⑩初陣 -勝利と嫌悪-
仕方がない。
そう覚悟を決めると、タイサは兜を脱ぎ、汗にまみれた頭を掻きながら大きく息を吸った。
ボーマがルーキーの両耳をそっと包み込む。
「バイオレット三等騎士! いい加減にしろ、ここは私の命令に従いたまえ!」「っ!?」
タイサはもう一度彼女を怒鳴りつけた。
相手に理解できるよう説明しながら諭すのが本来のやり方だったが、興奮し感情的になっている人間にはそれが通じない。
タイサの切り捨てるような言い方に、さすがのバイオレットも目を開いたまま固まった。だが、タイサ自身もまた自己嫌悪の混ざった複雑な感情が沸き出している。タイサはそれ以上言葉を放てず、彼女に顔を背けると、人には見られまいと感情を含めてそれらを全て飲み込んだ。
タイサがゆっくりとエコーに向けて馬を進める。
「………副長、彼女を頼む。少し頭を冷やさせてやってくれ」
「分かりました。申し訳ありません、隊長」
タイサの意を汲み取ってか、本来ならば副長達が諫めるべきだったと反省を口にしたエコーだったが、タイサは気にするなという意を込めて彼女の肩に手をそっと置き、そのまますれ違った。
次にタイサはボーマ達の元へと馬を動かす。
「ルーキー、怪我はないか?」
「あ、はい。大丈夫です」
タイサの言葉に反射的に答えたルーキーは、自分の姿を下から上へと急いで確認し、自分に何も怪我がなかった事に今更ながらに安堵する。
「なら良い。よく頑張ったなルーキー」
「ありがとうございます」
「隊長、俺には何もないんですかい?」
嫉妬するかのようにボーマが不機嫌そうな顔で割って入る。
「もしあったら、お前が今日からルーキーだ」
「聞かなくても分かるという信頼関係ですね。いやはや、ええ分かってますとも。勿論怪我なんてありませんよ」
慌ててボーマが真面目な顔で言葉を返し、最後にへっへと乾いた笑いを見せた。
ボーマとルーキーの様子が確認出来たタイサは、二人に見えるよう街の方に指を向けた。
「二人は街の負傷者の確認と手当だ。必要なら我々の医薬品を使っても構わない。俺はその間に街の代表者から事情を確認する」
「了解でさぁ、隊長」「はい、分かりました」
通り過ぎ様にボーマがタイサの肩を軽く数度叩く。彼はそれだけで何も言わなかったが、バイオレットの事だろうと、その意をタイサは受け取った。
タイサは気持ちを落ち着かせながら、もろ手を挙げて喜んでいる住民達に向かって馬をゆっくりと動かした。




