彼女との思い出
貴族の結婚は政略…と言われるけど、僕とジョアンナは違う。
親同士が親しく、子供の頃から仲が良く、どんどん綺麗になるジョアンナに気付いた時、それは恋に変わった。
他の男に奪われる前に、両親を説得しジョアンナに婚約を申し込んだ。
この婚約は両家にとってメリットは無い。あるのはお互いの気持ちだけ。
婚約期間にどちらかの気持ちが離れたら、すぐ解消する…そういう約束だった。
僕とジョアンナはゆっくり愛を育んでいった。
ジョアンナが僕と同じ名前の楽器、リュートに興味を示したので、10歳の誕生日にプレゼントした。
ジョアンナがリュートを抱きしめる様に弾く様子が、可愛らしかった。
一緒に演奏する為に、僕もフルートを覚えた。
僕とジョアンナには、子供の頃からの決まりがある。
ジョアンナが水色の服を着ている日は、キスしても良い日。
喧嘩をしたこともある。喧嘩をした後、僕はフルートを持ち彼女の家に向かう。
庭で彼女の部屋を見上げながらフルートを演奏する。
ごめんね、仲直りしようという言葉の代わりに。
しばらくすると彼女が水色の服を着て、リュートをもって庭に現れる。
庭の東屋で、僕たちは何度もキスをして、リュートとフルートの二重奏を奏でる。
僕の過ちにより、二人の婚約は危機を迎えた。
問題の舞踏会から3日目、朝早く出した先ぶれに対し、訪問の許可を得た。
ジョアンナが水色のドレスを着ている。
だが、喜びは…ジョアンナの無関心な表情を見て直ぐにかき消された。
これはヤバい、戸惑っているうちに婚約解消の話を切り出された。
しかも、僕は彼女の記憶からも締め出されたらしい。
簡単に忘れるような存在だったのか?と信じられない気持ちで彼女を見た。
「訂正しますわ。どなたかは知りませんが貴方の顔は覚えました。元婚約者様」
ジョアンナの別れの言葉を聞いて、取り返しがつかない事態になった事を悟った。