第2章 エルフブートキャンプ
「俺が精霊?いや、ムリなんじゃないですか?」
「簡単にできるよ。君が望んでくれたら。俺の力で眷族に加えられる。まあ、長い人生考えてみて。ちなみに、こんなに気軽にヘッドハンティングしてると思わないでね」
泣いてたのが遠くに放り投げられた感じ。
「俺も俗物だよ。むしろ神様なんかになってからは好き勝手にしかしてないし、ほら、綺麗なお嫁さんもいる」
稔司様はレニヴァル様の手を取って口付けて見せた。レニヴァル様が真っ赤になって倒れた。うん、嫁はウソだな!
「今困ってることある?」
「実は何店舗か出店したいんですが、資金調達が上手くいかなくて困ってます」
稔司様はレニヴァル様をベンチチェストに寝かせて抹茶を点ててくれた。うわ、美味しい!マナーがわからないからそのままいただいたが、稔司様はうるさく言わなかった。
「カレッドから報告は受けてるけど、チアーズクラブ自体の活動が利益が上がらないからリチル市内に店をもちたいんだろ?」
「その通りです」
「ロクシターナさん、出て来てくれる?」
タペストリーの裏に隠れていたようだ。ロクシターナさんとそっくりな顔の青年が出て来た。
「どう思う?」
「里として協力していいかと思います。お金は唸るほどありますし」
「ベッツィさん達大工を派遣して店を何軒かリフォームして赤休みの間に」
「セト、行け」
「はい!父上」
「ちょっと席を外すね」
稔司様が厨房に行くとロクシターナさんが話しかけて来た。
「野菜なんかは足りないんじゃないかな?」
「あ、はい。心配なのは、冬の間のカカオなんですけど。あ、持って来たんで食べてみて下さい」
ガトウショコラとザッハトルテを1台づつ持って来たのだ。解体用のナイフで切ってワンピース食べさせる。
「……シンジ様の作った物より美味しい!スゴいぞ!ロギ」
「俺とレニの分!残しといてよ!ロクシターナさん!!」
「ええ、後3つしか食べられないのか…残念!」
「また、持って来ますね」
厨房から親子丼を4つトレーに載せて稔司様が応接室に帰って来た。
久しぶりの箸での食事は楽しかった。
レニヴァル様も起きて箸で食べるザッハトルテは大好評だった。
「ロギは甘味のバランスを取るのが上手い。これはセンスだね。俺はどっちかというと甘い物は苦手なんだ。好きな人にも何度か駄目出しされたしね」
その後2人でシュークリーム対決したら、食べないうちに香りで軍配が俺に上がった。
大量のシュークリームは合流した皆と一緒に食べた。
「こっちのシュークリーム甘くない!」
「ぐっ!」
ティムよ。正直ならいいってもんじゃないんだぞ?
チェンバーは皮がパリッとして、甘さ控えめの稔司様のシュークリームが気に入ったらしい。
「あの子、魔法使いでしょう?」
「そうです」
「シュークリームについてる神気を味わってる可能性大」
ナニソレ。美味しさの問題云々じゃないじゃん!
2日目からはダンジョンに潜って、チビッコエルフ達によるブートキャンプ。
群れで向かってくるスラッシュボアに逃げ腰で弓を引く。当然当たらない。お仕置きとして、3人で1頭のスラッシュボアを仕留めることをずっと1日の中で繰り返していたら、3人で1頭仕留めるのは楽に出来るようになった。
夕飯を作って食べさせて、屋外練習場で弓を引く訓練。終わったのは真夜中で、クタクタの体を練習場の床に布団を敷いて休めた。
朝早く起こされて朝食の用意。桃のシェイクとフレンチトースト4枚!野菜サラダ山盛り。
夕飯までまた、ダンジョンでブートキャンプ。矢が当たるようにはなったが、貫通力で負けている。
5日目までチビッコエルフ達のブートキャンプは続き、終わったと思ったら、ロクシターナさん達の大人エルフ達のブートキャンプになった。内容は変わらないが、弓矢の引き方から離すまでの解説付きになって俺達3人は11日目にしてようやく弓矢に開眼した。
後は1人づつ盾、剣、魔法の指導を実戦形式で10日叩き込まれ涙と鼻水で顔を汚しながら1人で大岩のようなスラッシュボアに向かって行く日々を送った。最後の3日間はドライフルーツの作り方を収穫から乾燥まで仕込まれた。
「充実した赤休みだったね」
「「「ええ」」」
「またおいで鍛えてあげる」
「「「エエエーーッ!」」」
「店の話はセトくんをお使いに送るから金曜日にね!」
「シンジ様はオーガだ…」
ティムよ。正直ならいいってもんじゃないんだぞ?危険をひしひしと感じる。
「じゃ、次はオーガが倒せるようになろうね、ティム」
「うわぁああああん!ごめんなしゃい!ごめんなしゃい!ごめんなしゃい!」
「「ティムが失礼しました!お許しください」」
3人で土下座。ティムひとりの問題じゃないからな!
「何てね!冗談!冗談!また来てね!」
「ありがとうございます!皆さま」
「「「「「「「また来いよ!」」」」」」」
転移魔法陣に3人で載って、学園の裏庭に飛ばしてもらった。
監督室に3人で帰ってまずお風呂に入った。一皮むけた俺達3人はご飯を作るため弟子パン屋に移動したら、アリアナ先輩とレーゼ先輩が待ち構えていた。
「で、共同出店の話何だけどね、私たちやりたいことが全く違うのよ!私はゆっくり女の子達がお茶するお店がいいの!なのにレーゼくんは食べさせない持ち帰りさせる露店みたいなお店が理想なのよ~!!」
「アリアナ先輩は【青月の星】と組めばまとまるんじゃない?」
「バカ!ティムよせ」
「あらやだ!閃いちゃった!行って来るわ!」
「「「ティム!!」」」
「だって、イアン先輩達計算不得意分野ぽいんだもん」
「ティム、見た目で判断しちゃ駄目だよ!ヤジル先輩もイアン先輩もあんな感じだけど、脳筋じゃないかもしれないでしょう!」
「「「ロギ、それな。言うな」」」
アリアナ先輩がオネエ全開で戻って来た。
そしてティムを捕まえると頰にキスをした。
ティムは石になった!
「上手く行っちゃったわ!店の内装も外観も、経営も私がやりたいことをやってちょうだいって!」
内装と外観?!ベッツィさんに連絡取らなきゃ!
「へ、へぇ。どんな内装と外観にするの?」
「店ができはじめたら大工さんに直接言うわ」
「あの~。出資者が出来たから何軒か店を模様替えしてくれるんだよね。赤休みの間に」
「エエエーーッ!大変!!明日そこに案内してちょうだい!!」
「それが、連絡が来るまで詳しいことは一つもわからないし、俺は明日からチョコレート工場の方でチョコレート菓子の指導に当たるから、やってあげられない」
「じゃ、チェンバーと僕がエルフの大工さん達を探してあげる!」
ティムはまた捕まってキスされて石になった。チェンバーはいつでも逃げられるように出入り口に陣取っていた。
明日から始まる赤休み後半に胸騒ぎを覚えながら、また前に進むのだ。