②呪い
「何ガ起キタァァァァ!」
アロクスにも自分の斧と右手が切られた事が見えていなかった。気が付けば、斧を振り下ろした右手が体から離れて落ちていた。後方にいるバイオレットやエコーも何が起きたか理解できず、目を大きくしたまま茫然としている。
「言い忘れたが………この剣は実によく斬れるんだ。正直な所、俺でも何回斬ったか数えられないんだ」
再びタイサが黒の長剣を肩に乗せて両手で構える。
心なしか剣の振動は収まっていた。
「オ前達! コノ人間ヲ殺セェ!」
切断された右手首を左手で抑えるアロクスは大きく跳び下がり、周囲にいたゴブリンやオーク達に命令する。
蛮族達は強者の命令に従い、雄叫びを上げながら四方八方からタイサに襲い掛かった。
だがタイサが踵を中心に黒い剣と共に円を描くと、蛮族達の動きがピタリと止まる。そして一瞬にして蛮族達が肉片となって霧散し、空中に飛び散った蛮族の残骸や血液が地面に落ちきる前に、黒い霧と姿を変えた。
「つ、強い………」
バイオレットにとって、それ以上の言葉が見つからなかった。
「そうだな。俺もこの剣以上の物を見た事がない」
空気中を漂っている黒い霧が、タイサの長剣に吸い込まれていく。気が付けば、アロクスの切り落された右腕も、地面に突き刺さった斧の残骸も、何もかもが黒い霧と化して、剣に吸い込まれていた。
そんな圧倒的な強さを見せていたタイサだが、彼の顔からは汗が吹き出し続け、地面を濡らしている。顔色も土色の様に酷くなっていた。
「隊長は………これだけの効果をもつ呪いに耐えられるのですか」
バイオレットの声が震えている。
理由はそれぞれだが、『呪い』の道具は世の中にいくつか存在する。だが、誰もが研究できる分野ではなく、多くの犠牲によって分かった事は、道具に付加されている効果と呪いの強さは比例に近い関係にあるという事だけである。そして呪いに負けた者は、よくて廃人、最悪発狂して死ぬか人でなくなるとも言われている。
だが、彼女の目の前の男は、その呪いに耐えていた。
「これが俺の、『鉄壁』専用の武器。呪いの武器に両手剣、めちゃめちゃ違反だけどなぁっ!」
「オノレェ! 人間風情ガァ!」
アロクスが全体重をかけて走り出し、残った左腕を拳に変えてタイサに叩き付けてくる。




