エルフの里
緑に囲まれた恵み深い森。果樹があちこちにあり、秋の実を付けて枝をしならせているかと思えば、畑には夏の野菜が実をつけている。
「やあ、いらっしゃい。……待て待て!君どんなムリしてるの?!」
背の高いその人は優しそうな顔をした日本人だった。
「あああ、もう!勝手に時が進んじゃってるから、君、今、元に戻ったら7才くらいになっていると思うよ?人魚の涙、取り出すよ?」
何い?!7才だと?!
ガスパールが持って来た藻塩の塊は人魚の涙だったらしい。
稔司様が、俺の体内から転移させて取り出された人魚の涙は食べる前の半分くらいになっていて、俺は自分の体が久しぶりに小さくなる感覚を味わった。
水鏡を見せられて完璧に育ち過ぎてる事がわかった。10才くらいだ。
学校に通わないといけないんだけど、ロギ=ウェルバーでも、ナナ=ミュラー=クロワッサンでもない自分になるんだよな?
どうするのさ!それ!
「ロギ=ウェルバーの方が良いんじゃないか?ナナ=ミュラー=クロワッサン子爵ははめられようとしてるんなら、保身に走った方が良い。今日から5日間はその姿で過ごせばいい。
里の中の物を使って、料理を作ってくれないか?」
エルフ達が1500人もいる事を聞いて、お肉の調達を任せた。
ロクシターナさんという超イケメンエルフが何のお肉がいいか、聞いたので「ポーク」というとスマッシュボアが小山になるくらい届いた。
ミルフィーユぼたん鍋だね。
何とここには醤油があった。涙が出そうだった。みりんまであるし、真っ当な和食が食べられる。
日本人は3人いて、パン職人の穗高さんが一番年上の24才。続いてリーダーらしきコックの稔司様が、18才。続いて農家の実李くんが15才。
皆、いい人だ。穗高さんと実李くんは兄弟で異世界転移してこちら側に来たという。
実家は豪農で村一つ分の畑や田んぼを持っていたらしい。
その経験を活かして農家をやったら、今のエルフの里みたいになったようだ。
「いろいろ教えて下さい!」
白菜とスマッシュボアの薄切り肉を重ねながら農業のいろはを教わった。
稔司様は料理したくてウズウズしてたようだが、一番綺麗なエルフに怒られて断念していた。
何と稔司様はそのエルフ、レニヴァル様と同性婚してるらしく頭が上がらないらしい。初めて同性婚した人を見たけど、あれだけ綺麗な相手ならアリだろう!
やがて広場に巨大な鍋が用意されてそこにミルフィーユ状に肉と重ねて切った白菜をぎちぎちに並べて水を少量入れて下から火を付ける。
いつもはテーブルだという巨大な長方形の竃にドンドンあちこちから薪をくべる。
白菜が透き通って来たら味付けにここまで温存してきたキムチを9樽全部inする。
醤油とみりんを足して円やかな味付けにすると、もう、エルフの子供達と連れて来た子供達が、匂いで我慢出来なくなったらしい。
こっそり食べてる。つい、面白くて笑うとソレでバレた子供達全員が、里長のロクシターナさんにゲンコツされていた。
「食べて下さい!どうぞ!」
皆さん初めて食べるキムチ鍋に熱狂していた。実李くんがリスが頬袋いっぱいにドングリ詰めるくらい口に詰め込んで食べていて、やっぱり少年たちは食べなきゃねと、俺も鍋奉行しながら思っていた。
2日目は、日本人転移、転生者組、皆で保存食作り。皆さんキムチがお気に召したようで白菜を見上げるほど収穫して来た。
洗うのは子供達に任せてまずは4分の1に切った白菜を天日で1日干す。
今日も何か作って欲しいと期待されたのでパエリアを作った。巨大鍋で作るパエリアは、ちょっとお焦げが出来たけど概ね好評だった。
次の日は人数分×3の惣菜パンの仕込みから始まった。
穗高さんがレニヴァル様と里の女将さん達とで、手伝ってくれたのでパン作りは順調に進み各家のオーブンで焼かれた。
お惣菜はエルフの子供達と子供達全員の可愛いバケツリレー方式のお手伝いで、いろいろたくさん出来た。
穗高さんがナンを焼いてくれたので甘口のお家カレーを大人が入れる鍋に5つ分作った。
「「「「「「「「「「シンジ様のと違うけど、甘くて美味しい!!」」」」」」」」」」」」
カラメルソース隠し味に入れたからな。甘いけど香ばしいカレーになってるはずだ。
稔司様の料理、気になる!
食べさせてくれないかなぁ?
ジッと見てると手招きされて、一つの大きめの民家に入る。
「えっと、食べさせてあげたいんだけど、君にどんな影響が出るかわからないし、俺の民じゃないから、ダメだってレニから言われているんだよね。ごめんね」
「……じゃあ、民になったら食べられるんですか?!」
「ごめん、エルフじゃないとダメなんだ。だからお詫びにいろんなソース類を教えてあげるよ」
稔司様の経歴を聞いてびっくりした。あの、世界的オーベルジュ「ラカン」で、働いていたという。
という事は、教えてもらうのは門外不出の秘伝のソース!これは滾る!
一日中、メモを取りながら、稔司様のストーカーと化した俺に「さすがシンジ様が選んだ弟子。本当に人間ですか?」と周囲からの生暖かいウワサが流れていたとか。
徹夜して帰る日になってエルフの里で作った醤油を半年分買って帰った。
最後に稔司様と握手したら、ロクシターナさんとレニヴァル様が絶叫した。
俺は昏倒してどうやってクロワッサン子爵領に帰ったのか覚えてない。
気が付いた時にはアールディル王国の東の都市リチルの貴族街の端っこにあるナナ=ミュラー=クロワッサン邸の自室のベッドの上だった。
リチルに家があるなんて聞いてないし、何でこんなことになっているのか、ガスパールを探そうとしてガスパールが一緒に来てない事を知らされて再びパニックになる。
「ごめん、ごめん。来るのが遅くなって!」
部屋に入って来たのはアールディル王国の元王子トビアス=グレンマイヤー様だった。
手には分厚い手紙が握られている。
それを俺に差し出した。
「ガスパールからだよ」
「ありがとうございます!」
自分の高い声にやっとまだ子供のままな事に気づき、顔が強張る。
トビアス様は時間が無いようでしきりに壁掛け時計を見ている。
何はともあれ手紙!!
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ロギ様
驚かれた事でしょう。
私が万が一の為に建てさせていたナナ様のお家です。
人魚の涙があんな効果があるとは知りませんでした。お許しください。
とりあえずロギ様は留学生としてそちらで真っ当に学んで下さい。
ナナ様は料理人の影武者を用意いたしました。魔導具でナナ様に見えるようにしておりますのでご安心下さい。
執務は不肖私が勤めさせていただきます。
それから、エルフの里に行った事で、何かの魔法を使えるようになった可能性が高いらしいです。驚かないで下さいとロクシターナさんという方からの伝言です。
くれぐれもロギ様がナナ様だとバレないように慎重に行動して下さい。
この手紙は燃やして下さい。
貴方の僕、ガスパール
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暖炉で手紙を丹念に燃やす。
「明日の朝7:30に迎えを寄越すから、筆記用具を持って貴族の装いで待っていなさい」
「お忙しいところわざわざ来ていただきありがとうございます」
「いや、ロギに会って見たかったんだ。気にするな。ではな。ああ、そうそう料理はするなよ?」
グハッ!そうか、そこからバレるか。
「我慢出来たら…」
トビアス様は大爆笑して去って行った。
さて、明日からどうなるやら!




