第2章 受験
良く眠れないまま、朝を迎えた。
フワフワの食パンと不味~いジャムのギャップにやられていると紅茶がサーヴされた。
ガスパールの入れた物の方がかなり美味しい。
どうやら、寄せ集めの使用人達らしいが、数だけは多い。
コックのディール。執事のゴルド、メイドが2人。こんな小さな屋敷に4人もいる!びっくりだ。まともに仕事してるのは執事のゴルドくらいだ。
ナナ様宛ての手紙や書類を分類して処理している。あまり、数品少ないが、無茶ぶりしてる内容の手紙が多く、返事に四苦八苦してて、可哀想だった。まだ、メッチャ若いのにこのままだと禿げそうだ。
頑張れゴルド!
筆記用具はゴルドがお古をくれた。
服はアールディル王国の貴族服を仕立ててもらっていたらしい。
ビンガ王国よりもシンプルな貴族服を着て、まだまだ寒いアールディル王国の緑の月をスプリングコートをはおり、新品の帆布のカバンを斜めがけして、迎えを待つ。
その間にゴルドからナナ様の収益から俺の生活費が出されると聞いた。
「…ナナ様にお礼のお手紙書いてもよろしいでしょうか?」
ゴルドはうなづく。
「帰ってから添削してあげますから、書いてご覧なさい」
「はい、ありがとうございます」
「病弱で領地から出ずに過ごされたそうですが、今朝もあまり、食欲が無かったですね?今日は大丈夫ですか?」
何だ?!その設定!聞いてないし!
「ナナ様の食事を食べると大概の物があまり、美味しいと思えなくなるのです。残して申し訳ありません」
「ロギ様は、はっきり言うのですね。わかりました。食事の事は、考えがあります。ディールはクビにしましょう」
何ソレ、怖っ!?
玄関のドアがノックされて迎えが来たのがわかると、俺は椅子から立ち上がり、ゴルドが開けてくれたドアから外に出る。
そこには屋敷には不釣り合いな立派な黒いつやつやした馬車があった。
「トビアス様…」
何でいるの!?忙しいんだよね?!
御者が開けてくれたドアから乗り込みトビアス様に挨拶する。
「お忙しい中起こしいただきありがとうございます」
「いい、いい。堅苦しいのは好きじゃない。普通に話して」
お付きの人がとんでもないって、顔をしているが、知ったこっちゃねえ!
「今日は試験じゃないの?トビアス様がどうしてきてるの?」
「転ばぬ先の杖、みたいな物かな?私も学校に用があるから行くんだ。心配しなくていい」
「はい。あのう、今から受験する学校って、どんな学科があるの?」
「商業科が一番大きいけど、普通科も見劣りしないよ。グレンマイヤー公爵領の全貴族が通う由緒正しい学園だよ。留学生とかも多いけど、貴族の留学生は初めてなんだ。道筋はつけてあげるから、良い子にしてるように!」
初めての貴族の留学生って、めちゃくちゃ目立つんじゃない?!
「だから、料理はしたらダメだ。ピサロ、着替えさせて」
俺は下着に剥かれて由緒正しそうなお古の貴族服に着替えさせられ、髪の毛をドレッドヘアっぽく編み上げられてしまった。
それを頭頂部でポニーテールに束ねた。
「よしよし、ちゃんと人生からはみ出した感じが出せたね。校長先生に何を言われても、ツンとした顔して答えちゃダメだからね」
「待って下さい!それって俺が問題児みたいじゃないですか!」
トビアス様は俺を軽く睨み付けた。
「その年でダンスもマナーも常識も知らない。学力もどれだけあるか解らない。いくら病弱でも、勉強はさせられてるからね?普通は。だから、わかりやすく問題児を入学させるって言う策で行くよ!」
「そんなぁ…俺の学園生活ぅ」
料理もダメ、不良になれ。そんなカオスな学園生活があってたまるか!
あーだこーだ言ってる内に学園についたら、その大きさにあ然とした。
「トビアス様?これ、小学校?!」
日本のメジャーな大学ぐらいの建物と敷地に若干興奮した。
「しょうがっこう?ああ、初等科の事か。中等科と高等科合わせてこの校舎だ。地方都市にある学園としてはここが一番大きいんだ。
王都の学園はもっと大きいぞ」
「すごい、スゴ~い!!」
馬車から降りると不良のフリ。ネクタイを緩めてジャケットを着崩し他人を見るときは下から上に睨み付けるように。
「これはこれは、トビアス殿下朝早くからご足労いただき申し訳ありません」
「いや、こっちもお願いがあっての事だから何の問題も無い。ロギ!挨拶は!」
アゴを少し引いただけで会釈の代わり、ボソッと一言。
「ロギ=ウェルバー」
「ウェルバー君、君は寮生活を望むかね?」
そうか!寮に入れば料理する隙があるかも!
「全部、使用人にやらせるから、厨房とかがついた部屋がいい」
トビアス様の冷たい視線に負けてなるものか!
「試験に合格したら、ですな。品性不良な馬鹿を我が学園に入園させるわけにはいけませんからな」
ツンツンだ。怒ってる。
トビアス様と別れて連れて来られたのは保健室っぽい薬草の匂いがする部屋。
紐で綴じたテスト用紙を机の上に置かれてテスト開始!
簡単すぎる数学と大陸語の紙束の残りは魔法に関する簡単な常識問題らしいが、サッパリわからん!白紙で出すのに決定。
次は貴族に送る手紙の定型文を書く問題。チョロいぜ。バリエーション豊富にあれこれ書きまくった!俺の厨房の為に!!
商業科の問題も概ね解けた。
外国語は、簡単な挨拶ぐらいしか話せないが書く方なら込み入った事情も、ホラ、簡単!
書けるだけの外国語で同じ文章を書いておいた。
薬草学は、わかる分だけ書いてテスト終了!
紅茶色の髪の社畜っぽい先生が、採点が終わるまでボーッとして待っていると、採点が終わった途端、両肩をつかんで揺すられた。
「商業科に来て下さい!1軒屋を用意しますから!!」
「俺、男爵家のやっと出来た後継ぎ」
社畜先生は、俺を立たせるとダッシュで校長室に向かった。
◆○◆○◆
「魔法は、どうして白紙なんだ?」
「病弱だったから、父上が許してくれなかった。薬草学もあんまり、外に興味が湧かないように、って教えてもらえなかった。ナナ様が料理に使う分は見せてくれたから、覚えてた」
病弱設定使わせてもらった~。
校長先生は丹念にテスト用紙を見ると「商業科」での入園を許可した。
「普通科は、魔法が使えること前提だからのう。魔法が使えるようになったら、普通科に転入すればよい。ところでお金は持っているか?」
首を左右に振る。
「持ってないなら、厨房と風呂が付いている部屋は一つだけだ。部室棟の端っこにある監督室がそこに当たる。暖炉が付いて無いから白の月までに何とか金策しなさい。ティンドル先生、案内してあげなさい。あ、そうだ、使用人は1人だけにしなさい。部屋が2つしかないからな」
「わかりました」
「それから」
まだあるのかよ!
「監督室に住んでることは内緒にしておくように」
「ハイ!」
こうして、俺の学園生活が始まったのだった。