①情報と確認
「隊長、珈琲です。熱いので気を付けてください」
「ああ、ありがとう」
騎士団の屯所の中で考え事をしていたタイサは、エコーが持ってきた珈琲を何も考えずに口に付け、反射的に唇を引いた。そして彼女の言葉を今更思い出し、自分がそれなりに余裕がなくなってきている事を初めて自覚する。
タイサはまだ中の残るコップを静かにテーブルの上に置くと、そのまま椅子に腰かける。そして火傷した上唇を軽く指でなぞり、最後に大きく溜息をついた。
「さてさて、どうしたものか」
タイサはアリアスの街長から話を聞き、事態は想像していた以上に悪いものだったと認識した。
まず、グーリンスの街で聞いていた通り、この街に駐屯していた王国騎士団が五日ほど前から帰ってきていない事から端に発する。彼らは南の森でいつもの様に木材を調達しに行った住民からの目撃情報でゴブリン達を討伐しに行ったのだが、いくら経っても帰って来ず、ついには街長がグーリンスまで使いを出してこの件の報告と対応を求めたというのが一連の動きになる。
その流れもあり、街長はタイサ達を新しく駐屯するべく派遣された騎士団か、捜索隊や討伐隊の類だと思っていたらしい。
タイサは彼らの表情に押され、それが誤解である事については未だ言えず仕舞いとなっている。
「隊長、戻りました」
そこにボーマとルーキーが扉を開けて戻って来た。
「ご苦労様。首尾はどうだ?」
「はい。取り合えず住民達と協力して南門の障害物の修復を行った後、新たに東門と北門の障害物も追加で固めてきました」とルーキー。
「ですが、街の外壁はだいぶ古いままで、強度も左程頑丈ではありませんな。小柄な奴らでも、肩車なり梯子を使えれば、簡単に壁を越えて入って来るでしょうな」
かと言って手持ちの資材ではどうする事もできないと、ボーマが話を引き継いだ。
「副長、住民の避難準備はどうなっている?」
戻って来た二人の為に珈琲を持ってきたエコーに、タイサがちょうど良いタイミングで尋ねる。
「はい。この街の住民は逃げ遅れた宿泊客も含めて千三百人程度。その内、老人や子ども、女性や怪我人達は四百人程で、今は大通りの坂を上がった先にある学校や教会に避難させています。現在、動ける住民や街に残っていた冒険者達で避難準備が進められ、街にある荷馬車を総動員して集め、積めるだけの食料と水を積み込んでいる所です。遅くても本日中には完了するかと思います」
最悪、街を捨てる事も考えなければならない。既に、街長からは学校や教会に避難している非戦闘員を優先的に脱出させる提案を受け入れてもらっている。そして隣街に到着次第、タイサの名前が入った街の状況報告と援軍の要請について記した書面を、駐屯している王国騎士団と街の領主に渡す算段になっていた。




