表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生まれ変わって救済を望む  作者: 大月 爽
3.執行の始まり
24/26

閑話:事実と虚実

また久しぶりです。最近少々忙しくなっていて、向こうの方も次の分の書きだめが進みませぬ。




 「…随分と賢い子を持った、ようだね。第四部隊隊長は」

 「え、えぇ、そうですねぇ!」

 

 レイヴィス君の私に萎縮する反応を見て、これが普通であるのだと再確認する。

 私は第四部隊情報班…という表向きの部署に存在する第四部隊の裏の顔を形成する者たちを取り纏めている。地位で言うのであれば隊長を社長とするのであれば社長秘書。いや、その程度の生易しいものでもないが、最も近いものはそれだろう。少なくとも第四部隊だけならず英雄軍内で最も優れた情報能力を持つということは自負している。 

 

 「上手いものだ…」

 「え、えと何がですか?」

 「気にしなくてもいい」

 「あ、はい!」


 彼は実に上手かった。

 私の所有する能力は”精神干渉”。言うなれば嘘発見器。思考の表層を表情や仕草、言葉の抑揚や返答の速度からほぼ正確に理解するという能力である。

 彼は一度たりとも嘘をつくことなく私との対話を終えた。


 「レイヴィス君、彼は昔からこうなのか?」

 「こう、とはなんですかねぇ?」

 「話が上手かったのか?」

 「う…さ、さぁ?私にはちょっと」

 「そうか。ありがとう」


 思考の表層を理解するとはいえども、完璧に思考を読むことなど不可能である。私にできるのは”Yes”"No"で答えられる質問の信憑さを確定させることのみ。

 ゆえに、対象に対して聞きたいことを質問しながら嘘を発見し、そこを突き詰めて真実へと到達するというのが私のやり方。

 その点、彼は実に上手かった。揺らぐことはあったが、一度たりとも確実な嘘はつかなかった。おそらく、真に隠したいことを避けて話したものだと思われる。だが、その真に隠したいことが何なのかなのは少しも漏らすことなく対話を終えた…いや、終えてしまったというのが正確だろう。

 人というものは嘘をつこうとすれば嘘をつく内容を一度構想し、それから返答する。隠そうとすればその隠す内容について一度思考してから返答する。

 彼は、一度もそれをしなかった。まるで嘘ではなくそれが事実であると自分に思い込ませたかのように、隠しているのではなく知らなかったとでもいうかのように。

 

 「…レイヴィス君、銅彼方の調査の命を下す。人員は君が選びたまえ」

 「えぇっ⁉︎あ、いや、はい。えぇ。わかりました…」

 「不本意だろう。だが、私には知らねばならないことがある。指揮は、得意だっただろう?」

 「はい…」


 彼が明らかな嘘をついたというのなら、私はこれほど興味を持たなかったであろう。その点、彼は失敗したと言える。

 なかなかに上手かった…が、それでは二流だ。一流というものは完全に悟られず、情報すら誘導するもの。彼はまだ発展途上だ。できることなら私手ずから育ててみたいものだとも思う。この件で彼の安全性に確証が得られれば、一度仕込んでみてもいいかもしれない。隊長は彼が将来的には英雄軍に所属するとおっしゃられていた。ならば何も困ることもあるまい。


 「では、任せる」

 「了解しました。報告はいつまでに?」

 「彼の安全性に確証が得られるまで…特に、その能力について、知っておきたい」

 「…はい」

 「ああ、レイヴィス君」

 「はい?なんでしょうか?」

 「お代わり、いただいてもいいかな」

 「え、ええ、もちろんです」


 飲み終えたからのグラスを差し出せば、オレンジ色の液体が注がれる。

 私は酒は駄目でコーヒーや紅茶の類もあまり好みではない。それゆえに同僚とともに飲むのであればいつもこれを頼む。その癖だろう。あればつい飲みたくなる。


 「お好きなんですね、オレンジジュース」

 「ああ、私の一番の好物だよ。覚えておくといい」

 「ははは…なんか、進藤さんに親近感を感じますよ」

 「…そうか?」

 「あー!やっぱり今のなかったことにしていただけますかぁ⁉︎」


 縮み上がったレイヴィス君に笑みがこぼれる。

 私自身に特筆すべき戦闘技能はない。ゆえに私単体では怯えられるようなものはないのだが、私には多くの後援者がいる。

 おそらく、現在の日本で最も顔の広い人間であるだろう。

 …ああ、そうだ。白樺家のお嬢様が彼と契約を交わしていると言っていた。そこを辿るのもいいだろう。


 「では、レイヴィス君…確証の得られることを祈っているよ」

 「は、はいっ!」


 ゆっくりとグラスの中身を飲み干した。

 彼が味方であることを祈ろう。あれほど有用そうな人材も多くはいまい。


 「では、レイヴィス君…ご苦労。もう下がってくれて構わない」

 「はい…!」


 最後までこちらを伺うようにして去って行く。

 やはり、反応はこれが正しい。

 英雄軍第四部隊…英雄軍内でも特別異質な集団である。本来、英雄軍の人員は入隊試験の成績順にそれぞれ適した低数部隊へと割り振られるもの。年に二度、功績によって配属が変化し、上位部隊になるほどに能力の高い人物の集まる。

 だが、この第四部隊はそれらのルールが適用されない。

 第四部隊…これは隊長が直々に選抜し、英雄軍内だけでなく一般からも引き抜き構成された最高能力を持つ部隊。

 レイヴィス君…彼もその一人。

 彼は複数の言語能力を保有し、座標指定を自らの視覚のみでこなすことの可能な転移能力者。本来、転移能力は転移先の座標、地形、状況すべてを理解した上で初めて可能となるもの。彼の異様さはこれで毛でも十分に伝わるであろう。だが、彼の最も優れた点はそこではない。彼の最も優れた点は、全体を理解した上での指揮能力。彼の指揮する部隊に死者はなく、常に最高の功績を叩き出す。

 彼は謙遜するものの、事実私よりも優れた人種であることに違いはないだろう。


 「…私も、うかうかはしていられない」


 私の情報処理能力は英雄軍内でも軍を抜くほどのものだが、もう歳でもある。

 常に努力を重ね、常に功績を上げ続け、常に正確な安全を告げる必要があるのだから…私は。


あと一個入れたら本編を再開します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ