第2章 女神の能力(ちから)
翌昼、アジルさんが学園前で待ち伏せしていた。
「私も炊き出しに参ります!」
「わあい!アジルさんが一緒だ!」
ティムは無邪気に喜んでいる。
チェンバーもどことなくホッとしてるようだ。
俺たちはアジルさんが乗って来た辻馬車に乗ってスラムを目指す。
昨日の夜は、ティムとチェンバーに【青月の星】から帰るなり、捕まり炊き出しに奇跡は起きなかったのを聞かされ泣き付かれた。
2人は俺が魔法を使って無理していると思っていて何でもかんでも自分一人でやらないで欲しいと素直な気持ちをぶつけてきたのだ。
そこでネタばらしをしたら、チェンバーが「奇跡」について教えてくれた。
「どんな神様が【聖痕】を与えてくれたのかにもよるけど戦いの神様イスパハーンの聖痕を授かった剣聖は一人で10万の軍隊を壊滅させたらしいし、海の神様ラナークケインの愛し子は魔魚だらけだった海を自分の人生を賭けて今の穏やかで魚が良く獲れる豊穣の海にした。彼の足には傷跡のような大きな聖痕が刻まれてたという。
魔法の神様ヤニュシュに聖痕を授かったエルフの賢者はエルフの精鋭と魔の大陸に渡り今も魔獣の大軍と戦っているんだって。シンジ様が心配してた。
……炊き出しの神様はどんな方で何をロギにさせたいのかな?ま、望まなければ与えられないから、シチューや雑炊を望んだ、ロギ次第だね」
というお話をしたのだが、料理の神様とは何か違う気がする。目に見えて技量が上がるのなら、夜食に食べたジャガイモのガレットはもっと美味しくなければいけなかった!
くだらない事を考えていると炊き出しの鍋の中身が少しになった。
目の前には、まだまだ痩せ細った子供達の行列。
炊き出しの神様、ポトフがこの子達に行き渡りますように。
もっと作って持ってくるとなると朝から晩まで作らなければならない。夜に仕込んで昼に仕上げて持ってくるとせいぜい大人が2~3人入るこの大鍋に1回分が限界なのだ。
すくい上げようとお玉を鍋に入れると明らかにさっきまでなかった位置までポトフがなみなみとある。
「炊き出しの神様ありがとう」
◆○◆○◆
「あれは貴方の魔力で足してます!ほーら、ご覧なさい。歩けもしない!」
アジルさん、むかつく。そんなにディスらなくってもいいでしょ?!俺の自業自得だけどさ!
「アジルさん、背負って下さい。…くっ!」
「ちょっと話があります。屋敷にいきます。ティムとチェンバーも来なさい」
辻馬車に乗って貴族街へ行くとまだ、半年前の暴動で焼け落ちている屋敷もある。
辻馬車は何も無い原っぱで俺たちを降ろした。馬車が去ると立派な屋敷が目の前に現れた。
騒ぎかけたティムの口をチェンバーが手で塞ぐ。
「ようこそ、エルフの里リチル休養所へ」
アジルさんがそう言って俺を小脇に抱えたまま、古くて大きな屋敷の中に入って行く。
それに2人も続く。
エルフ達が良く来たと歓迎してくれた。
屋敷の2階のゲストルームの応接セットでおもてなしされて顔がほころぶ。ミルクティーにマドレーヌは、至福だろう!
「さて、ロギが寝ないうちにサッサと話しましょうか」
ちょっとした緊張感がこの場を支配する。
「ロギ、貴方に聖痕を与えたのは、【美と慈愛の女神様ベラスティアーナ】です。貴方のボランティア精神に共感したんでしょうね。心の美しさと他人を慈しみ愛することを探求する女神様です。炊き出しの奇跡はだいたい、50%の割合で、起こるらしく、古い文献にも残っていました。ただ、間違った行いをするとすぐに天罰が下るので、振る舞いには重々注意して下さい。それでは、おやすみなさい」
爆弾投下したアジルさんが部屋から出て行った。
「50%なら、もっと作っておかないといけないよね。明日は雑炊にしよう!あれ?寝ちゃった?ロギ」
◆○◆○◆side???
働かなくても3食メシが喰える。炊き出しのガキ共に感謝、だな!ハハハハ!!
さて、鍋を温めて飯にするか!
鍋がゴトゴト動いている。
「ああん?!何だ?」
俺は蓋を取る。中からブラックマウスが溢れ出て来て俺に襲いかかる!
「何でブラックマウスなんかがいるんだよ!あのガキ共が入れたのか?!クソッ!痛え!あのガキ共、明日は袋叩きだ!」
俺はいなくなったブラックマウスに心底ほっとしていた。鍋を覗いて見る。
中には闇が蠢いていた。
闇は男の体を飲み込み、そうして、男の存在はこの世から消された。同様の事例が無用に炊き出しを奪って行った者たちの家で起こりそれは神罰だと街で囁かれた。
◆○◆○◆sideロギ=ウェルバー
あの厄介な大人の不労者が鍋を持って来なくなって俺達3人はおかしいなと感じていたら美と慈愛の女神様ベラスティアーナの神罰が下ったのが判明。何でも家に残ってた鍋の底に神罰紋がバッチリ残っていたようで、銀月教の神官達が、スラムをあちこちして神罰紋を鎮めている。
あんまり、ヒドい顔色をしてたから、炊き出しの雑炊を分けてあげた。大人何十人が鍋を持って来なければ余裕で足りる炊き出しなのだ。分けても罰は当たるまい。
神官達はきちんとお礼を言って仕事に戻って行った。
翌日もその翌日も神官達のお仕事は続く。今日は偉い神官様がくるみたいで、俺達が神殿兵にボディチェックされてびっくりした。
その日の炊き出しはミネストローネのカッペリーニ入り配って1時間近く経った頃、どこかの王子様が乗るような白と銀の装飾の馬車は、昨日、神官達がバタバタ倒れていた場所に停まる。
神官達が馬車のドアを開けた。
中から出てきたのは、腰の曲がったおばあちゃんで、しかし、その方が一歩踏み出す毎にどこかピリピリしていたスラムの空気が鎮められて行く。
ご祈禱をその場で大地に膝をついて始めると重かった空気が解放されて行くのが解るのかスラムの子供達もはしゃぎ始め、おばあちゃん神官様の真似をしている。微笑ましい光景が広がる。
ばあちゃん神官様は、神官達を伴ってこちらに来ると俺に話しかける。
「毎日の炊き出し、ありがとうございます。申し訳ないのですが、魔力を使ったからか、お腹が空いて仕方ないのです。一膳いただけませんか?」
ティムが慌ててミネストローネをたくさん入れる。チェンバーは他の神官達に配布する。
ティムがおばあちゃん神官様に丼とフォークを渡すと早速食べ始めた。
「美味しく、その上疲労軽減効果がある。ふふふ、女神様も粋な計らいをなさる」
何?!疲労軽減効果なんか付けようにもつけられないぞ!……って言うか、バレてねえか?!
「銀月教協会本部より、ナナ=ミュラー=クロワッサン騎士爵にお菓子の作り方の指導を頼んだのですが、重病で臥せってるとのお返事がありました。依頼の形を取ってますが、王命と同じく断れません。もし、ウソだと分かったら……弟子の貴方から何とか促して下さい」
「……ナナ様は、本当に重病です。その代わりに俺が!菓子作りを教えます!ただ、学園を休まないといけないので、手続きに2日もらってもいいですか?」
「そうですか。ナナ様には気の毒な事になりますが、それもまた仕方ないこと」
「気の毒な事ってどんなこと?」
ティム?!聞くなよ!そんなこと!
おばあちゃん神官様はニッコリ笑う。
「神殿で作ってる万能薬をクロワッサン領に降ろさないだけです」




