⑨初陣 -焦り-
タイサは腕に固定させた盾で、南門の障害物に張り付くゴブリン達の頭を次々と弾き飛ばし、赤い染みを盾に塗り散らしていく。
馬でゴブリン達を蹂躙していく中、タイサの目には障害物越しに戦う街の人々の不安な顔がいくつも入っては横切っていった。
「まだだ! もう一度突撃をかける!」
タイサ達の一度の通過で、障害物前のゴブリンは、草や地面の色を変える塗料となって散らばっている。少なく見積もっても十四,五匹は轢き殺しているだろうか、タイサはなるべく馬の速度を落とさないように大きく左に旋回する事を指示しながら障害物の方を見つめ、もう一度突撃の構えをとり直す。
タイサは指示を出しながら自分の馬を障害物側にあたる左翼に移動させると、後ろを振り向き、風の音に負けない大きさでバイオレットに声をかけた。
「バイオレット! もう少し下がって、零れた敵がいたら止めを指せ!」
「っ………了解!」
最後尾にいた為に、未だ一匹も蛮族を殺せていない彼女は、握っている剣を軽く手首を使って振り、深呼吸を繰り返す。
二度目の突撃。
タイサ達が通り過ぎると、障害物の前に広がっていた大量の肉片と血が飛び跳ね、さらに新しく数匹のゴブリンを撒き散らかした。二度の突撃に運良く生き残った幸運なゴブリン達は、何かを叫びながら右往左往するだけで、完全に混乱状態に陥っている。
だがそれでも数匹はこちらに向かって汚い指を向け、足元にあった手ごろな石を掴むと、それを一斉に投げ始めた。
小さな体のゴブリンが握る石は、その大きさも飛ぶ距離もたかが知れている。投げられた石は馬で走り抜けるタイサ達に追いつける訳もなく、むなしく放物線を描きながら地面に落ちていった。そしてタイサ達が三度馬を旋回させると、打つ手がなくなったのか石を投げたゴブリンが真っ先に逃げ出し、それに続いて他の数匹のゴブリン達も後を追う様に南の森へと逃げていった。
「隊長。ゴブリンが逃走していきます」
ゴブリン達の動きを報告したエコーの声に合わせて、タイサは騎槍を持った手を軽く上げながら全騎に馬の速度を緩め、停止を命じた。
「それでいい。深追いはするな」
タイサは盾を大きく下に振って、足元の草を蛮族の血で染める。
「隊長、追撃をしましょう!」
エコーやボーマらが持っていた武器を収める中、一人剣を持ったままのバイオレットがタイサの馬に近付いてきた。そして彼女はゴブリン達を追撃し、全滅させるべきだと必死に訴えた。
だがタイサは、それを受け入れなかった。
「却下だ。敵の規模が不明な以上、無理な行動は避けるべきだ」
「しかし相手はただの蛮族です! ゴブリン程度、今からでも馬で追いかければ簡単に追いついて蹴散らせる事ができます」
バイオレットは結局先の突撃でも一匹も倒す事ができなかった。その焦りか、それとも初陣の興奮か、はたまたその両方か。新入りの騎士という自分の立場を忘れたかのようにタイサに食い下がる。




