③失敗に対しては寛容に
「………おはようございます」
バイオレットが視線を合わせようとしつつも、それがなかなかできず、気まずそうな顔を崩せないまま屯所の中にある寝室から現れた。
「まだ早いぞ。その挨拶は、六時間先まで取っておくんだな」
彼女は初陣による疲労が見えていた事から、タイサの指示で先に休息を取らされていた。タイサはエコーに彼女の分の珈琲を頼むと、何事もなかったように眉を大きく上げて声をかける。
「少しは落ち着いたか?」
「はい。その………色々と御迷惑をお掛けしました」
貴族でありながら貧しく、さらにどんな経緯か知らされずに、底辺と呼ばれるこの騎士団に配属された事に、彼女は何を考え、何を感じているのだろうか。やはり必死になるものだろうかと、タイサはずっと彼女の立場を考えていた。
だが、今ここで尋ねても仕方がないと心の中で適当に消化させる。そして、肩をすくめながら、気にするなと短く答える事にした。
「必死にやろうとして、思わず感情的になるなんざ、新米騎士には良くある事だ。なぁ、ボーマ?」
「えぇ、そこで俺ですか? まぁ………そうですね。俺なんか初めての時なんかは興奮が冷めきらずに、昔いた騎士団の女性に………」「よぉし、それ以上は喋るんじゃぁない。コーヒーが不味くなる」
二重になった顎を弄りながら、自慢気に話し始めたボーマの小噺を、タイサが数秒でへし折る。ボーマは残念そうに口を開けて止まっていたが、それを見たルーキーの方が笑っていた。
「バイオレット、熱いから気を付けなさい」
「ありがとうございます、副長」
バイオレットは珈琲を持ってきたエコーに感謝しつつ、最初の一口を喉に通すと、表情が少し和らいだように見えた。
「大丈夫です、丁度良い温かさです」
「それは良かったわ」
自分の時とは明らかに違うとボーマが口を尖らせている。
タイサが二度手を叩いた。
「よし、遅くなったが、改めて情報の整理、そして明日の打ち合わせを始めよう」
全員に気持ちを切り替えるように促す。そして椅子から体を離すと、詰所の壁にかかっていた街の地図を剥がしてテーブルの上に敷き、全員を近くの椅子に座らせた。




