第三話「売れない小説家と苦悩」
この物語はフィクションです。
物語内の内容が事実とは限りません。
(だいたいは作者の想像ですので、鵜呑みにしないように。)
[過去]
「小説家なんて、数ある人の中の……ほんの一握りしかなれねぇのよ。」
若い頃、執筆時代に知り合った売れない作家から聞いた言葉だ。
彼は、一日中暗い部屋の中で、タバコを吹かしながらライトスタンドだけ点灯した机の上で、原稿用紙に小説を書いていた。
髪はボサボサ、後ろ髪はゴムで束ねて、丸メガネをかけ、ところどころチョンチョン生えたヒゲの剃り残しもある細身の男性だ。
「え? でも、出版社から声がかかれば、本は出せるんじゃないんですか?」
「それか、持ち込みするとか」
「そりゃあ、持ち込みが一番はえ〜だろうよ。 だがな、才能がなけりゃ……原稿をササッと目を通して、その後は相手にされやしねぇ。」
「WEBなんてもんはもっとヒデェぞ。 賞を取ったからって、小説家になれるとは限らなねぇからな。」
「どういうことですか?」
「賞を取れたなら、作家デビューじゃないっすか!」
「確かにデビューはできるわな。 だがな、ジャンルにもよるが……芥○賞なんて有名なもんなら、多少知名度もあるし、興味を引いて買うヤツもいるかもな。」
「そこからファンがつきゃあ〜売れっ子作家の仲間入りだ。」
「だが、面白くなければファンはつかねぇ。」
「ファンがつかなきゃ、仮にデビュー作が売れようと……次の本は売れねぇ。」
「どうしてですか?」
「少しは自分で考えろよォ〜」
「たくっ、いいか? 本と電子の違いはなんだと思う?」
「え、えっと、それは……買いやすさですか? 後は、形としてあるかどうかですかね?」
「ちげぇよ、形式的な話じゃねぇ。 いいか、本の小説はな、ファンがつきやすいんだ。 "作者の"ファンがだ。」
「だが、電子だとどうだ。 客層も形がある本という形式も違うと、どうなるか………ファンはな、作者じゃなく。"作品に"つくんだよ。」
「そもそも、金を払って形あるものと、無料で読めて好き放題評価され、見終われば用済みのもんと、比べるのがおかしいっちゅーこった。」
「その違いが何か問題があるんですか? 売れれば人気になれるじゃないですか?」
「だからオメーはアマちゃんなんだよ。 "博打"だよ。」
「博打?」
「そうだ。 今じゃ小説といっても、ジャンルも様々、形式も様々。 素人だってネットを使えば小説を書ける時代になってき始めてる。」
「どういうことか分かるか?」
「審査する側は、編集者と世間。そのどっちもになってるっつー事だ。」
「世間からの評価が良くても、それは所詮……ネットの中の一部としての評価だ。」
「世に出てみりゃ、世間からの評価が低い作品なんて山ほどある。 何でもかんでも売れるもんじゃねぇんだよ。」
「そりゃあ、素人が書いて、素人が評価した内容だからだ。」
「中にゃあ、面白ェもんもあるが、流されやすいんだよ。 人の意見ってのはよォ。」
「しかしだなァ……それを良くするための編集が、無能しかいねぇから問題なんだよ。」
「世に出すっつーことは、金を払ってまで買わせるってことだ。 それなのに、良い加減な指示と訂正だけさせて、後は漫画家や作家にほったらかし。」
「そんなバカな事あるか? おかしいだろ!」
「ちゃんと面白くさせてから、売れよッ!!」
「原作があるからそのままでいい? ふざけんなッ!」
「より面白くなるなら、オレァ作品の改変だってしたっていい! 改変しないで売れないなら、ソレは面白くなかったって結果になっちまうだろ?」
「それは……自分を否定されてんのと、同じになっちまう。」
「オレはそんなんで後悔したくねぇ。 だから、少しでも意見を出さねぇ編集とは話さねぇし、担当を変えさせる。」
「だが、ソレは思うだけで、実際には行われない。 どれだけ経っても、おんなじだ。」
「評価だけを鵜呑みにして、人気があるから話題性もつく。っつー勘違いしやがる汚ねぇ大人どもが、機会と夢を与えちまう。」
「するとどうなるか分かるか?」
「い、いえ。」
「実験台にしてんのさ、アイツらは!! 世間での評価が良かったから、万人受けするだろうってな!」
「そうして、いざ出版されてデビューしたとする。 だが、面白くなけりゃあ売れねぇ。 そもそも、知名度もねぇから買うヤツも少ねぇ。 買わねぇから面白さも伝わらねぇ。 話題にすらならねぇ。」
「それはな、作者にファンがついてねぇからだよ。 ネットのファンなんてのは、その作品が見れれば良いんだよ。 後の作品なんて興味はねぇ。 面白くなければ尚更だ。」
「そんな作家ばっかりだ。 どこの出版社で、どのイラストレーターや漫画家に当たるかも分かんねぇ、ガチャ。 新人漫画家の練習台に付き合わされることだってザラじゃねぇだろう。」
「まあ、真相はオレも知らねぇがな。 周りや知り合いを見ていりゃあ分かんだよ。」
「作家は使い捨て、売れなきゃ次の人気作を出さなきゃ書籍は出せない。 出せても売れるかは博打だ。」
「………。」
ボクは何も言えなかった。
その言葉の真相が本当かは分からないけど、信憑性や納得できることがあったから。
「そうやってな、辞めていく新人作家を何人も見て来た。」
「だから、小説家を名乗るくれぇの人気作家になるにゃあ、何度も、何度も、何度だって書き続けて、オレは凄いんだぞ! オレの書く作品は面白ェんだぞって!! 目に止めることさえしなかった、世間や編集どもに教えてやんのさァ!! ハッハ!!」
「………。」
「………。 なんだ? 怖気付いたか?」
「バカ野郎が。 オメーは諦めんなよ。ソウヤ。」
ボクはその言葉を聞く前から握り拳を作り、力を入れていた。
「………。 いえ!! ありがとうございますッ!!」
「絶対ッ! 絶対に小説家になって見せますッ!!」
ボクはそう強く誓った。
─────────────[立波相哉 三十二歳]
その日から、もう何年経つ……?
「……クソッ!! ダメだッ!!」
「こんなんじゃ……面白くないッ…ぃ……うぅ…うぅう。」
オレは誓っただろ……。
あの日。
猫柳さんに……そして、雛ちゃんにも……。
ボクは……。
「オレはぁぁぁッ!!!」
ドンッ!!と、机を叩いた衝撃でペンが折れ、インクが机の下に滴り落ちていた。




