再会
酒場【銀のヴァンデ】はパートナーの魔獣との飯屋として定着しつつある。
思ってたより、荒くれ者や泥酔者が出ず酒場としては成功してると言い難いが食事処としては大成功を収めている。
なんだかんだ言って開店から、8日経ち2軒目、3軒目の酒場の店舗も建ち、辞めた冒険者たちを待っているのだが、ヒュー一家しか来ないから宿を建てるのを待ってもらっている。
面倒くさいけど冒険者ギルドのギルドマスターを訪ねたら、何だか顔色が悪かった。
「そ、その申し訳ない!!ケガで引退した冒険者たちは、冒険者ギルドの解体作業を他の領地でやっている事が解った!」
「つまり、 もうこれ以上、人材は来ないと?」
「申し訳ない!そのう~、もっと申し訳ないのだが、この領地で職に困っている者はいないから、余所から持って来て下さい!」
カチーン!
自分で煽っといて、人材がいないから丸投げ!?いい加減にしてくれ!
俺に出せる1番低い声で任せてくれと睨みつけながら凄んだら、お茶を持って来た馬鹿受け付け嬢が、コメカミの血管が切れそうなことをスラリと言う。
「見切り発車で3軒も建てるからですぅ!お調子者なんですねぇ?くすくす」
ギルドマスターがもはや、土気色の顔をしてる。
「馬鹿女、俺はギルドマスターの依頼で3軒も建てたんだが?」
「え?!あり得なぁい!ギルドマスター頭いいしぃ。受け取り方に問題があったんでしょぅ?「黙れ!メイサ!!間違いなく、私が依頼したんだ!」ええ?ギルドマスター賠償請求訴訟されたらぁ、負けますよぉ?」
メイサも分の悪さを感じたらしく、俺が帰るまで一言も発しなかった。
酒場【銀のヴァンデ】に帰ってからエルフ達、大工さんにそれを話すと一緒になって考えてくれた。
「ヨールとショルツは家族全員で来るんだよな?……問題は宿の従業員、か。よし!任せとけ!シンジ様と同郷のお前さんを私たちが、見捨てるもんか!出稼ぎの先を探してたしな!」
店内で雑炊を食べながら話していたら、赤級の冒険者の子供達が近寄って来た。
「それ、僕らがやっちゃいけませんか?」
「やってもいいけど、冒険者は辞めるのか?」
「「「「「好きでやってるんじゃないから、他の仕事があるなら、辞めたい!」」」」」
「でも、宿は大変だよ?洗濯物が特に」
「はい!僕は料理人になって、美味しいものをお腹いっぱい貧しい冒険者に食べさせたいです!」
んー。宿は素泊まりだから、俺がある程度まで館で仕込むか。
ヒュー一家には8日間のバリエーションは教えたから後は自分たちで頑張って貰おう。
だって、ここ2~3日俺がやることないし。
15才くらいに見える赤毛のチビに名前を聞く。
「俺はナナ。お前は?」
「マール!」
「マールは俺が料理を教える。他の子供達も冒険者辞めたいなら付いてこい。カレッドさん、エルフの方はお断りして下さい。それから、宿を建てて下さい。よろしくお願いします」
「よし!じゃ、今から建てるぞ!」
「「「「「「おう!」」」」」」
子供達を幌馬車の荷台に載せて、領主館へと運ぶ。
領主館につくと大人しくなった子供達にどうしたのか聞くと。
「失礼致しました!弟分には、僕が言って聞かせますからどうか、今までのご無礼をお許し下さい!」
ガタガタと震えている子供達。
「そんなことはいいから、馬車から降りて屋敷の中の仕事を手伝ってくれ。1日2食付きで大銅貨3枚でいいか?」
ホントは3食食べさせたいんだけど、俺が昼にいない可能性が高いから、昼は抜き。
この条件でも子供達は驚いている。
「良いんですか?」
「その前にマールは貴族の出身だろう?何故冒険者に?」
異様に綺麗な言葉遣い。へりくだった態度。自分より幼い者を守ろうとする紳士的な振る舞い。顔も汚してるが、整った顔をしてる。
「私が8子だからです!ナナ様はクロワッサン子爵でしょう?」
「俺はただの料理が少し得意な男だよ。公の場では、少しばかり、敬って貰わなければいけないけど、普段は普通に接してくれたら嬉しい」
「そんなことあるわけないでしょう?ナナ様。当家で仕事するからには、プロフェッショナルな使用人として仕込みます!右から名前を言いなさい」
ガスパールの登場に子供達の背筋が伸びる。
「セイカです!」
「コーナンです!」
「ラッシュです!」
「ネルソンです!」
「カオです!」
「マーカスです!」
「アンガスです!」
「よろしい!私の名はガスパール=マズルカ。ナナ様の家令です。この屋敷に来たからにはマナーを学んで在野に出てもらいます!まずは、お風呂からです!
そんなに汚い格好でナナ様の周りをうろつくのはあり得ません!」
鬼軍曹ですか?アンタは!
俺の半年前のお古があるので、マールとネルソンとアンガスにはちょうどくらいだろう。
他の子供達には大きい。どうしようかと魔法カバンを前に自室で考えてるとドラゴン便が、前庭に降り立つ。慌てて出て行くと食材じゃなく、ショルツとヨールだった!
ヨールは随分たくさん兄弟姉妹が居るみたいで早速幌馬車の荷台いっぱいに乗り込んでショルツの苦笑を誘っていた。
ショルツは平民でも良いとこのお嬢様をエスコートしてドラゴン便から降ろしている。
「初めまして、こんな格好で失礼します。ナナ=ミュラー=クロワッサンです」
「カレン=デボアです。お会い出来て光栄です」
「デボア家というと、男爵家の!こんなに美しいお嬢様がいるなら、俺がご挨拶に行ったのに!!クッ!悔しい」
わざとらしく悔しがるとショルツはご機嫌の笑顔でカレン嬢を腕の中に収めて舌を出す。
「もう俺のですからあげません。残念でした」
カレン嬢は頰を染めて恥じらいながらも幸せそうである。
とりあえず幌馬車でそれぞれの店に送って行く。まず、領主館に近い高級酒場から。
あってない様な貴族街の端っこに、やたらと小綺麗な店がある。
30席くらいのオシャレなカウンターバーと言ったお店に、カレン嬢とショルツは一目惚れした。はい、片付いた!
住居部分が狭いので、どのみち一家族しか住めないから、ショルツ達が使うのは決まっていたのだ。
「頼んだぞ!ショルツ」
「店の代金は!?」
「要らないよ!無理やり来てもらったんだから!店はいつから営業する?」
「5日後ですね。パンもウチは売りたいんで」
「好きにしてくれ。ショルツの店だ。また、明日の昼に来る」
ショルツは片手を上げて返事の代わりにした。
次は高級宿のど真ん中の普通の店だ。宿と酒場兼食堂が一緒になってる3つの酒場の中で一番大きい店舗だ。席も余裕を持って70席あるが、100席ぐらいに増やせる。
こっちの宿は酔っ払た客を収納する場所なので、そんなに部屋はない。
ヨールは姉夫婦と自分の両親と面倒を見なきゃいけない、年下の兄弟姉妹を連れて来たらしい。全員で14人の大家族。
年下と言ってももう成人してるいい大人達だ。存分にこき使える。
今まで集られた分取り返してやれ!