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96_エピローグ③_眠る前の時間が一番好きだけど(終)

 パーティの喧騒を離れて、私は寝室へ繋がる廊下を歩く。

 このホテルの廊下は、身体を徐々に睡眠モードにするために淡い光の照明にしている。目に入る刺激を柔らかくすることで、段々と身体が睡眠モードに入っていくのだ。



「ネージュ様、お待ちしておりました。」

「……!」



 廊下の途中に、ギルドのスタッフが立っていた。

 そして、彼女はその手に布のかかったバスケットを持っている。


 やがて、バスケットが揺れて布がもそりと動いた。



「ピロ!」

「にゃにゃん」



 いつもは中庭をすみかにしているピロがバスケットの中にいた。私の姿を認めて、伸びをして撫でてもらおうとしてくる。

 ――かわいい。

 ピロと一緒に過ごすと、いつだって私の気持ちは和む。

 それはそれとして、この状況には色々と疑問があるが。




「ピロがどうしてここに……」

「ネージュ様。アロイス様からお手紙を預かっています」

「アロイスから……?」



 ホテルのスタッフが封筒を渡してくる。


 手紙にはこのようなことが書いてあった。



 療養中にネージュが助けてくれた礼に対して、どう返せばいいか考えていた。

 君が好んでいるものは、睡眠だ。

 今のところ君が一人で寝る分には不都合を感じていないようだった。

 だが、君が望んだ上で諦めていたことがある。飼い猫……ピロと一緒に寝ることだ。



 猫と人間の睡眠リズムは違う。特にピロは魔力を豊富に持っているからか、夜中に目覚めて発散する時間が長い。故に君と一緒に眠ることは出来なかった。

 私はピロの魔力を一時的に吸収すれば睡眠時間が長くなり、ネージュと問題なく眠れるようになるのではないかと考えた。

 ここ数日間試してみた。どうやら私の思惑はうまくいったらしい。中庭にいるピロはいつもより長く――七時間は連続で眠っていたようだ。

 毎日同衾するのは難しくとも、特別な日に一緒に部屋に泊まることは出来る。

 ささやかな礼だが、良かったら参考にして欲しい。




「……」



 手紙を読み終わって、私は息をつく。



 一度くらい、ピロとホテルに泊まってみたかった。でも、家でピロと寝る実験をした結果、一緒に寝るのは二人の体質上厳しいとわかった。どうしてもピロは夜中の間に起きてしまうし、私は睡眠時間が細切れになって、体調不良になってしまうから。

 寝室に連れて行ったときピロは嬉しそうだったから、出来ることならそのまま一緒に寝てみたかった――。

 そんな話を使用人たちにしたことがある。



(アロイス様……ありがとうございます)



 ****


 ホテルのスタッフが運んできてくれた猫グッズ、及びピロを連れて、私は寝室の中に入った。


 寝る前の支度をあらかた済ませて、私はピロを抱いてベッドの中に潜り込む。



「ピロ……これが私の持てる技術を使って居心地良くした寝床だよ。どう?」

「にゃあ~」

「寝具じゃなくて、私の方に身体くっつけたらあんまり意味がないんじゃない? ふふ……」



 猫は毛皮があるのに加えて、人間よりも体温が高い。故に、抱き締めているとまるであたたかな毛布を抱いているみたいだ。

 暖かいし、ふわふわするし、深い沼に引きずり込まれるように眠くなる――。



(……ああ、でも……ちょっと待って。一応、明日の分の目覚ましはかけなきゃ)



 この部屋は一定の時間に光で起こしてくれる機能がついている。

 でも、私は念のために音の目覚ましも設定することにした。




 設定するのは、朝の時間……。




(明日の朝……)




 明日の早朝に帰る者もいるが、ホテルの朝食を食べていくゲストもいる。明日の朝は彼らをもてなしたい。今夜でパーティの雰囲気は大体わかった。明日はもっとうまくやれるはずだ。

 今夜はアロイスにパーティの対応を任せてしまった。朝になったら改めてお礼を言いたい。

 イリスやリンハイル、カミラも朝食会場にいる筈だ。彼らにお勧めのメニューを教えたい。そして、今後控えている発表のために教えを乞いたい。彼らは魔術師の発表については私よりも詳しいはずだ。

 時間があったら……アロイスのことも紹介して……。




 瞼が閉じかかる中、私は目覚ましの時間を設定した。

 そこで、あることに気付いた。




(寝た後にこれだけ色んなことが控えてたら、今までは心配で目が冴えてたかもしれない。でも、私……すごくうとうとしてる……)



 今腕の中でうっとりと目を閉じているピロの影響もあるだろう。

 でも、私自身の心境の変化もあるはずだ。

 色々あったけど、彼らといる時間はそこまで悪いものにならないだろうと、安心しているから。



「ピロ。そろそろ照明を消すね。おやすみなさい」

「にゃっ」



 私は部屋を暗くして、ピロを改めて抱き締めて、寝具に体重を預け目を閉じた。



 一日の中で眠る前の時間が一番好きだ。



 眠った後に楽しみなことが待っている場合、それはより素晴らしいものになる。



【完】


ここまで読んでいただきありがとうございました。

この作品のストーリーは2話時点で終わってるのでは……?と自問自答しながら書いていましたが、続き部分もお楽しみいただけたら幸いです。

寝ることが好きなのでそれにまつわる話をいっぱい書けて楽しかったです!

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