アールディル王国②
1日目は様子見だったらしい。
2日目からお茶会が催されて3日目からは晩餐会が毎夜の如く開かれた。
それを7日間ぶっ続けたら、半数近くのコック達が、体調不良を起こした。
そりゃ、そうだ。ほとんど寝てない!
俺もだけど、30分仮眠取れたらいい方だ。
晩餐会で飲み食いする陛下達は朝ごはんは食べないけど城で働く使用人達は早朝に起きて食べるから、誰かが作ってやらないといけない。
普通は下っ端が作るが、毎日の疲れがたまってワイン樽に腰掛け寝落ち中。
可哀想なので、簡単に焼き肉のタレ風野菜炒めとカブのポタージュスープを作って食わせたら、ご飯を1斗食べられた。
パナム達に買い出しに行ってもらった。
シェフのリロイズさんとパンの仕込みをしながら今夜の晩餐会について打ち合わせ。
「今晩もアレを頼む!」
「いや、いいんですけどね、この国そんなにお金持ち何ですか?」
スパイスを毎晩湯水のように使う。
確かにルベラ王太子殿下がそのくらいの借金何とかしてやるとは、言ってたけれども、この国は貧富の差がハッキリし過ぎてる。
表通りの高級市場とスラムにある名も無い市場。きれいなのは表通り1本だけであとは飢えている人達が住むスラム。
俺は俺達が襲われたあの貧しい村を思い出し、胸が痛んだ。
リロイズさんは悲しげに言った。
「気にするな。アンタのいいたいのは解る。でも、ここは頭の悪い王の治める国だから、どうしようもねぇ!」
「……リロイズさん」
「アンタは、毎日新しい料理教えてくれりゃ良いんだよ!あんまり、どうしようも無いことで悩むな!……それよりちっと、疲れたな?朝の賄いありがとよ!そのう……昼もアンタの料理を食って精をつけたい!頼めるか?」
「そのくらい何でも無いことです!」
「呪い粉はよう、南の属国から、ただ同然で仕入れてるから心配するな、まぁ、そういうのもキライ何だろうがな」
大当たりです。吐き気がする!
「呪い粉を安く手に入れたけりゃ、この国と仲良くしとくんだな」
「結構です!」
リロイズさんは眩しそうに目を細めてニヤリと笑う。
「嫌いじゃ無いぜ!アンタの性根!」
たまに、感情の振り幅が大きい時がある。赤さんだからだろうか?恥ずかしい!
「それはそうとよ、もう4日目になるんだが、俺と同じ年頃のどこかの家に仕えてそうな紳士が、朝昼晩ずっとそこの廊下で誰か待ってるらしい。見たことない服着てたからアンタの家の人じゃないか?見てこいよ」
ガスパールだ!
「すみません!ちょっと抜けます」
「午後まで寝てこい。アンタが居なくてもそのくらいなら何とかなるさ」
「ありがとうございます!」
廊下に出て少し進むと予想通りガスパールが背筋をシャンと伸ばして立っていた。
「ガスパール!遅くなってごめん!」
ガスパールが泣いた。オロオロと手を伸ばすとがっしり掴まれて城の中を縦横無尽に歩き回る。
煌びやかなエリアに到達すると、そこの一番立派な扉の部屋が俺の部屋だった。
ガスパールはハンカチで目元を拭うと、部屋に入ってすぐ、俺を責めた。
「こんなに頬がこけて、目の下の隈もひどいではありませんか!ちゃんと食べて眠ってたのですか?!」
「ええっと、……うん」
「まずは、お風呂です!ついてらっしゃい!」
ガスパールの怒りのままに風呂⇨食事⇨ベッドへと追い込まれた。
久しぶりのベッドは俺をすぐに寝落ちさせた。
起きたら隣のベッドでガスパールも休んでいた。
俺の為に4日もストーキングしてたから、そりゃ眠くもなるよな。
ガスパール、ありがとう。
厨房に再び戻った俺を待っていたのはスパイスの山。
早速、俺は大きな天秤で計って大鍋で、大量のタマネギのみじん切りと人参のみじん切りとセロリのみじん切りを山羊のバターで炒める。
何でも寒さに強い魔獣山羊でトムトムという。普通車並みに大きく気性は穏やか、よく繁殖するので、雄山羊は肉になる。
だが、高級食材だ。
最初は、ジンギスカンにしようかなと考えていたのだが、バターも使って欲しいと言われたのでじゃ、カレーにしようと100人前作ったら、あっという間になくなった。
それから、毎夜毎夜カレーとその付け合わせメニューのお目見えだ。
招待客は無限に食べるので、俺はずっと付け合わせメニューを次々作らなければならない。野菜の下処理を料理別に完璧に仕込み、ご飯炊き係はひたすらご飯を炊く。
付け合わせメニューにもスパイスは使われるので、一晩で山ほどのスパイスを使う。
ラッシーやチャイや、甘いシロップの染み込んだアールディル王国のお菓子も一応作ってみるが、俺の作った菓子の方が人気がある。
特にフルーツポンチは会場中に置いていてもすぐなくなる人気商品だ。
作るのは見習いコック達に任せている。簡単だしね。
「ふぅ~、ちょっと皆、何かつまんでお腹を満たしなよ!」
ちなみに朝こねていたパンは焼かれて招待客へのお土産となる。
昼に侍従達がヒイコラ言って木のオシャレな籠に詰めていた。俺らも可哀想だけど、あの人達も可哀想なくらいこき使われている。
「【白いカレー】が無いぞ!在庫はどうか?!」
でも、侍従さん方って偉そう何だよな?
リロイズさんが対応している。
「【白いカレー】は材料が貴重なので、食べる人を選んで少しづつ、食べさせて下さいとお願い致しましたよね?今日の分はございません!」
むちゃくちゃ高級なカレーを作ってくれと言われたので作った白系スパイスカレー、トリュフのせ。
開発に5日かかった超力作だ。
ちなみにナンで食べても美味しかった!
リロイズさんと2人でこっそり試食した。
リロイズさんはバケットのスライスした物が一番美味しかったみたいで、バケットのスライスを添えて提供してるようだ。
「陛下がお望みなのだぞ!!今すぐ作れ!」
「材料がもうないのです!作れません、と渡す時にも言いました!仕事の邪魔です!出て行って下さい!」
偉そうな侍従は舌打ちして悔しげに厨房を去った。
リロイズさんが、あちこちの鍋をのぞき込む。ああ、やっと終わりか……。
今日は一際、変なオーダーが多くて気疲れした。ピーナッツマサラから、ピーナッツを抜けとか、トムトムカレーにバターを使うなとか、パワハラだよ!
ピーナッツマサラは、大豆マサラにし、トムトムカレーは、仕方なく最初から作り直したので、今夜の賄いはトムトムカレーだ!ドンドンぱふぱふ!
だから、厨房の皆の志気も高い。
カレーの残りはあと鍋半分。結局、バターで炒めた分も会場に流出した。
でも、大丈夫!まだまだ、たくさんある!
洗い物が流し台からはみ出して、調理台の上にも山を築いた。
それを片付けようとした、その時だった。44公爵家がお抱えシェフと使用人達を連れて寸胴の鍋を3つづつ持ってわざわざ、厨房までやってきた。
「残っているだろう?この鍋に入れろ!」
バターを使うなと言った貴方がそれを言う?
要するに持って帰りたかったから、無理矢理作らせたわけね?ハイハイ!
ルベラ王太子殿下にチクってやる!
リロイズさんと目がマジな微笑みを交わし、詰め替え作業をして送り出した後の厨房の怨念のこもった叫びをアイツらに聞かせてやりたい。
「「「「「「「「「俺のメシィイイーー!」」」」」」」」」」




