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№9作戦会議ー①

 今日から一週間の仮結成期間が始まった。

 期間内に俺とルーティの二人で、適正ランクSの依頼を二つ以上クリアしなければならない。


 だが時間は十分にある。焦る必要はないだろう。

 まずは今後の方針を決めやお互いの情報共有等、話し合いをすることが必要だ。


 当初の予定ではミアの部屋で話し合おうと思っていたのだが、そこだとリンやクリスさんがいつ現れるか予期できないから却下。


 結局、部外者に話を聞かれることなく二人でいられる場所として、ルーティの家で話すことになった。リノとキノはいるが、あの二人なら聞かれても大した問題にはならないという魂胆だ。


 ギルドの裏通りをしばらく進んで入り組んだ道を進んでいくと、大きめの建物に挟まれた一軒家の前に辿り着いた。


 以前、この家に脅迫状を張り付けたのはコアだったから、俺が来るのは初めてになる。

 ここでルーティはリノとキノの三人で暮らしているのか。


「余計なところ、触らないでよね」

「ああ」


 あくまでもここには話し合いをする為に来たのだ。


 それ以外の理由はない。よくよく考えてみれば女性の家に上がるのは初めてかもしれないな。だからなんだという話だけども。


 ルーティが扉に手を翳すと、魔法陣が浮かび上がり砂時計のようなものが現れた。

 その砂時計が一回転すると、ガチャリと鍵の開く音がなる。


「今のは?」

「私の魔力に反応して開く鍵。本当はこの手順を踏まなくても私が魔力を込めた手で触れれば勝手に開くけど、こっちの方が何て言うか……かっこいいでしょ」

「かっこいい?」


 まあ、確かにそっちの方が魔術師っぽいしかっこいいかもしれないけど。

 それよりもリノとキノ出入りする時はどうするのかが気になってしまった。

 ルーティは自分の発言に若干赤面しながら扉を開く。


「何でもない! さっさと入るわよ!」

「そ、そうだな」


 どうやらルーティは見た目に拘る性質らしい。

 ルーティに続いて家の中に足を踏み入れると、部屋の奥からリノとキノが駆け寄ってきた。


「おかえりルー姉!」

「おかえりなさい。姉さん」

「ただいま。リノ、キノ。いい子にしてた?」


 二人の頭を撫でながら優しく微笑むルーティ。

 俺の前では常に素っ気ないというか、暗い表情をしているが、素の表情は本来こっちなんだろうな。


「してたー! あ! アベルだ! こんにちは!」

「うん。あ……こんにちは、です。アベルさん」

「こんにちは。二人とも挨拶ができて偉いな」


 相変わらずリノは元気が良すぎるし、キノはしっかりしている。正反対の様に思える二人でも、容姿が瓜二つなのだから驚きだ。


 素直に二人の事を褒めると、ルーティが胸を張って言った。


「当たり前でしょ。私の自慢の妹達なんだから」


 その言葉を聞いたリノは「えへへ」と恥ずかしそうに笑い、キノも頬を赤く染めてもじもじとしている。


 そんな三人の光景は、俺なんかがいなければ幸せな家族そのもので……


「何突っ立てるの? こっちよ」

「ん、ああ今行くよ」


 何時の間にか部屋の奥へと進んでいたルーティに声を掛けられる。

 こんなことじゃ駄目だ。いちいち後悔何てしている場合じゃないだろアベル。


 一度気分を切り替えるために深呼吸をしてから家の中を進んだ。

 ダイニングキッチンらしき部屋に入ると、中央に木造の長机と長椅子が設置されていた。


「ここで良いわよね。お茶出すから、座って待ってて」


 キッチンでお茶を注ぐルーティに言われて腰を下ろす。


 何気なく部屋を眺めると、リノかキノが書いたのであろう似顔絵や不格好な彫刻が飾られていることに気づく。窓際にはラナンキュラスの花束も飾られていた。


 お世辞にも裕福とは言えないが、十分幸せな暮らしを送っていることは分かる。

 この生活を手に入れるのに、三人も相当苦労してきたのだろう。


「はい」

「……ありがとう」


 目の前に出された花柄のティーカップには麦色のお茶が注がれている。

 そっと手に取って飲んでみると、さっぱりとしたレモンの香りが口の中に広がった。


「おいしい」

「そ。よかった」


 そう言って向かい側の椅子に座ったルーティは、お茶を一口飲んでから目線を合わせてきた。

 綺麗な蒼い瞳だ。きっと、彼女の瞳に比べて俺の瞳は黒く霞んでいるのだろうな。


「さて、じゃあ始めましょうか」

「そうしようか――って、本当にこの状況で始めるのか?」


 自然な流れで話を始めようとするものだから思わず乗ってしまったが、何故か向かい側にいるルーティを挟むようにしてリノとキノが座っているのだ。


 二人がいることはわかっていたが、まさか話し合いに参加させる気か?

 だが、俺の疑問にルーティは今一ピンと来ていないようで。


「何か問題でもある? リノもキノも部外者じゃないんだし、この話を聞く権利はあると思うけど」

「……まあそうか。わかった。いてくれていい」


 ルーティの言う通りリノとキノは部外者ではない。寧ろ、かなり深い関係者だ。


 ただ、コキュートスを潰すという話を子供に聞かせてもいいものなのか? いや、子供だからまず俺達の話が理解できないと踏んでいる?


「言っておくけど、多分あんたよりもリノとキノの方が死線は多く潜って来てる」

「そう、なのか」


 死線の数で言えば確かにその通りかもしれない。


 ルーティ達は両親が死んでからの数年、かなりひどい目にあって来たとコアが言っていた。それに比べれば、俺は精々あの日と父さんを殺された日くらいのものだ。


 キノはまだしも、無邪気なリノを見ていると疑いたくもなるが。

 まあいい。そろそろ本題に入ろう。


「じゃあ、始めさせてもらうよ」

「ええ」

「ええ!」

「ちょっと、お姉ちゃん! お話の邪魔しちゃ駄目だよ」

「えー、邪魔してないもん」


 ルーティの相槌を真似したリノがキノに注意された。

 それが不服だったのか、頬を風船のように膨らませるリノ。これから結構重い話をするというのに、なんだか調子が崩れてしまうな。


「こらこら、リノはそうやって口膨らませない。キノは注意してくれてありがね」


 ルーティがリノの膨らんだ頬を摘まむと、ぽふっと空気が出てもとに戻った。それからキノの頭を優しく撫でる。


「はーい」

「うん」


 大変微笑ましい光景なのだが。


「初めていい?」

「え、なんでまた聞いたの?」

「え? いや、まあいいや」


 始めにくい雰囲気だったから聞いたのだが、リノとキノに気を使っていたらいつまでも話し始めることが出来なそうだ。


 気にせず始めてしまおう。


「まず、俺の目的は知ってると思うが、コキュートスを壊滅させることだ」

「それが終わったら、リノとキノを解放するって約束よね」

「もちろん」


 リノとキノに生体共鳴を掛けているのはルーティを利用する為であり、彼女の力が必要無くなれば二人を人質にしておく必要も無い。


「ねえ、コキュートスってなにー?」

「キノも、少し気になります」


 話を始めると、早速リノとキノから質問が飛んできた。

 コキュートスとは何か……それは俺も知りたいぐらいだよ。


「悪い人たちの事よ。だからそいつらを倒しに行くの」


 まあ、それだけは確実に言えることだよな。

 あいつらは最低で最悪で、人に害しか与えない悪い奴の集まりだ。アイゼン以外に出会ったことはないが、組織であることは聞いたことがある。


「悪い人達なのか! じゃあ、早く殺さないとな!」

「そうだねお姉ちゃん。早く殺さないと」


 本当、あんな奴ら早く殺さないと――


「え?」


 気のせいだろうか。

 今、リノとキノの口からとんでもなく物騒な言葉が飛び出てきた気がしたんだが。


 何故か悪寒が凄い。


「もう、二人ともそんな物騒なこと言わないの。ごめん、続けて?」


 ルーティは特に驚いた様子がない。にこやかに二人の頭を撫でてから、話を続けるよう俺に促して来た。


 今のは一体……?


「あ、ああ。そのコキュートスの中でも、最初に潰したい男がアイゼン・ジョッカー。そいつは今、俺の仲間だったケートってやつの体を乗っ取っている」


 俺は三人の事を何も知らない。知ろうとも思わないし、知りたいとも思わない。いや、思わないようにしている。


 だから先の二人の狂気じみた発言や、それを気に留めないルーティの態度も『何か』があったということにしてしまえばいい。


 というより、言及しない方がいい気がする。


「そのアイゼン? ってやつの事、あんたは殺せるの?」

「殺す意志はある。だけど、俺にはその力が無いから戦いはルーティに任せることになる」

「……そう。わかった」


 ルーティは少し眉間に皺を寄せながら、素っ気なくそう答えた。

 肯定した俺に疑念があるのかもしれないが、あいつはケートの見た目をしているだけで中身はアイゼンだ。ケートじゃない。


 殺すことこそが、ケートを救ってやれる唯一の方法なのだから。


「でも、できればとどめは俺にやらせてほしい」


 最悪の場合はルーティに殺してもらうつもりだが、それは最終手段だ。それを前提にしてしまったら、結局白翼に行くのと同じになってしまう。


 そんな無茶な提案に、ルーティは手に持つカップを眺めながら口を開いた。


「それは状況次第ね。私にはまだ敵の強さがわからないし、あんたに出来ることもわからないもの」


 それはそうだ。

 それを少しでも解消するための話し合いでもある。


「だろうね。だからまず、俺の能力について説明しておくよ。コア」

「うむ」


 名前を呼ぶと、限りなく存在感を薄くしていたコアが返事を返してきた。声を発したことで、ルーティ達に認知される。


 突然現れた綿毛のような鳥に、リノとキノが目を丸くさせている。コアの見た目は子供受けが良さそうだよな。


「可愛いな! 鳥?」

「あの……触っても、いいですか?」


 二人ともコアに興味津々だ。


「いいか?」

「構わんよ」


 コアがそう言うと、リノとキノがこちら側に来て俺の頭からコアを抱き上げた。


「見た目からは想像のできない声の渋さね……」


 そりゃそう思うだろうよ。


「うわー! ふわふわしてる!」

「むふーっ」


 リノだけでなく、珍しくキノもコアのモフモフに顔を埋めて興奮している。


(少しリノとキノの相手してやってくれ)

(任された)


 丁度いいと思い、コアにそう意志を伝えた。

 これでやっとルーティと二人で話が出来る。


 机の上で両指を絡ませ、本題に入る。


「あいつの名前はコア。って言っても、それは俺が付けた名前で、正体は阿吽の魔窟の核だ」

「……冗談言ってる場合じゃないでしょ」


 真剣に話したつもりが、軽くあしらわれてしまった。

 冗談も何も、本当なのだから他に言いようが無いが。

 そんなに可笑しなことなのか?


「どうしてそう思う?」

「当然よ。だって、阿吽の魔窟の核は二十年以上ギルドの冒険者が探し回っているのに、未だに誰も辿り着けていないのよ?」


 そうなのか。それは初耳だ。


 阿吽の魔窟関連の依頼なんて一度も受けたことが無かったし、同じ冒険者でもFランクの俺達には関係ないと思ってしまっていたし。


 そんなに核の捜索が行われていたなんて知る由もなかった。


「そうだったのか。でも、本当の事なんだ。俺の能力はその核の一部を取り込むことで、核の能力の一部を代わりに使っているに過ぎない」

「……」


 まだ信じていないようだ。


「能力は三つ。リノとキノに欠けた『生体共鳴』に魔窟内を自由に操ることが出来る『魔窟内操作』。それと魔物を生み出すことの出来る『魔物召喚』。ただ、三つ目に関しては使えないものと思ってくれ」

「突拍子のない話ね」

「そうだな。でもFランクの俺があんな芸当ができたんだ。それで納得してくれないか」


 あの時の芸当、とはもちろんリノとキノに起きた現象のことだ。

 能力の説明を聞いたルーティは一度考え込むように手を顎に添えると、納得したように頷いて言った。


「……わかった。一部納得できない点もあるけど今は言及しないわ。どうしてそんなことになってしまったのかも、私には関係の無いことだし」

「そう言ってくれると助かる」


 全部を説明していたらきりが無いし、個人的な話もしなくてはいけなくなる。

 元々察しが良いル―ティだが、物分かりが良いのも使う側としては有り難い。


「あんたの能力については大方理解したわ。私にできることも、話しておいた方がいいのよね?」

「そうだね」


 基本的に戦闘はルーティ頼みだし、核の力では戦えない。だから連携する場面もそうそうないとは思うが、知っておいて損はないだろう。


 彼女の戦闘面における知識は白黒どちらの魔術も使えるということくらいだ。


「私は基本、どんな魔術も使えると思ってもらって構わないわ。まだ魔術を使い始めて三年だから、知らない魔術は使えないか自分で作るしかないけど」

「三年? それまで魔術を使ってこなかったのか?」


 どんな魔術でも使えることや自分で作れることにももちろん驚いた。が、まだ始めて三年だということが飛びぬけて耳を疑う内容だ。


 それはつまり、ルーティがジークフリートに入ってからということになる。

 僕の疑問に、ルーティは自分のキューティクルを弄りながら答えた。


「このことを知るとみんな同じ反応をするわ。理由を話すには私の過去を少し話さなくちゃいけないから、あんまりこの話はしたくなかったのよ」


 過去……五年前に両親が他界したことや、三年前まで姉妹三人で過酷な生活を送っていた、ということは知っている。そこに関係しているということか?


「ま、でも、あんたは私のこと、調べたのよね?」

「ああ。両親がその、他界していることと、三年前まで過酷な生活をしていたってことぐらいは、調べて知ってる」


 勝手に過去を詮索したことは仕方がなかったとはいえ、申し訳ないことをしたと思っている。だが、謝るとまた彼女を不快に思わせてしまうと思い、それはしなかった。


 ルーティは一度ため息をつくと、声を落として話し出す。


「……そう。私達は五年前にママとパパが殺されるまでは、裕福に幸せな暮らしをしてた。戦いとは無縁で、魔術と関わることなんてなかったの」


 魔術は戦闘や医療においてその力を発揮する。才能があっても冒険者や医者を目指したりしなければ早々触れることはない。ギルドのあるこの街にいた僕からすればとても身近なものだが、彼女はそうではなかった。


「でも三人だけになって、リノとキノを守らなくちゃいけなくて。そんな時に、ジークフリートに命を救われた。ギルドに保護されて、二人を養うために冒険者になった」


 そうか。俺は勝手に、ジークフリートに強さを見込まれてスカウトされたのかと思っていたが違ったんだ。


 親が死んで自分たちだけになって、生活のために冒険者になった。なんだか、そこまではフェルダムと似ているところがあるなと思った。


 ルーティの話を続く。俺は黙って話を聞いている。


「私には魔術師の才能があったみたいで、ランクもすぐにSになって、ちょうど一年くらい前にジークフリートに加入した」


 才能、か。それが俺たちになかったものだ。


「だから私はまだ魔術師としては三年で経験が浅いの……以上よ」


 そう言って、ルーティはぐでっとソファに背を預けた。

 話ではなんとなく聞いていた過去だが、人伝で聞いた話には多少なりとも齟齬がある。そこに自分の憶測を混ぜることで話を補完する。そこに、本当の人物像は浮かばない。


 だから本人から本当の話を聞けて嬉しかった。

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