⑧蛮族を指揮する者
「オークまで動員して来たか」
思えば以前の任務で、ゴブリンとオークが一緒に出てきた事があったとタイサは思い出す。今の現状があの件と繋がっているとは限らないが、今のタイサにそれを考えている暇はない。
「だが、奴がリーダーという訳ではなさそうだ」
ゴブリンの間に湧き出て来る数体のオークを見ながら、タイサは汗と蛮族の血で汚れた口元を指で拭うと、口に入った物と一緒に、石畳の上に唾を吐き捨てる。
「エコー! こっちは大丈夫だ、今そっちに行く!」
オークを一撃で倒したせいか、ゴブリン達はタイサに近付こうとせず、大通りを上がる足並みが遅くなっているのが分かる。ならばとタイサはこの隙にエコー達と合流しようと、地面に刺さっている騎槍を掴み取った。
「駄目です! 隊長、こっちに来ては………」
タイサが大通りの上り坂を見上げた時、目の前で何かが一直線に吹き飛んでいくのが目に入った。
「副長!」
バイオレットが叫ぶ。
その言葉で、吹き飛んだ正体を把握したタイサが、一気に大通りを駆け上がった。
三枚目の障害物。
限界点の学校前まではあと一枚の距離に当たる場所にタイサが辿り着くと、半壊した木造の酒場から大量の埃が巻き上がっていた。
タイサはバイオレットを半包囲している蛮族達の一部を盾と騎槍で薙ぎ払い、彼女と合流する。
「バイオレット! エコーを頼む!」「は、はい!」
半包囲されて身動きが取れなかったバイオレットは、反転してエコーの元へと走った。それを追いかけようと数体のゴブリンが走り始めたが、タイサがその間に入って追撃を阻止する。
その時、北側で木材が一斉に裂き割れていく音が響き渡った。
「くそっ。先に障害物が潰されたかっ!」
タイサが反応して大通りの先を見上げると、限界点を予定していた学校前の障害物が、粉塵を上げて破壊されていた。
「人間ゴトキ………随分ト、テコヅラサレタ」
地響きと共に、低い声がタイサ達に迫って来る。
「な、何だ………こいつは」
タイサとバイオレットの口が空いたまま、自然と顔が上がっていく。
エコーとは反対側、もともと崩れていた家屋の残骸の上を見上げると、そこには巨大な斧を持ったオークが立っていた。通常、オークの肌は朱色だが、目の前のそれは淡い水色。オークの姿こそしているが、体はさらにその倍以上。二階建ての屋根に届くに至るかという巨体に、冒険者を経験してきたタイサでさえ、驚愕するしかなかった。
「オークが………喋った?」
バイオレットが、無意識に近い形で開いた口に手を置いている。
多少のぎこちなさはあるものの、十分に聞き取れる。容姿以上に、巨大なオークが人と同じ言葉を使った方が衝撃だった。




