⑭教会と修道女
タイサは苔の侵略を受け入れた木製の扉を静かに何度か叩く。
しばらくして扉横の錆びた鉄格子の窓に隙間ができ、そこから女性の顔が半分ほど見えると隙間はすぐに閉じられ、代わりに扉の閂が外れて硬い音を立てながらゆっくりと扉が開いた。
「こんばんは、修道女マリン」
「お勤めご苦労様ですタイサ様。どうぞ、お入りください」
くたびれた黒い修道服に身を包んだ水色髪のシスターが、タイサを中へと招き入れる。
古びた教会の中は吹き抜けた二階建ての構造。一階には台所を含めた水場、そして食事ができる木製のテーブルと背もたれのない丸い椅子。どちらも劣化により、木目に隙間ができている。
タイサが軋む階段を静かに上がると、教会に住んでいる孤児達の足が薄い毛布の隙間から見え、眠りながらも数の足りない敷物の中で蹲っていた。
「二週間ぶり………か」
時間を巻き戻す様にタイサが後ろ向きで階段を降りると、シスターが欠けたコップに白湯を入れ、テーブルに置いていた。
タイサは彼女に感謝しつつ、コップの前の椅子に腰を下ろす。温まったコップを両手で握ると、静かに口をつけた。
「コレットが亡くなりました」
シスターも自分のコップを持ってタイサとテーブルを挟んで座ると、静かに短く告げる。そして、彼女は左右の肩を右手で順番に軽く触れて目を瞑った。
「そうか………いつも重い咳をしていた子だったが、ダメだったか」
「生まれつき呼吸をする部分が弱いのだとお医者様は言っておられました。手持ちの薬ではどうしようもない、と」
亡くなったのはつい二日前だったと彼女が付け加える。
訪れる度に誰かが去り、別の誰かが迎えられる。
本当に昔から変わっていないと、タイサは静かに目を瞑った。
「あの子は一生懸命生きた。ここでは人間らしい、立派な終わり方さ」
北地区では、その言葉で通じてしまう。修道女マリンもその意味を分かっており、静かに頷くに留めていた。
「後で挨拶しよう」
墓があることも、ここでは贅沢な終わり方である。タイサは、下唇をゆっくりと噛みながら大きく鼻で空気を吸い込むと、彼女に気を遣わせない程度に吐き出した。




