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39_難癖②

「ええ。身体の回復力を高め、それによって日々の活動も豊かになるという話、僕としても興味深かった。それに、新しい魔道具はなんでもチェックしておきたい、見どころのある開発者は僕の持つ力でサポートしたいという気持ちもありました。買いましたよ、プライベートで試してみるために」

「本当ですか!私どもの商品をお買上げいただき、ありがとうございます!」




 私はがばっと頭を下げた。

 リンハイルの印象を良くするため、というだけではない。商品を使って貰えて嬉しいというのは本心だ。



(……もしかしたら、リンハイルは店にクレームをつけにきた訳ではないのかも。店を更に大きくさせたいから、何か提案しにきた、とか……)



 それなら助かる。

 以前に睡眠特化のホテルを作るために売上の実績を作りたいとマーシーと話をしたけど、積極的に協力してくれる貴族が増えれば、かなり効率的に売上を高めることは出来るだろう。リンハイルは顔が広そうだし。



(……でも)



 希望的観測を抱く一方で、気になる点もある。


(そういう感じなら、マーシーがもっとニコニコして調子づいててもおかしくないと思う。マーシーはさっきからずっと浮かない顔をしてる。リンハイルには何かあるんだわ。何か……)



 私がそう考えたのと同時に、後方にいたマーシーが口を開いた。



「あの。ハートウィック様。彼女、ネージュは確かに大いに力を尽くしてくれています。ですが、こちらの店の対応は私が……」

「マーシー殿。この時間まで押し問答になってしまって、我々では話が進まなかったでしょう。僕たちは彼女と話したい。その方が互いにスムーズに交渉を進められるだろうしね。ねえ、イリス」

「は……はい」

「おっと、説明が遅れましたね。ネージュさん、彼女はイリス・ハートウィック。僕の娘です」



 リンハイルがそう説明し、イリスはか細い声で、よろしくお願いします、と言った。



(やっぱり、この二人は親子なんだ。それは予想通りだけど……イリスも含めて交渉したいと言うこと? どういうことかしら)



 内心首を捻る私を前に、リンハイルが一歩踏み出した。



「あなたの作った寝具の数々……確かに、今までのものとは大いに違った。僕たちの生活は変化した。ただし――いい方向に、とはいかなかったが」

「――えっ?」

「僕は新しい事業を進めたいと思っていた。寝具店がいいビジネスなら全力でアシストしたいと思っていました。でも、だめです。あれは人々を地獄に落とす魔の商品だ。だから、これ以上商売を拡げようとするのはやめなさい」

「……なんですって?」

「王都の一角で、ほそぼそと経営するだけなら僕だってそんな目くじらを立てないよ。でも、今回出店しようとしているここは、人で賑わう場所だ。僕も前々から目を付けていた。先に店を押さえられたと知って、今回助言をしにきたんだ。寝具の販売はここまでにしなさい。この土地は、僕がコーヒーハウスの経営に使うようにするから」

「コーヒーハウス……」

「僕はコーヒーが好きだ。家族にも飲ませることを勧めている。僕の同輩もみんなコーヒーを好むし、カフェでの語らいも嗜む。僕がやりたい事業はみんなのためになるということさ」



 リンハイルの言葉を聞いて、私は内心肩を落とした。



(……やっぱり、この商売はやめろって言いに来たのね。コーヒーハウスは王都の人が意見交換をするのによく使われる場所だって聞いたことがある。私たちと使いたい店が被ったから、潰しに来たんだ)



 それ自体は別に、そこまで落胆するようなことではない。

 リンハイルが店に来たと知ったとき、十中八九商売に文句をつけにきたんだろうと思ったから。


 でも……。



「ハートウィック様」

「うん」

「先程仰られましたね。私どもの商品を使った上で、生活が良い方向には変わらなかったと」

「そうだね」

「どのような事象が起きたのですか? 商品に何らかの欠陥があったということでしょうか」



 そう、それが気になっていた。



 私は寝具たちは素晴らしい商品であると自信を持っている。

 でも、何か致命的な欠陥があるとしたら……。



(専門家から見ると何かあるということなら、単なるクレームと切って捨てないほうがいいかもしれない。商品を買った人には寝具を好きになってほしいし、何か問題があるなら今のうちに聞いておきたいわ)



 私の質問を聞いて、リンハイルは近くのイリスに顔を向けた。



「それはうちの娘から伝えさせてもらうことにしよう。なんせ、当事者だからね。イリス、出来るね?」

「……は、はい」




 ずっと傍で押し黙っていたイリスが、リンハイルの呼び掛けに応じて前へ出た。

 彼女は震え、足元はふらついている。



(なんだか調子が悪そうだけど……もしかして、それもうちの商品が原因なの!?)



 もしそうだとしたら……私としてはすごくつらいけど、確かに商品販売は中止した方がいいかもしれない。

 私はこの世界の人に睡眠で生活を豊かにしてほしいと思っていた。

 売上が出るとしても、それで苦しむ人がいるならば、商品展開は見直すべきだ。



 私が内心戦々恐々としていると、イリスが震える声で宣言する。



「わ、私は、魔術師の家に産まれました。当主は兄が継ぐ予定ですけれど、私も魔術師として研鑽を積んできました。公的な施設のセレモニーの担当を任されるくらい、魔術の腕は周囲の方に評価されています」

「はい」

「ですが、私は失敗してしまった。あなた方のせいで」

「私どもの寝具のせいで……?それはどういうことなのでしょうか?」

「あなたの寝具を使った結果、朝起きられなかったのです」

「…………?」

「私は、寝過ぎてしまったのです……! だから、寝具商品を展開するのは、良くないのではないかと……!」

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