⑬アリアス防衛戦 -後退-
数匹のゴブリンの中に飛び込んだバイオレットは、ゴブリン達の前で馬の前足を振り上げ威嚇し、背後を取られまいと馬体を回しながら剣を振り下ろし、振り払い、敵に包囲される事を防ぐ。だが、ついに側面にいたゴブリンの長槍が馬の腹を貫き、彼女は馬ごと転倒した。
ゴブリン達は彼女よりも近くにいた馬に襲い掛かり、あちこちを粗末な短剣で切り刻むと、生きたままの馬を食べ始める。
「くっ!」
馬が足をばたつかせながら悶えている間、バイオレットは勢いを付けて立ち上がり、彼女に視線を向け始めたゴブリンに対して剣と盾を構え直す。
「バイオレット! そのまま少しずつ後退しろ!」
両手に盾を構えたタイサが、彼女に飛びかかって来たゴブリン達を一斉に左右の盾で弾き飛ばし、彼女の前に立つ。
「隊長!?」
「この馬鹿垂れが! これ以上、世話を焼かせるな! いいからこのまま後退だ! ボーマ! お前も後退だ!」
やや離れた所にいるボーマにもタイサは声を上げた。
「………分かりやした!」
二枚の盾で前面を守っているタイサの前で、ゴブリン達が何度も盾に剣や棍棒を叩きつけてくる。さらにはタイサの側面を突こうと左右に回り込むが、その度にバイオレットがゴブリンの体を一突きし、相手の動きを怯ませる。
「へへ、お待ちどうでさぁ!」
後退するタイサ達にボーマが合流した。
汗まみれで笑っているものの、彼もまた側面や後方に回り込まれて両足の隙間を中心に数カ所を突き刺されている。彼の太ももや膝の装甲の隙間からは出血が続き、銀色の鎧に赤い線を引いている。
「ボーマ、歩けるか!?」
盾を構えながらタイサが声をかける。
「まだ何とかっ、てとこで! この戦いが終わったら、もう少し体重を落としますよ。体が重いったらありゃしねぇ!」
タイサが彼の下半身に目を向けるが、ボーマの両足は小刻みに震えていた。
「………そのまま血抜きをされたくなかったら、俺よりも早く下がる事だな」
「すいやせん。今回は、そうさせてもらいます」
素直にボーマが後退を始める。
タイサは後退する二人よりも僅かに歩みを落とし、殿を務めながら彼らとの距離を敢えて作り始めた。
「これでも『鉄壁』の名前を貰っているんでね。もう少し、俺と付き合ってもらおうっ」
刃で突いても貫けず、両盾が左右に開けばゴブリン達は弾かれ、宙を舞っていく。タイサの強固な壁によって数を徐々に減らしてきたゴブリン達は、やがて様子を見るように前進を控え、追撃を諦め始めた。




