授業。
二ヶ月後、パトリック隊は次の任務地に移動した。
そこはさらに王都から離れた牧歌的な村。農地や閑地が多く人が少ない。人口より山羊や牛の方が多いのではないだろうか。
そんな村の片隅に建設された守人の館は、ぐるりと高い塀に囲まれていた。
町が遠いので買い物には馬車を使い、近所を散歩する時は声を掛け合う。
ここも治安は良く、村人たちは働き者ばかり。
「結界のほころびは基本的にどこにでも出来ると言われます。実際は出来やすい場所があります」
「それはどこですか?」
「山の上、海や湖の上、荒野、または砂漠。自然環境の厳しいところです」
午前中の勉強で子供たちは護衛から結界の授業を受けている。
「ほころぶとどうなるんですか?」
「天気が急変し、地殻変動が起こります。そのまま放っておけばそこで大災害になります。言葉の意味はわかりますか?」
「…わかりません」
子供たちにはむずかしい単語が出たので、そこを噛み砕いて教え、授業は続く。
「晴れていたのに急に雷が来たり、夏なのに氷が降ったりします。あとは地面が揺れたり、水が噴き出したり…」
「こわい…」
「そこでパトリックさまの出番です」
「おとうさまの?」
「はい。守人はそのほころびを体内から出る神力というもので塞ぐのです」
「すごい!」
「はい、すごいことです」
護衛が頷けば子供たちはパァと笑顔になった。
「僕も守人になりたい!」
「僕も!」
「わたちも!」
子供たちはみんな父親が大好きなのだ。
「どうやったらなれますか?」
「まず神力があると神殿が認めなくてはなりません」
「それはどうやってわかりますか?」
「十歳になった子供は神殿でリデル神に祈りを捧げます。神力があれば体が光ります」
それは初めて知った。
「ねぇ、オルガ」
「はい、なんでしょう」
「私もその祈りを捧げたかしら? 覚えていないのだけれど……」
相変わらず私の子供の頃の記憶はぼんやりしている。
「よく神殿に通っていたような気もするんだけど」
「…そうですね」
「きっと私に神力がなかったから、忘れてしまったのね」
平凡で冴えない私に比べ、やはりパトリックは幼い頃からすごい人だったのだ。
子供に視線を戻せば授業はまだ続いている。
「結界のほころびは見えるんですか?」
「よい質問ですね、カイルさま。守人によると、ほころびは最初目に見えないそうです」
「じゃあ、どうやってわかるの?」
「アランさまはどう思われますか?」
「う~ん……」
次男アラン、三男クリフは頭を抱え込み、スカーレットも真似してうなる。
「さっき、晴れてたのに雨がふったらわかるって言ったよね」
「でもふつうの雨とどうちがうのか、アランはわかるのか?」
カイルが長男ぶって腕を組み、弟たちを見る。
「そう言うカイルはわかるのっ?」
「災害が起こればわかるんだよね?」
「パトリックさま方は災害が起こらないよう、その前にほころびを見つけます」
「えっ……」
そう言われ、子供たちは固まる。
「降参。わかんないよ…」
「ではお聞き下さい。守人は空気のゆらぎを感じるんだそうです」
「ゆらぎ?」
「これは守人にしか分からないそうですが、その部分だけ風景がゆらゆらしたり、ぼんやりした感じになるそうですよ」
そう、パトリックが以前私にも語ってくれていた。
ほころび部分は空気が揺らいで、景色が歪む。
そこは人、天、地の三界が混沌としていて、一度ほころぶと何度も同じ場所でくり返す。
なので、そこを中心にチェックすれば、ほころびはより簡単に見つかるらしい。
「くうき…ゆらゆら……」
「スカーレットさま?」
スカーレットは立ち上がり、窓の外を指差す。
「あっち、ゆらゆら」
「スカーレット?」
娘の様子に私は近寄って一緒に窓の外を見た。
「どうしたの?」
「お父さまが行った方、ゆらゆらしてて石がガラガラ降る」
それを聞き、オルガや護衛たちと顔を見合わせた。
「スカーレット様はもしかして守人のお力があるのでしょうか…」
「まさか……」
守人は遺伝ではないはずだ。
それにパトリックは神殿で判定されるまで自分の中に神力があるなんて分からなかったらしい。
「スカーレット、ゆらゆらは近くにあるの?」
「ううん、今はとおいところ」
「そう」
もしスカーレットに結界の守人としての力があり、ほころびが感知できるとしても、私たちも本人も何もできない。
「パトリックが戻ってきたら相談しましょう…」




