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Lost19 底辺の隊長と呼ばれた男  作者: JHST
第六章 蛮族を指揮する者
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⑦最後の三人 -限界-

「隊長! どんどん敵が抜けています!」「副長! 正面に3匹です!」

 エコーの叫びが響く。

 先程の後退よりも、半分の時間しか経過していなかった。


「くそっ!」

 何匹抜けたのか把握できないと、タイサが舌打ちする。

 明らかに最初の時よりも、ゴブリン達が障害物(バリケード)やタイサの上を抜けていく数が多い。両盾にかかる敵の勢いが弱くなり、ゴブリン達を弾きやすくなっていくが、敵がその分後方へ抜けていくならば意味がない。


「止むを得ない………エコー! 下がるぞ!」

 だが先程と同じ手は使えない。タイサは逆に騎槍(ランス)で突いてやろうと自分の武器の位置を確認し、両手の盾を左右に解放する。

 ゴブリンが五匹程舞い上がり、正面に隙間ができた。


「いくぞ! タイミングを………っ!」

 瞬間、タイサの体が浮き上がった。後方に大きく吹き飛んだ訳ではないが、何か強い力が胸に衝突し、足元が僅かに地面から離れていく。

「―――いかん!」

 そう思った時には遅かった。背中を支えていた支柱が断末魔の軋みを上げて折れると、タイサは後ろへと転倒し、ゴブリンの津波が一斉に襲い掛かってきた。

「うおぉぉぉぉぉぉっ!」

 ゴブリン達が持つ大小の武器で鎧を削られ、鎧に隙間があれば、茶色い液体が付着した刃物でタイサの体を突き始めた。


「た、隊長ぉぉぉぉ!」

「副長、行ってはダメです! 敵が次々と来ています!」


 ゴブリン達に光が遮られ、暗闇と化した視界の中でエコーとバイオレットの声が聞こえてくる。辺りは血と汗と獣の匂いで充満し、まるで湯気に当てられたかと思う程の熱気が籠っている。生まれてから歯も体も一度も洗っていないようなゴブリン特有の臭気に囲まれ、まだ生ゴミの中に顔をうずめた方がマシだと思える地獄。

 それでもタイサは、湧き出る恐怖を踏みつけ、両手の位置を確認した。

「舐ぁめぇぇるなぁぁぁぁ!」

 タイサが右の盾でゴブリンを払い落す。そして相手が怯んだ一瞬の隙を見て一気に上半身を起こすと、全身の筋肉に酸素を繰り込み、両手の盾を広げながら回転してゴブリン達を一斉に薙ぎ払った。


「まだだっ………まだ終わらん!」

 立ち上がり、肺の奥まで新鮮な空気を迎えながら、タイサは周囲を確認する。

 あれだけの攻撃にびくともしない人間の姿に、ゴブリン達も本能に近い形で恐怖を抱き始めていた。倒壊しかけている障害物(バリケード)を越えようともせず、タイサを中心に半円を組んで様子を見ている。

 だが、動きを止めたゴブリンの中から一際大きいオークが前進し、両手を上げて咆哮をあげながら迫る。


「さっきの一撃はこいつのか」

 タイサは左の盾でオークが振り下ろしてきた大剣を防ぐ。そして、空いた正面に向かって反対の盾の角で左脇を殴り付けた。

 盾を通して肋骨が砕けていく振動がタイサの腕に伝わっていく。骨が肺に突き刺さったのか、タイサの一撃を受けたオークは、呻き声を上げながら頭から倒れ込むと、呼吸が上手くできずに泡を吹き始め、やがて動かなくなった。

「当たれば………強ぇんだからな」

 つい昨日の出来事の様なあの日が脳裏を一度だけ通過する。気が付くと、タイサは呼吸を整えながら、小刻みに笑っていた。

 

 同時に右腕の盾がズルリと滑り落ちる。タイサが足元を見ると、盾と腕を結んでいた革がいつのまにか半分切れており、先程の一撃が紐革にとって最後の務めとなった。

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