解して癒して
すぱーん、と頭を叩かれた。痛くはないが、気分がいいものでもない。
黄薔薇の先輩は、すっかり肉体言語での伝達をするようになってしまった。
主に話しかけてくるときに、ほとんど必ず頭を叩かれる。
見習い時代にはあった配慮、これ以上馬鹿になったらどうする、という懸念はとうに消え失せたらしい。
石頭だから多少なら大丈夫だし、よしんばダメでも普段から特に深く物事を考えていないのだからあまり変わらないだろうと言う、ティアにとってはとんでも理論な根拠をもとに彼らはばしばしばしばし頭に手で話しかけてくる。
なんだかんだ叩いていても騎士試験を(同期の中で)主席合格してしまったことも関連しているのかもしれない。
当日だけ別人だった、それはもう気持ち悪いほどよくできた、カンニングを疑って検査も行ったが紛れもない本人だった、と今では伝説として語り継がれているが、何のことはない。
師父、黄薔薇騎士団に加えて子羊という超強力な味方がその時には存在したのだ。
その上に釣り餌、「主席取ったら殿下がキス」が用意されたとなれば、あとは本人が死ぬ気で頑張るだけである。
ひたすらにできるまで反復練習、できたらできたで今度は寝ていても可能なようにまた反復練習。
惜しむらくは、試験が終了したら大体の詰め込まれた知識はどこかに飛んで行ったということだろうか。
飛んで行ったがゆえに、叩かれるようになった面もあるのだが。
ちなみにご褒美に関しては、本人ではなく子羊たちが勝手に言い出したことな上、どこにとは指定していなかったため、彼女は散々抵抗した挙句、結局額へのキスで妥協した。
それでも報われたと浮かれはしたが、いつかは口に自然にしてもらえるような、そんな関係になりたいと燃えているティアである。
そんな状態に慣らされてたまるかと戦々恐々しているリリアナとの温度差を、彼は知らない。
頭をさすりつつ振り返って睨みつけると、先輩騎士の狼はにかっと鋭い歯を見せた。
「彼女が恋しいか?」
ぐぬっ、と詰まると、彼は笑みを深めた。
「顔に書いてあるぞ。最後に会ったのはいつなんだ、ん?」
親しみと冷やかしをこめて再びやってくる先輩の拳をかわして、ティアはさっさと立ち去る。
残念そうな声がするが、先ほど自分の当番が終わった以上、一刻も早くニコのところに向かいたいのである。
この間の妙な地震があってから、良くないこと続きだ。
まず、リリアナの言いつけどおり飛んで行った先の師父は、ちょうどよかった、当番を増やすと宣言し、有言実行した。
つまり、自由時間が減る。
別に仕事時間が増えてもさして疲労はしないが、自由時間が無くなると言うことはすなわちリリアナとの憩いの時がなくなるということである。
こちらだけでなく向こうも忙しくなってしまったようだった。
その前までは、近衛になってから週一は必ずどんなに一瞬でも時間を作ってくれたのに。
最後に直接会った時から、これで一月半――つまり約90日。
今までが天国だっただけに、これは辛い。
しかも予告ありでのことだったらまだ耐えられたが、急に始まっていつ終わるかわからないのである。
ゆえに、廊下を歩いたり特定の扉の前で突っ立っているだけの当番が終わると、速やかにニコのいる定例会会場に飛んで行ってリリアナから「今日会える」と言うメッセージが来ていないかチェックし、そして意気消沈し、すごすごと次の仕事へ出かけていく。それが約90日のシーグフリードの生活サイクルである。
40日を経過したあたりから、ひとしきり落ち込んで悲しみの声をきゅんきゅん上げていただけにとどまらず、定例会談話室の一角に頭を打ち付ける症状が出始めた。怖いからやめろと子羊連中からは大不評であるが、如何せん止めると更に不機嫌になるので、皆すぐに自分たちがスルーする方向に順応した。
そもそもヒトの事を全く馬鹿に出来ない変態揃いなので、同類の奇行に対するスルースキルも理解力も高い。
70日経過くらいからは、壁に頭ではなく拳をめり込ませる事案も発生している。
ひたすらに無心に、ただただ一定のリズムで壁を殴り続けるだけのその姿は、事情を知らなければ完全に狂気そのものである。
いや、事情を知っていても狂気そのものである。
ちなみに悪い子羊たちは、いよいよ我慢ができなくなったら夜這いだな、さていつまで持つかなと話しており、冗談でもやめてください(っす)! と良心派である副会長やニコを泣かせている。
「……これはもう、深刻な殿下不足ですのねー。早く殿下を補給してあげないと、危険な気がするのですー」
「栄養が足りてないね、みたいな要領で言わないでくださいっす!」
「似たようなものじゃありませんのー?」
「殿下は食べ物じゃないっす!」
「まだギリギリ未成年ですからねー」
「成年になってもモグモグすんなっす! やめたげてっす!」
「それは私じゃなくて、そこのヒトに言ってほしいんですけれどもー?」
「……あの、おれっち、純粋な短命種なんすけど……?」
「知ってますけどー?」
「………………おれっちに死ねと?」
「骨は拾ってやるですー。さあ、遠慮なくー」
「死んだ後の事保証されてもなんも嬉しくないっす!」
今日も今日とて無言で壁を殴り続けている近衛の背中を眺めつつ、文官と世話係はそう言い合っている。五月蠅かったのか、振り返ったティアに睨みつけられてひっとニコの方が竦みあがった。
その隙にセシリーがやれやれと言いながら壁を修復しているが、再び穴だらけになるとちょっと首をかしげてから、謎の模様を空にふわふわと小さな杖を回して描く。
「ええと、手ごたえがないと益々欲求不満になるのでー、つまり破壊とある程度の強度は必要でありー、では更に強固で速い自動回復をかけてー、問題の魔力供給源はー、この際殴った本人から徴収で構わないのでー……」
すると、彼女がぶつぶつつぶやいているうちに、まもなく壁はセシリーが何もせずとも、ただひたすらに殴られては自己修復する、そんな悲哀漂う物質に変化した。
無言で壁を殴り続ける男と、殴られ続ける壁のハーモニーに、ニコがうわああん、と半べそをかく。
「だってだって――しょうがないっすよ! 殿下は最近ご多忙なんす!」
「知ってる」
相変わらず一定間隔で殴りながら、ティアは答えた。
「でも、手紙はくれるじゃないっすか。それに博士からあれ以来画像も音声ももらってるでしょ!」
「それじゃ足りない」
ドゴオッ、と一際壁がへこむが、なんとか立ち直る。
セシリーが横でまた首をかしげて、
「あー、そうか。体力も魔力もあるからこれ、もしかして無限に続いちゃうかもしれないんですのねー? どうしましょう、それはそれで不気味だけれど……まあいいか、壁ですしー」
とつぶやいている一方、ニコは即座に返答した後小休止に入ったらしい、壁をにらみつけている男に呆れた顔をした。
「わっ、わがままっすね……」
「恋をするとはそうしたものですのよー、ジュニアちゃん」
それに反応したのはセシリーの方で、壁の方はもう興味が薄れたのか、くるくると杖の先を回しながら、ニコの方に向き直る。
「ふーん……?」
「あなたはまだ、だれか気になるヒトはいないのですかー? お年頃なのにー?」
「いや、そりゃ、可愛い子は短命種仲間にいるっすよ。でも、シーグフリードさんみたいな感じじゃなくて、本当にこう、可愛いなー、気になるなー、くらいって言うっすか――」
ピッとセシリーは杖を止め、眼鏡の奥から笑っていない笑顔でニコに言い聞かせる。
「このヒトは上級者ですから、初級者が迂闊に真似っ子しちゃいけませんー」
「……そっすね」
ニコは一拍置いてから棒読みに答えると、くるっと振り返って部屋の奥の方に声をかけた。
「それにしても博士ー、会長はまだ帰ってこないっすか?」
奥の方の博士は指名されて思いっきり身体を跳ねさせるが、手元から目を離そうともしないし手を止めようともしない。
一心に、石板に何かを打ち込んだり読んだり謎の道具をくっつけたり剥がしたりしながら、その合間にニコに答える。
「えっ――な、なんで私に?」
「だって、会長の指示であれつけたんすよね?」
博士曰く、スキャン装置なる謎の魔具をニコは仄めかす。
それは秘密基地の入り口、竜象の目に追加されたもので、体内の魔力の流れを感知測定記録するとかなんとか。
「そんなもん測ってどうするっすかー?」
「まあ、念のためだよ、念のため」
博士が歯切れ悪く答え、ニコがぎゅっと眉根を寄せてさらに問い詰めようとした瞬間、談話室の扉が開いた。
「皆、御苦労。ここにシーグフリードは――」
久々に部屋に顔を出しフィリスは、すぐに目当ての人物を見つけ、そして彼がひたすらに壁を殴っている光景に一瞬挙動を停止し、部屋を見回してセシリーに焦点を合わせる。
「……あれは、なんだ?」
「殿下欠乏症ですのよー。会わせてあげると治りますのー」
「会わせない方が殿下のためじゃないか?」
どう見ても禍々しいオーラに溢れている男の剣幕にフィリスが目を細めると、セシリーははんなり笑い、ニコは震える。
「キャロル様、あの、お願いっすから連れて行ってくださいっす。我慢させ続けることの方が、よっぽど危ないっすよ……」
フィリスはぴくりと耳を立て、期待の眼差しでこちらに関心を向けている黒龍と、どことなく疲弊している周囲の子羊を見比べる。
――部屋の奥の博士と助手は、例の地震から続けている謎の作業に没頭していたが。
結論が出て、フィリスは肩を落とし、すぐにピシりと先輩近衛らしく姿勢を正してティアに言う。
「シーグフリード、身体を洗ってその邪念と怨念を落としてこい。話はそれからだ」
それって身体を洗ったら落ちる物なのだろうか、との周囲の疑問を余所に、若い近衛はここ最近で最高に輝きながら風呂場へと走って行った。
なぜか言いようのない眩しさ――鬱陶しさとも形容できるかもしれない。
それを感じて、リリアナは重たい瞼に力を込める。
上の方から、聞き覚えのあるクークーだのきゅるきゅるだの、竜特有の甘え声がさっきから絶え間なく降ってきている。
正直、ウザい。このまま睡眠を続行するのが困難な程度には。
うっすらと細目になると、なぜかつやつやと輝く鱗の、喜色満面の知り合いがしきりと嬉しそうな音を喉の奥で鳴らして覗き込んでいた。
「ティア……」
「リリアナ」
……なんでお前そんなに光り輝いているんだ? との疑問はとりあえず保留しておいて、彼女は椅子に横たえていた身を起こす。
場所は以前いろいろあった末に仲直りし、ついでに二人が初めての経験をした彼女の私室だった。
相変わらず部屋の中には本が散乱している。
リリアナは以前とは違って紺色の普段着つまり男物の服を着用しており、ソファに寝っころがってそのまま眠っていたらしい。
その姿はさっき入口から入ってきた時点で十分堪能したので、ティアは満足してうるさく鳴き声を上げていたのである。
そんな知らなくていい裏事情はともあれ、リリアナは目をこすりながら聞いた。
「……フィリスが呼んだのか?」
リリアナが聞くと、うん、とティアはうなずいた。
彼女が椅子にクッションを抱えて座ったので、ちょうどその前の地面にティアも座り込んでいる。
さながら、お座りしている犬だ。しかも全力で尻尾を振っている。
……本性は竜だが。
「疲れてるの?」
「……ん。あんまり見せたくなかったんだけどな、こういうところ。フィリスめ……」
リリアナがちょっと恥ずかしそうに、どこかけだるげに答えると、ティアはぱっと顔を輝かせた。
「それじゃあ、俺が癒してあげるよ!」
「んー……うん?」
リリアナは連日徹夜続きの良く回っていない寝ぼけ頭ながら、くいっと眉根を吊り上げた。
「今、お前が癒すって言ったのか」
「うんっ」
「そうか。なるほど、冗談の練習かな?」
「何言ってるのリリアナ、俺はいつだって本気だし、リリアナに嘘なんてつかない――」
ティアは言いかけて黙る。リリアナの目に、黙れと書いてあったので。
「お前な。ただでさえ疲れているときに、息の根を完全に止めるような治癒魔術を浴びたくはないぞ。……気持ちだけ有難く受け取っておくから、別にいいよ、何もしなくて」
しかしここでおとなしく引き下がってはせっかく参上した成果がほとんどない。
変態は、食い下がる。
「魔術じゃない、マッサージだ! マッサージで、疲れたリリアナの身体を隅々までほぐ――」
「却下」
「なんで!?」
今度は喋っている途中で辛辣な声に中断された。
信じられない、との顔をしたティアに、それはこっちが言いたいと顔に表示しているお疲れモードのリリアナは続ける。
「お前が一体今までにどれほど私をプレスしそうになったか、覚えているか? お前は癒しなんてガラじゃないだろ? 黄薔薇の破壊神って異名まであるらしいじゃないか」
どちらかと言うと汚名なのだろう。
ティアはむうっと頬を膨らませた。小さい頃ならかわいかったろうが、今やるととてもシュールな絵面になる。
「だってそれはリリアナが可愛すぎて、つい手に力が――」
「黙るか出ていくか選ばせてやるから、さあどっちにする? 私が5数える間に決めろ。いち、に、さん――」
今回は割と余裕がないのか、いつもの呆れている調子よりも冷ややかな調子の方が若干気配が濃い。
ぴっと明確に出口を指し示されて、ティアは流石に焦った。
「お、押す奴じゃない、さする奴だから!」
「……」
まだ言うか、とリリアナは息をつき、それでもじーっとティアは熱いまなざしを降り注いでいると――やがてやわらかく苦笑した。
「で、どこを癒してくれるんだ?」
「腰」
しかしムードがわかっていない変態である。彼も彼で一月半のお預けを食らって余裕がなかったとも言える。
譲歩したリリアナはちょっと不機嫌になった。
「言うに事欠いてそれか!」
「だってその辺すっごく凝るって」
抵抗しようとしたが、賢い彼女は今までの経験からこれは自分がある程度折れるしかないと判断し、更に妥協した。
「肩、肩が凝ってるんだ私は!」
「……わかった、肩にする」
しかし毅然と拒まないその態度は、疲れているから頭がいつもより働いていないのかもしれないし、あるいはしばらく会えていなかった彼に対する負い目、恋人に癒されたいと言う乙女心――そんな理由があったにしても甘すぎた。
ティアはうきうきと、それじゃあ、とぼんやりしているリリアナを抱えて椅子から下ろし、代わりに椅子に座った自分の上に乗っけるといそいそと準備を進める。
あまりに動作が華麗で自然すぎて、上着を脱がされ投げ捨てられた段階でようやくリリアナは慌てだした。
「……おい、待て」
「え、なに?」
「何故服を剥ぐ? さするだけだろ、この動作に何の意味が!?」
尚恐ろしいことに、ごく当たり前のことをしている顔で、なぜそんなに彼女は慌てているのか? とティアは首をかしげながら、ついでに全く手を止めずに答える。
そう、この本人は善意と確信を持って突き進んでいる辺りが、リリアナの判断が遅れる一因なのだった。
「だってマッサージの邪魔でしょ? 後で身体熱くなるよ?」
「いや、それはまだわかるような気がするんだけど……私は肩が凝ってるって言ったはずだが、肩こりマッサージって普通向かい合ってするものじゃな――っ!?」
リリアナが息を呑んだ。それもそのはず、彼女が混乱している間にすっかり準備を整えたティアは、自分の上に対面に座らせた彼女を片手で逃げられないように腰のあたりをがっちり抱きしめつつ、もう片方の手を背中に這わせ始めた。
「やっ、やだっ、そこ、肩じゃない――!」
リリアナがじたばたもがくがもう遅い。色々と遅すぎた。
そしてティアの方は、今現在疲れている(から息抜きさせてあげてくれとフィリスが言っていた)リリアナをほぐすべく、それはもう爽やかな笑みを浮かべた。
「首筋から背中にかけて、全体で肩だよ? この辺とか、この辺とか――」
「せ、背中は駄目だ背中は――ああっ!」
今こそ、長年培ってきた知識が芽吹き、実践にて大成するとき。
そして、妄想が本物の現実になる瞬間である。
脳内再生ではなく、本物のリリアナ様を喘がせるときである。
息抜きさせるんじゃなかったのかよ、休ませてやれよ! という無粋な突っ込みは飛んでこない。
平常時ならおそらくこの辺でやれやれだ、と言う顔になったヒューズの靴が投擲されるところだろうが、生憎彼は不在である。
そして今現在一人で外から二人の様子を見張っているフィリスは、自分が呼び込んだだけにどこまで許していいものか、さっきから血相を変えて考え――もう殿下が本気で抵抗しなければいいやと責任を放り投げた。
フィリスも肉体言語の気があるのと、彼女には既に事がなされている現場に踏み込んだ場合のいたたまれなさに耐えるだけの勇気がなかった。
あらためて会長の図太さを思い知り、戦慄する女近衛である。
そんな裏方の葛藤を余所に、ティアは一月半の鬱憤を晴らすべく、思いっきり楽しんでいる。
なるほど、ニコやエッカの事前情報通り、リリアナは他人に触られることに、こと翼が生えている部分の付け根辺りが弱かった。
その部分付近を指が通っただけでも反応があるのに、いざ触りだすとあからさまに呼吸が荒くなる。
最初は羽がかすめるように行ったり来たりしていたティアの指は、場所を正確に把握すると今度は徹底的にその部分を集中してなぞりだす。
かと思えば、じれったくその周辺ばかりにもどかしい軌跡を描く。
ふわふわとした軽い指使いは、徐々に質量と粘り気を持ったしっとり重いものに変わり、それらを交互に繰り広げる複雑怪奇なものになる。
緩急をつけ、くすぐるように滑らせたかと思えばぐっと指の腹で肌を押しながら手を進める。
ただでさえ苦手(らしい)部分を徹底的に嬲られて、リリアナはそのうち身を離すよりもその指から離れようと前に姿勢を倒した。
つまり、元凶の胸板にしがみつくような感じになる。
いくら心の中でわーぎゃー騒いでいようが、態度としてはもう屈したも同然。
近衛が職務放棄した以上、本人が抵抗をあきらめたらもう変態の独壇場である。
しかもいろいろ大変なリリアナがちょっとだけ落ち着き、混乱と抵抗が過ぎてみれば、案外絶妙な加減で心地いいのである。
特に、背中は自分では触れないが、彼女の特性上侍女に任せたこともない。
こんな風にされるのは初めてだった。
「どう? ほぐれてきた?」
「……っ! ……ふっ――!」
それでも唇を噛みしめ、溢れ出しそうになる声を押し込める。
気持ちいいからと言って安易に身を任せるなぞ、はしたない行為である。
それに肯定の言葉を出したら、確実に次回以降もやられる。それは避けたかった。
なんかここであきらめたら、自分の中の大事なものがなくなる気がした。
しかし、ふわふわとした気持ちに身をゆだねるのも、悪くない。何しろ思いのほか快い。ここはもういっそ――。
いや、ダメだろ。何流されそうになってるんだ、しっかりしろ! こいつの変な部分の食い下がりは散々経験済みだろ。引いたらまた要求が上がるぞ!
そんな風に頭の中では葛藤を繰り広げつつ、身体の方は素直に身を任せ、ティアが満足するまでじっくりほぐされたリリアナだったのであった。




