愛している。
パトリック視点です。
順調に結婚生活は始まった。
だがオリヴィアは常に俺と距離を取ろうとしている。
俺に深入りさせない慎重な行動、受け答え。
まだ俺を信じられないのか。それとも成人男性となった俺が怖いのか。
婚約時代から少しずつ培ってきた二人の間の信頼も失われている気がする。
ことあるごとに他の女性の存在を確認しようとし、俺から逃げたそうな気配を醸し出す。
俺を見る目に不安を滲ませる。
一体、俺のなにがそんなに不安にさせているんだ?
そう問いただしたい気持ちをぐっと押し込める。
きっと強く言えばオリヴィアは怯えてしまうだろう。
人馴れない猫のように隠れて、二度と出て来なくなる。
諸々思い悩み、うかつに行動できない。
だから、俺の出来ることはただ一つ。
ただオリヴィアを大切に愛すること。
信じてもらえるまで、誠実に。
そう思えるのは、オリヴィアのおかげだ。
意識があるときはあんなに頑ななのに、ベッドでとろけると、幸せそうに俺にすがりつく。
まるで幼い頃のように、愛らしい顔で笑う。
俺はちゃんと愛されている。
きっとオリヴィアの心の中で、術の影響があって気持ちを素直に出せないんだろう。
しかしいつか通じ合えるはず。
そう信じて日々を過ごすうちにオリヴィアは立て続けに男児を三人生んでくれた。
その度にオリヴィアは美しくなり、やわらかな空気を醸し出す。
「オリヴィアの調子は良さそうだね」
「あぁ」
両親が訪ねてきてくれて、子育てに奮闘するオリヴィアをねぎらう。
母親と楽しそうに会話するオリヴィアの表情は自然だ。
「子供たちが彼女の安らぎになっているのか。よかったな」
「はい、俺だけの力じゃなくて複雑ですけど」
「子供に妬くな」
と、言われてもそう思ってしまうのだからしょうがない。
オリヴィアの表情は、さらに多彩になってきた。
本人はまだ無表情だと思い込んでるが、実際は侍女や子供たちにもわかりやすい顔をよく見せる。
それがかわいくてたまらない。
胸に閉じ込めて外に出したくない。
「執着しすぎると嫌われるぞ」
父親が嗜めるように目を眇めた。
「幸か不幸か、任務で不在の期間があるので俺がこんなヤツだと気付かれてないんですよ」
「それは幸いだ。お前は純情をこじらせた上に執念深い性格だもんな」
「放っといてください」
言葉とは裏腹に父親の目はやさしく俺を見ている。
「お前はよくやってるよ」
「…ありがとう、お父さん」
労われて目頭が熱くなった。
ある日、任務から神殿に戻り報告を終えて帰宅しようとした俺を友人が呼び止めた。
「急用じゃないなら後にしてくれ」
「はいはい、妻の待つ家に早く帰りたいんだろう?」
「分かってるなら退け」
「待てよ。オリヴィア嬢にまだ懸想する男がいるぞ」
「なんだと?」
俺は足を止めて振り返る。
「俺を睨むな」
「それはどんな男だ?」
「オリヴィア嬢の元同級生で、今は騎士団所属のヤツだ。お前の悪評を広めて、離縁を狙っている」
「ふむ」
「こんな輩は潰しても潰しても現れるなぁ」
友人は呆れたように両肩をすくめた。
「先月、王宮での夜会に二人揃って出たろ?」
「あぁ、どうしても断れなかったやつだ」
「あの時に学生時代の思いが再燃したらしいぜ」
「ふん、身の程知らずな」
「まぁそれだけ、オリヴィア嬢は魅力的なんだよ。昔よりもっと美しくなったし」
オリヴィアは結婚してから夜会にほとんど参加していない。
それなのに未だこうして面倒事を起こす輩が湧いて出る。
俺は仄暗い気持ちで、虚空を睨んだ。
「どうするんだ?」
「騎士団所属なら、そいつの上官にささやいて地獄を見てもらおうか。そしてぼろぼろになったところで、お前が似合いの女を紹介してやってくれ」
「やり口は相変わらず姑息でやさしいな」
「人をどん底まで陥れるのは好きじゃない。周囲が不幸だとオリヴィアの笑顔が曇るからな」
「お前の人生指針はそこからまったくぶれないな」
「当たり前だ」
俺はオリヴィアを包む世界を幸せにするという誓いを、神ではなく彼女に立てたのだから。
だがスカーレットを出産後、オリヴィアから離縁という言葉が出て、俺は一瞬で理性を失った。
ぶつけてはいけない言葉をぶつけた。
責めてしまった。
オリヴィアの怯えた顔を見て、言葉を飲み込む。
落ち着け、俺は知っているはずだ。
頑ななオリヴィアが見せるベッドでのやわらかな表情。
俺にすがる指、応える全身。
肌を合わせれば、昼に言えないことを包み隠さず俺に教えてくれる。
俺を愛していると彼女は伝えてくれている。
それを思い出せば、いからせていた肩の力が抜けた。
そして心に浮かぶいつもの言葉。
愛してる。
愛している、君を。
愛されなくてもいいなんて、今はもう思えない。
いつの間にかこんなに欲張りになっていた。
だって俺は知ってしまった。
君の心が俺にあると。
そう思えば今度は体の熱が上がった。
愛おしすぎて気が狂いそうだ。
「死ぬまで君を愛し続ける」
想いをささやけばオリヴィアは俺の腕の中でくたりと崩れ落ちた。
怯えて泣かせたか、執着心に引かれたか。
慌てて表情をのぞき込み、俺は息を飲む。
昼なのに……。
起きているにも関わらずオリヴィアは、ベッドで見せる微笑を浮かべていた。
よかった、伝わった。
滲む涙を隠さず、俺はオリヴィアのくちびるを貪った。




