アールディル王国
ラーク達近衛騎士5人は魔導具できれいになったビンガ王国の近衛騎士の制服を再び身に纏い、謁見に臨んだ。
ビンガ王国の王宮でビビっていた俺は、アールディル王国の歴史ある佇まいの王城の内部にただ気圧されていた。
華美なものは何一つとしてないが、まるで宗教画をみるような厳かな気持ちになる。あの窓枠の細工ときたら!今では技術が伝承されてないはずだ。こっちにある階段の手すりの螺鈿細工も美しい。
田舎者丸出しでキョロキョロしてると、案内の侍従にぶつかりそうになった。
いつの間にか謁見の間に辿り着いていた。
作法はトビアス様に習った。
まず、扉が開いたら深々と一礼。
「ビンガ王国使者、ナナ=ロウ=クロワッサン準男爵以下、6名!入場!」
左右に並ぶこの国の貴族に軽く礼をして、花道の半分くらいまで進んで絨毯に両ヒザを付けて両腕を胸の前で交差して深く頭を下げる。
「顔を見せよ!幼き天才よ」
口元が引きつった。何言うつもりだテメェ!?毒盛るぞ!他人の事情を簡単にバラしやがって、ぜってぇ、コロス!
王太子殿下も殿下だ!!秘密が守れないヤツにチクってんじゃねぇ!
「この度のお招きありがとうございます。我らビンガ王国の使者として相応しい振る舞いをすると誓います」
「期待してないが、半月は暇つぶしにいるようにな。誰か!この者らを部屋まで案内せよ!」
まるで奴隷みたいな扱いを受け近衛騎士達は大炎上。
さすがに部屋までは暴れなかったが部屋に入った途端、ベッドにマントと上着と剣帯をぶつけるように投げていた。
「なんだ?!この部屋は!ベッドしか置いてない雑魚寝部屋ではないか!!ナナ!そなたが馬鹿にされてるのでは無い!我が国が馬鹿にされてるのだ!手加減ナシでこの国の料理人や貴族達にお前の料理を喰らわせてやれ!」
「んー、明日の昼は街に出るから護衛よろしくお願いします」
この国の料理の味とレベルを知らなきゃね。
まずは、敵状視察。
その日は案内された部屋で大人しく寝て、朝一番で厨房に案内してもらい、調味料をザアッとみると東南アジア系のスパイスがふんだんに使われているようだ。
俺はニンマリ笑った。いろいろ作れそうだ。とりあえずニガリを持って来たから豆腐から作るか!
ここは主食は米か!ますます、いいな。
俺は和食も好きだけどハマってたのはスパイス物だから、辛いもの作るの楽しい!
まずは鶏ガラスープも作るか。千里の道も一歩から。頑張るぞーい!
◆○◆○◆sideアールディル王
「なんじゃ。大口叩いて粥か。私は食べ……メイリーン、今日は腹が減っているのか?」
最近、トビアスが王位継承権を放棄したことで食が細くなっていた正妃のメイリーンがいささかお行儀悪いくらいにこの粥にがっついている。
「陛下!この粥には柔らかく煮えた鶏が入っていて何とも言えず美味しゅうございます!これを知らずにいるのはアールディル王国の恥。一口だけ鶏肉と一緒に食べて下さいませ!」
「恥か?……そこまで言うなら食べてみるか」
気は進まないが、スプーンを手にして言われた通り鶏肉と粥を口にした。
噛まなくても解けるほど柔らかい鶏肉に、ただの粥かと思えば滋味溢れる豊かな味付けのスープに、ちょっとだけ辛いものが入っているのか体中が温まる。
不本意だが、夢中で食べ終えた。
「クロワッサン準男爵をここに!」
しかし、侍従長は澄ました顔で私を責めた。
「クロワッサン準男爵様は街に出掛けました。夕飯の買い物をしたいそうです。お声掛けする程気に入ったのなら、まるで自国の下級貴族にするような扱いを辞める事ですな!」
「昼は作らぬ気か?!」
「作っております。大変美味でございました。部屋を国賓用の物に変えた方がよろしゅうございます。私ごときが差し出がましい口を聞いて申し訳なく思っております」
「国賓待遇か。しかし準男爵ごときにもったいない」
「ルベラ王太子殿下が出張から戻って来たら怒られないといいですね」
私は想像して青くなった。ルベラに怒られる?!死んだ方がマシだ!
「急ぎ、国賓待遇にせよ!」
◆○◆○◆sideナナ(ロギ)
華やかな街並みに目を奪われていると馬が大通りを爆走して来て皆が慌てて道の端に退く。
一緒に買い出しに来ていた城の料理人のパナム(15才)が呆れたように言う。
「アレが我が国の恥、王国騎兵隊です。他人の迷惑考えることすらしない!本当は大通りは人出が多いからゆっくり移動するよう通達されてんですけどね!王太子殿下とトビアス様以外の貴族達は民に嫌われてんですよ!」
「そうですか。トビアス様も親しみが感じられるお人柄ですものね」
「ナナ様、敬語じゃなくって全然いいですよ?僕たちの話し方は仕方ないですけれども僕たちはナナ様が凄いコックだって知ってる!それに優しい人だってのも!」
「果物一つで丸め込まれてんじゃないぞ?パナム」
パナムはご機嫌で買い物籠を背負って、どんどん買い物して行く。
俺はパナムの説明を聞きながら、味が分からないものはその場で一つ買って試食してあまりにもマズいものだけ、除外するのを20回近くおこなったが、パナムが横から買い求める。
「滋養に良いのです。王妃様が今、食が進まないから、いっぱい食べさせてあげないと!」
「……」
余計に食が進まないんじゃないか?
「これ、どうやって食べさせてる?」
「皮ごと擦り下ろして茹でたらモチモチするので、呪い粉をかけて召し上がっていただいてます。でも、生臭いんですけどね。王妃様はお辛いのが好きなので食べられるだけで」
「……ひょっとしてこれって茹でたら黒くないか?」
「はい!他の調理方法を教えて下さい。ナナ様」
「……ホタテの貝殻はしまってあるから何とかなるかも。わかった!やってみよう!」
喜んだパナムにじゃれつかれながら、素早く買い物を済ませてガスパールと近衛騎士達にとあるお願いをすると快く引き受けてくれた。
城の厨房に帰ったら、コック達皆が真面目な顔で出迎えてくれた。おっ、歓迎ムード!
「王妃様が麻婆豆腐と、餃子は、何皿もお替わりなさいました!まこと、ナナ様は魔法使いのような料理を作られる!おお!生芋ではないですか!こんなにたくさん、何を作られるのですか?」
「ラーメンを作ろうと思ってね。生芋の麺をつくるよ!手が痒くなるから、スライムの手袋をしてから皮を厚く剥いて水の中に摺り下ろそう!」
コイツらコンニャク芋を普通の山芋みたいな使い方して食べさせていたのだから、仰天びっくりだ。摺り下ろして撹拌してこねて、凝固剤を混ぜてまたこねて、茹でて、やっと出来上がる物なのだが、全然知識がないので、叩き込んでやる。麺にするのはところてん突きのうんと目が細かいのをマズルカ商会に作ってもらったからそれで仕上げる。
備えあれば憂いなし!
シェフにコンニャクの作り方を教えてるうちに下っ端のパナム達にとんこつ(オーク)スープを見張らせ、近衛騎士達に魔法で焼いてもらったホタテ貝の殻を砕いて粉になるまで乳鉢で磨り潰させる。そう、これが凝固剤なのだ。
カルシウムだけ取り出して、っていうのは無理だから、粉にしたら問題ないよな、って言う素人の浅知恵。
でも、昔はそうしてたハズ。
チャレンジの結果、凝固剤として代用できました!
オーク肉でチャーシューモドキを作ると試食の列が出来た。味付けゆで卵に茹でたコンニャク麺を茹でてとんこつベースのスープに沈めて飾っていざ、試食。
「うまっ!」
コンニャクの麺の硬さが柔らかすぎず硬すぎず、我ながら改心の出来栄え!
とんこつスープがちょっと気になる程度だ。アク取りを叩き込むか。