!パンツが食い込む!すみません!どなたか、服を売って下さい」
「君は大人になると大きいね。イチジュール礼服貸してあげて」
エルフのおじいさんが、肩は古いが立派な礼服を貸して下さり、旅装はダンジョンの雑貨店で揃えて来てもらった。魔法カバンを持って来てることに気がついて、1度スラムに戻る。
「ティム!チェンバー!ごめん。魔法カバン持って行ってた!」
2人はこちらを見つめたまま動かない。
チェンバーは、疑問符付きの問い掛けをしてきた。
「ナナ様ですか?」
あ、そうだった!俺、今はナナ様だった!
うなづき、今度こそ魔法カバンをチェンバーに渡して2人を学園まで辻馬車で送って行く。
辻馬車の中でティムとチェンバーは大きくなった俺の腕を突いたり、膝に乗って顔を覗き込んだりして
「大人になったらこんなに大きいの!ズル~い!」「どこが平凡な顔立ちなんだよ!かっこいいし!」と文句を言っている。
誉め言葉にも聞こえて何だかむず痒い。
「2人とも、炊き出しの為に無理して体壊しちゃダメだよ?」
「「わかった!頑張って!ナナ様」」
「うん、ありがとう。行って来るね」
まずは、リチルの街中に帰って商業ギルドでお金を下ろす。
うわ、残額が白金貨11枚もあるの?!じゃ、白金貨1枚分を金貨でもらって、買ったばかりのグレイッシュワイバーンの皮のリュックに入れる。このリュックかっこいいから一目惚れだった。
次に冒険者ギルドに行き、護衛依頼を【地獄の番犬】に出し、明日の朝までに貸し馬車屋で幌馬車をとりあえずひと月前払いして、御者を雇う。そのまま幌馬車でマハトマ商会へ行き砂糖と塩、スパイスを売ってる壺ごと買う。ルベル先輩の口利きで小麦粉を入手し、米はベイ先輩の実家で10俵仕入れた。
誰にもバレなかった!
タウンハウスでお風呂に入ると胸の空いたワンピースで俺の部屋の前で待っている使用人を見つけ、御者さんにどうぞ、と押し付けた。これだけ暗かったら誰か解るまい!
ロギの部屋で誰にも邪魔されず朝まで寝た。
日の出前にタウンハウスを出て冒険者ギルド前に着くとサンドイッチ屋チアーズが開いていたので、並んで皆の分7つビッグエッグベーコンボリュームサンドを買う。
アジルさんが俺に気付いた。ニッコリ笑って会釈した。
俺の腕にはビッグエッグベーコンボリュームサンドが7本もあるのだ!腕を上げる挨拶は出来ない。
大急ぎで幌馬車に帰るともう、【地獄の番犬】の皆が幌馬車を取り囲んでる。
「急ぐんだけど何がいる?」
サンドイッチを一人1本渡しながら再会を喜んでいると、荷物の載せすぎで、2人しか、幌馬車に乗れないというので、馬を3頭借りた。
パンパとマミヤが幌馬車の荷台に乗って、メリンス達3人は馬で護衛。1日目は何も無く野営地に着いた。2日目、銀月教の神殿のある山道に上っている途中で、可愛い山賊さんが出た。武器は何も持たずお椀だけ捧げ持って道を遮っている15人くらいの団体だ。
1人に小銀貨5枚づつお椀に入れてあげると道が開いた。
なんで、銀月教のお膝元で、こんなに小さな子達を放置してるのかな?
不思議に思っている内に天を突くような美しい大理石の門が近づき神殿兵さんがこちらを見てひざまずく。
「あー、わかって無いみたいだから、言うけどお前の頭の左側から光が漏れてる。お前、聖痕持ちだったのかよ。通りでポーションみたいな効果がある料理なわけだよ!」
「...あああ、隠してたのに!台なし!」
「仕方ないよ。ここは真実を映す鏡だから、ま、頑張れ!」
根拠のない励ましを受けながら、神殿兵達に馬車を降りて正式礼して名乗りを上げる。
「お呼びされて無事罷り越しました。ナナ=ミュラー=クロワッサンです」
「そなた、ようやっと来たかえ。私もちっとも事情が解らぬゆえ、危うく天罰が降る所じゃったわい」
それは、咲き始めた花のような清廉な姿の少年達だった。ん?この顔どっかで見たぞ!
「あー!!さっきの山賊さん?!」
少年達は可笑しそうに微笑んだ。
「供の者は宿坊に止まって行くか?それとも帰るか?」
「何日滞在するかによるわ。1週間以内なら留まるけど」
マミヤが答えると少年達がうなずく。
「では、今夜は泊まって行かれよ。ソーソン、供の者たちを宿坊に」
「幌馬車の荷台に乗ってる食材をささやかですが喜捨します。お納め下さい」
少年達は幌馬車の中に入り検品して出て来た。
「ありがたくいただく。早速夕飯を作っていただきたいのだが?」
「ありがたき幸せ、光栄に思います!」
その前に報酬ターイム!金貨2枚づつ巾着に入れて【地獄の番犬】の皆に渡す。
「ありがとうございます。皆さん」
「おう!幌馬車と御者と馬は帰しておくから心配すんな!ガハハ」
「パンパあんたうるさいよ!」
マミヤから怒られたパンパは巨人なのに小さくなっていた。
一番偉いと思われる少年に厨房に案内してもらったら、厨房には山賊ごっこをやってた少年しかいない。
「料理人は?」
すると少年達は目を泳がせた。
まあ、想像はつく。
多分、不衛生だったのであろう事はこの厨房を見たら解る。
「作る前に掃除します!綺麗な厨房で美味しい食事は作られます!さぁ、頑張りましょう!」
掃除は得意らしく魔法で水垢をふやけさせて、デッキブラシをかけて水で流すのはおれがやった。水汲みは子供には重労働だろうからだ。
立て掛けられてたまな板はカビで真っ黒だ!
「何かまっすぐで切れにくいものない?」
「私が!」
少年達の一人が大理石の板を作ってくれた。
お礼にキャラメルを口に入れてやると、他の子たちも宝石やら、金銀財宝を出し始めたから慌てて止める。
「何もしなくてもお菓子ぐらいあげるから、出した物をしまいなさい!」
キャラメルを1つづつ少年達の口に放り込む。
やれやれ、前途多難だ。