②混乱と疑問
「殉職者を出したのは、エコー達を迎えて以来初めてだよ」
冒険者時代から、タイサは人の死を見てきている。王国騎士団に所属しても、同僚や部下を失う事は初めてではなかった。
だが、ボーマやエコーがこの部隊に迎えられて数年。ジャックのように、新人が入り、他の騎士団への栄転や騎士を引退する仲間を見送りつつも、タイサは一度も死者を出した事がなかった。周囲から馬鹿にされる程に底辺の騎士団だったが、死者を出していない事だけは彼にとって密かな自慢の一つだった。
だが、それは過去の事となった。
ルーキーは戦死、ボーマは重傷。残った騎士団は新入りが一人と団長、副長の三人だけとなった。元々数が多い団ではないが、数字上では壊滅、戦闘の継続がほぼ不可能な状況だと判断して良い。
鼻を小さくすすり、タイサは小さく咳き込むと、話を気持ちと共に切り替えた。今の彼に、部下の死を弔う時間も資格もない。
「住民の被害は?」
「幸い死者はまだいませんが、重症が三十名、軽症が百名程です。騎士団の装備を貸与している冒険者達からの死傷者はまだありません」
残存兵力は凡そ三百名程度。二つの避難民を出発させた事で、戦力として数えていた住民が大幅に減ったものの、戦える数だけで判断するなら、まだ戦力はあると言える。だが、タイサは別の答えがまだ出ていない事に焦りと憤りを感じていた。
「………ゴブリン達に、一体何が起きたんだ」
思わず考えていた事が声になって漏れる。
蛮族の中でも最下級として蹴散らかされていたゴブリン達が、あっという間に長槍を揃え、騎馬隊を倒す程の統率力を見せている。元々それだけの力があったのか、それとも誰かが入れ知恵をしているのか、それすら明確になっていない。
「くそっ! 訳が分からん!」
タイサは思わず手拭いを持った手でテーブルを強く叩いていた。
そこにバイオレットが見張りから戻って来た。運悪く扉を開けた彼女は、タイサが出した音の大きさにびくりと肩を強張らせる。
「………え、と。今、戻りました」
何が起きたのか分からない彼女は、タイサに視線を向けつつも刺激しないようにと、小さな声で報告を済ませようとした。
「いや、済まない。気にしないでくれ」
新人に見せる姿ではなかったと、タイサは目を瞑って頭を冷やす。そして手と首を横に振りながら、精一杯の顔を作って謝った。
特に問題のない報告を彼女から聞き終えると、タイサが窓の外を見る。
ここに戻った頃は太陽が熱さを自慢していたが、いつしか西へと傾き、窓ガラスに接する空気が徐々に弱まっていくのを感じた。




