閑話:ウソとホント
すみませぬ。リアルが色々と忙しかった故に…(言い訳)
いつからだったはあまり覚えていない。
なんとなく。そう、なんとなく…他人がウソをついているのがわかった。
「…今日も疲れたな、本当に。遥先輩は加減を知らないんだからさ。まぁ、そんなところも可愛いんだけど」
帰り道、ボソッとつぶやくその言葉には心が乗っていなかった。
あんなに厳しい親に育てられたからか、肝心なところと誤魔化す親友が側にいるからか、どこまでも純粋な幼馴染がいるからか…何が理由なのかはわからない。もしかしたらそう思い込んでいるだけの思春期によくある症状の一つかもしれない。
だが、少なくとも俺の心は物事に酷く無関心だと思われる。基本的に強い感情は芽生えることはない…
「でも…なんでだろうね。ここまでして強くなろうと思ったのは」
そのはずだった。
あの事件によって変わったのかもしれない。あの日から、彼方をまっすぐ見られなくなった。ウソで作り上げた俺の顔を、向けられなかった。恐怖で作り換えられ、苦しみに塗り固められ、後悔によってコーティングされた顔は、もう前の俺ではない。いや、いられないが正解だね。
でも、ウソで塗り固めた生活をやめようとは思わない。これが俺だと思ってるから。きっとこれが彼方たちの思う”ヒロト”だから。
「でも、知らないんだろうな。彼方はきっと」
頬が釣り上るのがわかる。
俺は小さい頃、人を率いていく彼方に憧れていたんだ。彼方は頭が良く運動ができて、本人はあまり喜んではいなかったけど多くの人に囲まれていた。まぁ、喜んでなかったから今では仲の良い友人といえば俺たちぐらいしかいないんだと思うけどさ。だけど、少なくとも俺はそんな彼方に憧れていつでも横にいた。
「…なんで、言ってくれないんだよ。彼方」
だから、不自然さにはすぐに気がついた。
同じようになりたくて、かっこ良くなりたくて、じって見ていた俺だからわかったんだと思う。彼方はいつもウソをつく時…いや、言いたくない事なのか言えない事なのかわからないけど、その事を隠す時だけ少し寂しそうな表情を浮かべる。
俺も言いたくなった時に言ってくれれば良いと思って尋ねたりはしないけど、最近それが多くなった。しかもそれは増える一方。今日だって遊びに行こうと思って下見をしてきたと言っていたのは明らかなウソだ。でも、それがウソだというのなら、まるで…
「自分から戦いに行ったとでもいうのかい…?」
つい口から言葉が漏れる。
俺はそこまで頭の良い方ではない。まぁ、茜ほどバカではないし、一般的には頭が良い方に分類される程度ではあるが。
そんな俺の考えられるそのウソの解釈は、自ら戦いに行ったという事。身体中の傷、ごまかす時のいつもの寂しそうな表情と他に申し訳なさげな顔。それに加え忍までもが同じように申し訳なさげだった。忍の未来視の内容は知らないけど多分人が死ぬ事件やそれに類するもの。それを利用して彼方が自分から戦いに身を投じた。
…ありえない話ではないし、可能性の一つとしては十分にあり得る話だとも思う。
「だったらなんで、俺も…俺たちも巻き込んでくれないのさ」
人の表情を見るのが得意な俺だから気がついた。その時の隠すように浮かべた茜の惨めな表情に。
もう二度と、あんな目に彼方を逢わせせたくない。もう一人でなんて戦わせたくない。そんな感情のこもったつらそうな表情。
多分、ウソをついたことには気がついていないと思う。彼方の表情の変化はわかりづらいから。でも、例え気がついていなくたって、テロに巻き込まれたという事実だけで茜に苦しみを与えるには十分だ。
きっと彼方は強くなった。それこそ想像もつかないほどに。だけど、戦いに身を投じるのは…一人だけで戦いに身を投じるのは悔しい。俺も頑張った。自分でも驚くほどに努力をした。それはみんなを守るためでもあるが、一番は彼方だけに苦労させないため。あの日、俺は何の役にも立たなかった…いや、立てなかった。彼方は守ってくれてありがとうなんて言ってくれたが、守られたのは結局俺だ。
「ただいま」
返事のないのはいつものこと。なにせ誰もいないのだから。
両親は夜遅くまで仕事をしている。道場は父さんの休日である木曜日と日曜日だけ。
制服を脱ぎ捨て、カバンを放り、ジャージに着替える。
それから一礼して武道場に入った。
「フゥ…」
竹刀を構え、オードを流す。
(切断付与)
対象を意識し、付与される効果を想像し、オードによって能力を発動した刀と同等の…いや、実際にはチェーンソーのように触れたものを切り裂く効果を得た竹刀を型に沿って振り下ろす。
今の俺のオード量ではこの程度の付与が限界。もっとオードを込めればウォーターカッターのように”金属すら切り裂くような効果が付与できる”と、感覚的にはわかるのだが、今の俺にはこの程度が限界地点だった。
…いや、そもそもそんな能力であるという事実もおかしいね。
前に能力の比率の話をした時に初めて気がついた。
普通の”切断付与”はオードを込めた分だけよく切れるようにはなるが、切断の種類が変わるなんてことは決してないらしい。それなのに俺の”切断付与”は量によって包丁程度、西洋剣程度、日本刀程度…と変化していく。誰にも言ってはいない、俺だけの秘密だ。
「…彼方にもっ…あるのっ…かなっ…!」
彼方の能力…”鉱物想像””鉱物操作”にも誰にも言っていない秘密があるのだろうか?
いや、ないか。想像や操作に変わった特徴なんて存在しそうにないから。あるとすれば茜や遥先輩だろう。
例えば…そうだな。身体強化は肉体の強化だけじゃなくて頭脳とかまで強化してくれてるとか。頭が良くなるのであればあり得そう。
「…まぁ、遥先輩ならウソついたらわかっちゃうし、ないか」
付与が解けた竹刀を元のように片す。
人の表情はウソをついたり、隠し事があったりすれば、些細なれど変化が起きる。それを俺は見ることができた。あんなに日頃から見ている遥先輩であればなおのこと。
「さ、次…」
足元に”初心者からの空手ならこれ!”と書かれた帯のついた教本を開き、時間を見てまだ両親が帰ってこないのを確認してから両手を構えた。
空手の…そういった風な感じの適当な構え方。
(切断付与)
両腕と両足にオードを流し込む。
微量の痛みとともに付与が成功したことを告げる。
「まずは、こう?かな」
教本の指示に従って突きと呼びにはいささか不恰好なものを繰り出す。
「で、次はこんな感じ…?」
前日の夜中に確認したネットの動画のようにはまだ動けない…いや、そもそもそれと同じように動く意味はない。
俺の”切断付与”にはもう一つ秘密がある。こっちは最近になって初めて気がついたこと。俺のそれは人体への付与が可能だった。
本来、”本来の状態を変質させるもの”を生物に付与することはできない。例えば硬化させたり逆に軟化させたりするのや切断できるようにしたり熱を持たせたりするものだ。逆に元あったように再生するのや元の状態を強化するのは可能…まぁ、そういうのは大抵強化能力に含まれるわけなんだけども。
これまた不思議なことだ。
なぜできるのかということについては考えたことがなかった。俺はもともと超能力部には彼方に連れられて入った口で、そこまで興味はなかったのだから仕方がない。おかげで多少能力について詳しくはなったけど、代わりに変人集団の一員扱いされるようになった。まぁ、変人であるということについて否定はしないけども。
「…そこで、こう?」
蹴りを繰り出してみて首をかしげる。
やはり師範代が欲しいが、こんな歪な武術の師範代は見つからないだろうね。なにせ両手両足を刃物にして戦うのだから。
殴るのではなく、敵を突き刺す。蹴るのではなく、敵を切り裂く。
切断付与の便利な点は意識しなければ全てが切断面になるということ。つまり、鎬も峰もない。全てが刃。ただ、硬度自体は変わっていないので切断する力よりも硬いものにぶつかれば付与対象が壊れるのと同じように、俺の体にも痛みが来る。
だから、うまく殴れるように、うまく蹴れるように訓練をしているのだが、相手がいないからどの程度の効力があるのかわからないし、実際には切れるのだから突きが相手に刺さるということもあるだろう。
「はぁ…やっぱりわかんないや」
当面の目標はオード量の増大だろうね。
ある程度の動きができれば、最悪は能力で押し切れるはず。どんなに硬いものが当たってもダメージとして当たるより先に切断できれば痛みはない。これはすでに実証済み。あまりに硬いものだと切れずに打撲をするし、当たる速度が速ければ切り終わるより先に本体に当たるので多少痛い目にあう。
ようするに切断能力が強くなればそれで全ての問題が解決する。
能力さえ強くなれば、紙の筒でも刀を切れる。能力さえ強くなれば、素手でもコンクリートの壁を切り開ける。
全ては次に備えるため、彼方に置いて行かれないため…置いて、行かないために。




