狩人達
「人は生まれ落ちた場所、その時間により、その質が決まる。
自己認識を誤りし者は、運命を全うできず、その最期は悲惨きわまりない
自らに与えられた質をわきまえ、その質に応じて体と知性を鍛えることが
人生において最良の方策である」
ポラケルスス「星と土地と人の性について」より抜粋
---------------------------------------
昼下がり、ロシュの街中を夏の熱風が吹き抜ける。石造りや煉瓦作りの建物が建ち並ぶ中央通りは、石畳で整備されているもののどこからか迷い込んできた砂塵が、時折起きるつむじ風とともに立ち上がる。そんな風をものともせず4人の旅人が、服をはためかせながら『魔獣駆除依頼所』と書かれた看板が打ち付けられた扉を開けた。
建物の中に、唐突に強風が飛び込み、中に居た者たちが迷惑そうな表情を扉の方に向けた。テーブルで立ったまま書類を書いていた男が、紙を追いかけ慌てて紙を追いかけて走った。
奥のカウンターに居る女性はここの職員なのか、カウンターに積んである紙にしっかり文鎮を乗せ、その紙がはためいても動じていない。しかし、彼女が一行に掛けた「いらっしゃいませ」という言葉は、風に流されてしまった。
一行の最期に入ってきた長く黒いフード付きのガウンで頭まですっぽり覆った人物が、扉を閉めることで一瞬の喧噪は静まった。
「いらっしゃいませ」カウンターの女性は、再び笑みを浮かべて彼らに声を掛けた。赤いチェックのブレザーが妙に若々しく彼女を演出していた。
一行の先頭は女性であり、腰に剣を佩いていた。彼女だけがカウンターの女性の求めに応じるように、その前まで進み出た。女性の剣士は、両手の甲に皮の篭手を付け、上下の服装とも季節柄短い綿の白い服を着ていたが、やや開いた胸元から、銀色に光る繊維で織られた下着のようなものが見え隠れしていた。
「タルティウ様ご一行ですね。私は担当の、デヒティネです。」担当の女性は、感激するように、甲高い声をあげた。その声に、室内の居た者たちの視線が一斉に、4人の新参者に向けられた。それから、こそこそと噂話があちこちで、始まった。
「よく分ったね」タルティウは、笑みをもって答えた。
「胸元から見えるシルシルバで縫われた帷子を着ているのは、世界広しといえども貴女しかおりませんから」
「そっか、暑いからどうしても見えてしまう」とタルティウは、苦笑いをしながら胸元を寄せて帷子を隠そうとした。
「まるで絹のような着心地なのに、どんな鎖より丈夫と聞いております」
「まぁ、手に入れるのに相当しんどい思いをしたけど、確かに優れた防具だよ。それより、実は王室直々でこちらにくるように指令を受けたのだけど」とタルティウは、背にした箱を床に卸すと、その蓋を開けて一番上に置かれた封筒を取り出し、それをデヒティネに渡した。
「拝見させていただきます」とデヒティネはそれを両手で受け取り、封蝋を除くと中の封書を取り出した。そして、その文面を目を丸くして読むと「やっと・・・」と声を漏らした。「やっと、あれを退治してくれるのですね」
「まぁ、そういう命令を受けてしまったからね。そのための手続きをお願いしたい、あと、こちらの公認記録師を紹介して欲しいのだけど。」
「分かりました、まずは何時ものことでしょうけど、こちらの書類にメンバーの方々の名を記載してください」とデヒティネは、文鎮に押さえられていた紙の束から一枚抜き出して、タルティウの前にペンと共に置いた。「公認記録師は、現在2名がいつでも採用可能ですが、面接いたしますか?」
タルティウは、ペンを取ると、後ろを振り向き仲間達の様子を見た。3人は固まって雑談をしており、彼女の視線に気づくものは居なかった。
「いや、選択はそちらに任せる。どのみち戦力にならない者など、面接する必要もないからな」タルティウは、流暢な字を紙に上に走らせるように記しながら答えた。
「わかりました、できるだけ足手まといにならない者を用意いたします。」
その返事に、タルティウは、ふとペンを止めた。
「足手まといにならない、公認記録師など見たことない」まるで吐き捨てるような言い草だった。
「しかし、決まりですので」デヒティネは、小さい困ったような声で、俯いた。
「分っている。足手まといとはいえ、やつらが居なければ、魔獣を駆除したという、客観的な証拠が得られないからな。それがなければ、こっちも報償が得られない」タルティウは、さらさらとペンを走らせ続け、やがて最期に署名と、拇印を押すと書類をデヒティネに押し戻した。
デヒティネは、それを見つめ感慨深そうなため息を漏らした。
全ては最高のレベルの人材から構成されるグループであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
処理する魔獣名
氷の青龍
参加する狩人一覧
氏名 タルティウ・アルスター 分類 剣士 階級 金獅子 性別 女性
氏名 ルギド・ロイ 分類 槍術師 階級 金牛 性別 男性
氏名 ガウェイン・モルガン 分類 射手 階級 金鷲 性別 女性
氏名 クー・ロイ 分類 魔法師 階級 金梟 性別 男性
同伴する公認記録師
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
彼女は、用紙をチェックすると、視線を天上に向けながら、大きなため息を何度も漏らして思案していたが、やがて決心したかのように空欄の公認記録師欄に氏名を書き込んだ。彼女のペンの動きを、タルティウは興味深そうに追っていた。
デヒティネは、そんなタルティウに笑みを見せると、カウンターの後ろ側にある扉から奥の部屋に入り、茶色の丈夫そうな布の袋を二つ、両手に握って戻ってきた。開いたままの扉は、足蹴りで締められた。
「今回の駆除に関する仕事の前金になります」とカウンターの上に、そのふたつの袋を置いた。「残りは、公認記録師から駆除の完了報告が確認された時にお支払いいたします。受領のサインをここにお願いします」と、先ほどの用紙の一番下にある署名欄を指した。
「分った。」とタルティウは、言われた通りにサインをすると。その二つの袋を取り上げ、後ろを振り向いた。「前金を分配しよう」
デヒティネは、そんな彼らの様子をみて、笑みを浮かべると、用紙の一番上にある担当者欄に、自分のサインを書きこみ、決済箱にそれを置いた。
タルティウ一行は、周りから羨望の眼差しを浴びながら、一つのテーブルを中心にして集まった。袋が開かれ、各自銀貨をそこから取り出しては、自分の財布に放り混んでいった。やがて報酬の袋が空になると、タルティウは、空の袋をカウンターに置いた。
「公認記録師のフェル・ディアには会える?」とタルティウは、他の狩人とカウンター越しに相談の相手をしていたデヒティネに訊ねた。
「隣の第一公舎で休憩を取っていると思いますが・・・」デヒティネは、狩人に書類を渡しながら答えた。「連れてきましょうか?」
「いや、自分で行くよ。ありがとう手間を取らせた」タルティウは、カウンターから離れ、吹き込む風に逆って仲間と共に建物から出て行った。




