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生まれ変わって救済を望む  作者: 大月 爽
3.執行の始まり
20/26

20.逃亡失敗

またぼちぼち更新していきます。

今年もよろしくお願いします。



 「一撃に全力をかけろって言いたいわけ?」

 「ふむ。それがしがそれを防ぎきれねば大人しく引くことを約束しよう」

 「…ダメだ」


 俺の能力を見られている以上逃すわけにはいかないし、匂いや他の情報も握られている。こいつだけは絶対にここで殺さないといけない。


 「交渉…決裂であるな」

 「ああ、しょうがないから続けようぜ?」


 俺は左腕を向け剣を生み出して、それをオオカミに向けて飛ばす。今度は限界までの量を生み出した。その数72本。できれば剣だけで勝負をつけたいところだが、できなければ冠に使っていたダイヤモンドの弾幕でも張って量で押し切って殺そう。早期決戦でなければ英雄軍が来てしまう。その場合、俺は敵になってしまうので退散しないといけなくなる。敵の敵は味方だが、それがいつもとは限らない。要するに今英雄軍との接触は避けておきたいのだ。

 大量の剣はオオカミに向けて飛び、あらかたが躱されて地面や商品棚、そして死体に突き刺さる。避けきれなかった剣はオオカミの毛を少しだけ切り落として同じように突き刺さる。やはり鉄に爪や牙では立ち向かえないようで、オオカミの体からは少しだけ血がにじむ。

 

 「…なぜ、先ほどは全力を出さなかった?」

 「周囲にまだ生きてる人がいたから。もう死んだみたいだし、生きてる人の大半は逃げたし」


 俺たちが話している間に、まだ息のあった人は命からがら逃げたし、ほとんど死んでいた人は息を引き取った。都合は良いが気分は良くない。

 事実そのおかげで俺は周囲を気にせずに攻撃をしている。


 「…時間稼ぎであったか」

 「そういうことだ」


 俺は質問に答えると同時にもう一度腕を振るう。次はオオカミの顔の目の前あたりを狙って数本の剣を放った。それに加え、避けると思われる方向へ2本ずつ合計12本を飛ばす。

 最初の攻撃をギリギリでかわしたオオカミは俺から見て右側に体を動かしてさらに2本の剣を避け、その先にあった1本が肩へ、それによってさらに避けきれなくなって1本が左足へ、それ以外は当たらずに地面を転がった。

 避けられてしまった剣は地に転がる死体に突き刺さった。


 『鴉、時間がないよ。あ、あと10分足らずで英雄軍が来る』

 「わかった。すぐに片付ける」


 出し惜しみをしている時間はもうないようだ。

 俺は証拠を残さないためにすでにあちらこちらに刺さった剣を消し、そして諦めてダイヤモンドの弾を生み出して打とうと思いオオカミの方へ視線を向けた瞬間、何かが違うという違和感に気がついた。

 立ち上がったオオカミはブランと両腕を垂らし、亡霊のようにゆらりと立っている。そしてその眼がこちらに向いた瞬間、俺は違和感に気がついた。その眼に宿っていた理性は消え去り、本能むき出しの表情を浮かべていた。

 その表情は獲物を狩る獣そのものだった。


 「ガルルルゥ…」

 「まだ変化するのか…」


 オオカミは二歩足で立つのをやめ、手のような形を残していた前足を地面につけ、完全にオオカミの姿へと変貌した。声は届かず、うなり声が耳に届く。変化したことで体が小さくなり、刺さっていた剣が抜けて地面にカランと音を響かせて落ちる。

 そして、その強靭な4本の足で地面を蹴った。

 

 「…獣には負けないよ」


 その動きにはさっきまでの華麗に剣を躱す熟練されたものは一切なかった。ただ本能に従い、獣として突っ込んでくるのみ。もしかしたらこうならないよう、自力でさっきの姿で押しとどめていたのかもしれない。やはりよくわからない能力だ。

 俺は右手に持つ剣を一閃した。

 ただそれだけの行為にオオカミは地面に落ちる。その姿は獣から人へと戻り、背中にバッサリと切り傷が残った。


 「悪いな…死ね」

 「貴殿は、つ…⁉︎」

 

 何かを言おうとしていたがそれを気にせずに俺はその心臓へと剣を貫く。

 力なくその人は地面に倒れこむ。

 何度感じても嫌な感覚だ。

 

 「一番ひどくなりそうな場所は?」

 『3階に上がってすぐのゲームセンター。き、機械が爆発しているのが視える』

 「了解」


 俺はその場から走り出し、一瞬だけさっきと同じ要領で足場を生み出して宙を飛ぶ。エスカレーターに転がる死体が邪魔で登れなかったのだ。

 言われた通り3階まで上ると爆音…ゲームセンター独特なあの騒音ではなく言葉通り爆発する音を流すゲームセンターがあった。内部からは火災報知器がピーとうるさく鳴り響き、ゲームセンターの騒音と合わさって耳が痛い。


 「マズイな…」


 ついつい口からこぼれた言葉は時間を気にしてのものではない。この音の中では忍との会話がうまく聞こえない可能性があるからだ。もし英雄軍が来る時間になってしまった場合、俺は即時撤退しなければいけない。しかし、忍からの声が届かなければ逃げれる可能性がぐんと下がる。


 「破片、あと何分だ?」

 『え、英雄軍が来るのは、7分24秒後だよ』

 「了解。3分前に教えてくれ。そうしたら逃げる」


 俺は爆音が響く中へ走り出す。

 周囲に二酸化炭素を充満させ、自分に火の粉が降りかかっても大丈夫なようにしてゲームセンター内を駆け巡る。そのため空気を遮断してはいるが、多少焦げた匂いが鼻に付く。意外と広いゲームセンター内は狭い通路に人が転がっているせいで余計に動きづらかった。俺はUFOキャッチャーの上に飛び乗り、その上から敵を探す。


 「あれか?」


 コインゲームがあったはずの場所に爆音の中心があった。

 

 「生きてる人がいたらごめん…」


 俺はそう言ったあと左腕を振り、周辺に剣を大量に生み出してその煙に覆われてよく見えない爆音の中心へと剣を放つ。

 その場から地面に飛び降り、その煙が起きている方へ走る。次の瞬間、俺が乗っていた機械が爆発した。


 「マジか…」

 『…ラス、あ…5ふ…よ』

 「ああ。やっぱ聞こえないな」


 俺はかろうじて聞こえた5という数字から残りが5分であると推測し、そのまま敵が居ると思われる方向へと走る。地面に転がる死体を避けつつ移動し、煙の中心に到着する。

 しかし、その煙の中心には死体以外が転がっていなかった。


 「どういうことだ?」

 『て…は、味…たのふ…をし…る…。カラ…そこ……逃…!』

 「ダメだわからない…」


 おそらく忍には何かが視えたのだろうが、その言葉が聞こえてこない。

 俺がどういうことかと考えていると、真横にあった機械が爆発した。幸い、その瞬間にダイヤモンドで障壁を作ったおかげで俺自身に大きな被害はなかったが、多少爆風を浴びて肌がチリチリと焼けた。これはあとでしっかりと風呂に入らないとスス臭くなりそうだな。


 「無理だ。時間がない。生き残ってる人、本当にごめん…」


 俺はゲームセンターから抜け出すために走り出し、それと同時に出口から遠い場所から順に一酸化炭素を生み出して充満させていく。生き残っていた人は間違いなく死ぬだろう。だが、これから来る戦える英雄軍が死ぬのと一般人が死ぬののどちらがいいかと言われれば、英雄軍が生き残った方がいい。悪いが犠牲になってもらおう。

 …俺たちのために。

 ゲームセンターから逃げ出した所でゲームセンターの爆音が収まった。それにより能力者が死んだという確証が得られる。俺は生み出した一酸化炭素を消す。


 『鴉、じ、時間だよ。もう…逃げないと』

 「…ああ、わかった。英雄軍はどっちから来る?」

 『ひ、東ゲート。今の所、み、未来は変わってないよ』

 「わかった。西側から逃げればいいんだな?」

 『うん』


 俺はその指示に従う前に、近くにあった服屋に入る。監視カメラを壊してから試着室の1つに入り、ローブのススを払い落として黒曜石で作ったカラスの中にしまって飛び立たせ、俺自身も着ている服に焦げた跡ができてしまったため適当な服を見繕って着替え、着ていた服も同じようにカラスにしまって飛び立たせる。さらにゴーグルも外し、ウエストポーチへ放り込んだ。

 最後に鏡を見て顔についたススを洗い落とし、きれいな状態に戻った所で俺はそこから抜け出す。

 そして、言われた通り西側のゲートへと向かう。エスカレーターを降りがなら俺の口からは不満が漏れ出す。


 「時間が足りない…っ!」


 結局殺せたのは4人。あと1人殺しきれなかった。

 それに未然には防げなかった。まぁこれは予想していた通りなのだけど、やはり目の前に大量の死が転がっていると嫌でもそれを感じさせられる。

 でも、結果としては成功なのだろう。本来であれば俺が殺した奴らによる被害はもっと大きくなっていたし、そのおかげで生きている人だって少なからずいるはず…いや、いてほしい。

 だが、今はここから逃げることが先決だ。英雄軍には俺の知り合いが多少だけどいる。なぜ戦わなかったと言われればそれまでだ。見つからないうちに逃げなければならない。 


 「ところでもう1人はどこにいるんだ?」

 『き、北ゲート付近だったはずなのに…!鴉、早くそこから逃げて!』

 「は?」


 俺の質問には別の答えが返ってきた。

 エルカレーターを駆け下りて通路を曲がった次の瞬間見たものは、1本の曲刀を携え死体の山の上に座る1人の女。いや、むしろ少女というべき幼い風貌の女の子だった。しかし、その仮面に隠れていない口にはおぞましいほどに純粋な笑みが浮かんでいる。見るものに恐怖を植え付けるような、そんな表情。

 そして、その死体の数は今日見た中で一番多い。


 「破片!被害が一番少ないのじゃなかったのか!」

 『変わった…突然変わった。ほんの2分前まではこんな未来じゃなかった…!』

 「嘘だろ…え、英雄軍が来るまではあと何分だ?」


 俺はその異様な光景に息を飲み、忍に尋ねる。

 今この格好で俺が戦闘をするのは好ましくない。今はまだ1回目だが、次起こる場所や、その次、俺が見つかれば疑われる可能性が上がる。できる限り人に見られるわけにはいかない。


 『…2分半。それまでは耐えてっ…!』

 「いや、俺がこの子に負けるのか?」

 『か、鴉の未来は見えない。僕には君の未来だけは映し出されていない』

 「……?」


 俺の未来が見えない?一体どういうことだ?

 

 『と、とにかく。君が見つかるのは好ましくない』

 「あ、ああ。わかった」


 早いところ仕留めるか、うまく巻いて逃げよう。

 そう思ったところで俺が少女に向き直ると少女が俺に向かって切りかかってくる瞬間だった。予想外の出来事だったために俺も冷静ではなかったようだ。俺はすんでのところでひらりと身を躱し、攻撃を避ける。

 少女の顔に驚愕が映った。


 「避けた…?」

 「なんなんだよ…」


 その声は異様に幼かった。俺と同じ程度の年齢の可能性が高い。

 そんな子供が一体なぜ?…いや、洗脳という手があった。もしかしたら洗脳されているだけで、本当はこんなことをしたくないのかもしれない。

 俺に切りかかってきた少女はその身を翻し、再び俺に向かって剣を薙ぐ。俺はそれを再び避ける。


 「なんで…避けるの?」

 「しょうがない…よな?」


 俺はその問いに答えることなく、剣を生み出してその少女を斬りつける…否、斬りつけたはずだった。その剣はカンッと金属音を響かせて弾かれた。


 「金属音…?いや、硬いものだ。これは…硬化?」


 十中八九、間違いなく能力だろう。そんな能力を思い出せば”硬化付与”という能力が思い浮かんだのだが、そのような物質の状態を変える能力は生物には作用しないはずだ。じゃあ一体なんだ?

 そんなことを考えていると再び少女の剣が振るわれた。

 少女の剣はそこまで早いわけではないし、一撃一撃も全く重くない。俺はのらりくらりとその斬撃を躱し続ける。


 「避け…ないで?」

 「お前の能力は硬化付与じゃないよな?」


 攻撃を躱しつつそれは少女に問う。残念ながらその問いの答えは返ってこない。

 しかしその表情からしておそらく違う。ならば一体なんの能力だ?俺は能力に関してはそこそこ詳しいはずなのだが、そんな能力は聞いたことがない。駄能力でさえ自分の体を硬くするような能力はなかったはずだ。全く見当がつかなかった。


 「殺させて…?」

 「断る。ていうかなんでお前みたいな女の子が殺そうとしてくるんだよ」

 「Bossのため…」

 「じゃあ、そのボスは随分と腐った野郎だな」

 「Bossを悪く言うのは…許せない」


 俺が言った言葉に少女は随分と怒ったようで、口元は酷く歪んだものへ変化した。

 そして、少女が俺への攻撃をやめて立ち止まる。


 「吸え…」

 「…は?」


 少女がそう呟くと、少女の周囲の地面が少女の足から言葉通り吸われるように消えていく。床が窪み、クレーターのようになってしまった床の中心に少女は立っている。

 いや、すでにその体つきは少女というべきものではない。平らな幼い体は、女性らしい丸みを帯びたものへと変化していた。つまり、成長していた。小さかった身長も160cm後半くらいまで伸びているように見えるし、着ていた服もサイズが合わなくなりヘソが見えている。

 

 「今度こそ…死んで?」

 「いや、ちょっと待て⁉︎一体何があった⁉︎」


 俺の叫びも関係なく、少女であった女性は俺にその手に持つ刃を向ける。


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