⑭アリアス防衛戦 -敗退-
「今だバイオレット! ボーマを支えながら東門に向かえ!」
「は、はい!」
ゴブリン達の勢いが下火になった瞬間を見計らい、タイサは一気に後退を命じた。バイオレットは蛮族の血で汚れた剣をそのまま鞘に収めると、足元がおぼつかなくなってきている重量級のボーマの肩を担ぎながら南門を目指して足を進めていく。
ゴブリンがタイサ達を諦めると、当初の目的だった南門へと一斉に向かっていった。
「………よし」
退避する為には門を開けなければならない。タイサは、東門を選択した自分の判断が正しかったと安堵する。そして両手の盾を降ろして踵を返すと、バイオレット達と合流すべく走り出した。
「今の内に、東門を解放して街の中へ入るんだ!」
タイサが二人に届くように声を張り上げたが、バイオレット達はまだそれほど先には進んでいなかった。
それどころか彼女は速度を緩め、ついには止まった彼女達に追いついてしまった。
「どうした、バイオレット。何故止まる!?」
「隊長………東門にもゴブリンの群れがいます」
息を切らし、ボーマの肩を担ぐ彼女が指す方向には、南門と同様に東門の障害物に群がるゴブリン達の姿が見えた。
その数は南門と同じく、数える事すら馬鹿馬鹿しくなる程だった。
「二方向からの同時攻撃………だと」
タイサは思わず口元を抑えた。
騎馬対策の長槍、南門への戦力の誘導。最早、ゴブリンの思考で出来る範疇を越えている。
「北門へと回るか………いや、あそこには障害物がない。追いつかれたら、街への侵入を許してしまう」
そうなれば、住民達の脱出の退路が全てなくなる。また塀を無理矢理越えようにも、ボーマ程の重さを瞬時に持ち上げる事は不可能だった。
「ボーマ先輩、しっかり! しっかり立ってください!」
三人が孤立している中、ついにボーマがバイオレットの腕をすり抜けて膝をつく。顔は土のように黄色く、歯を鳴らし、体を震わせながら滝の様に汗を流している。
「くそ………毒のせいで体が焼ける様だ。これなら………へっ、すぐに痩せそうだな」
ボーマは震える両腕を地面に立てて、せめて倒れないようにと踏ん張っているが、この状態ではもう動く事ができそうもない。
南門は住民や冒険者達が障害物越しに即席の槍や棒でゴブリン達の侵入を防いでおり、東門も同様に少ない人数ながらも、かろうじて防衛線を維持していた。ゴブリン達がタイサ達に仕掛けてこない事は不思議としか言いようがなかったが、タイサも打てる手が思いつかず、左右のゴブリン達の動きを交互に眺めていた。
「隊長! ご無事ですか!?」
その時、エコーの声が正面から聞こえてくる。彼女の馬を先頭に、バイオレットが操る馬が数名の冒険者を乗せた即席の荷台を引いて迎えに来た。
「エコーか! どうやってここに!?」
「北門から出て、東門を大きく迂回して来ました! 北門はまだ無事です、敵の姿もありません!」
追撃されないのならば、北門が使用できる。タイサは胸を撫でおろした。
バイオレットが数人の冒険者達に声をかけて、ボーマを荷台に乗せる。そしてタイサも続いて荷台へと乗り込んだ事を確認すると、エコーが馬を回して再び先導を担う。
「それでは行きます!」
「ああ、頼む!」
エコーが手綱を弾き、馬を走らせる。タイサ達は東門を大きく迂回して通過し、北門へと進路を向けた。ゴブリン達は、タイサ達が視界に映っているにもかかわらず、ただひたすらに障害物を叩き続けている。
「………奴らは一体何を考えているんだ」
タイサは自分の頭を小突いた。
結局、ゴブリン達は南も東も障害物を突破できず、半数程の損害を出した後、昼過ぎには完全に撤退してしまった。




