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六星高校妖怪研究部~ようこそ、妖研へ!~  作者: 望月おと
【ようこそ、妖怪研究部へ!】
20/22

能力開花


── ザクッ……!!


 赤い滴が宙を舞う。部長が背後を振り返ると、小刀を手にした浪人風の鬼が「隙あり」と歪んだ笑みを浮かべていた。あれほどの雷を食らってもまだ鬼たちは戦えるというのか……。黒焦げになってもなお立ち上がり、攻撃してくる。それほどまでの執念や怨念を彼らは抱いているという表れだ。


「チッ……油断した……」


 部長は力無く、その場に倒れ込んだ。狙われた首元を紙一重で回避したが、代わりに利き手である左肩に深手を負ってしまった。もはや、まともに闘える状態ではない。


 能面の鬼と対峙している聖海の耳にも人が倒れる音が届いていた。嫌な予感が胸をざわつかせる。直ぐに音の方へ目を向けると、叫び声を上げた。


「あ、ああああ……!! 部長、部長ッ!!!!」


 今すぐ駆け寄って安否を確かめたい聖海に能面の鬼がそれを妨害する。


「雷のガキの元へは行かせぬ」

「部長、部長!!!!」


 何度呼んでも返事がない。その代わりに窓を大きな雨粒が叩く。次第にその音は強くなっていく。夕立が来たようだ。


【絶望】


 この言葉が聖海の脳内を埋め尽くす。頼みの綱である部長が倒れた今、彼女が一人で鬼三体を倒さねばならない。実力のある彼でさえ、この有り様。何も備えていない彼女では闘う前から勝負は着いている。


 聖海は、床に崩れ落ちた。今日が自分の命日になると絶望しながら。


── 思い出すんだ! 【今】が、その時だよ!!


「……おばぁ?」


 突然、頭に響き出した祖母の声。鬼たちの話し声や窓を叩く雨の音、それに遠くで(とどろ)く雷鳴、ガタンゴトンと線路を走る電車の音……周りの音が次々遮断されていく。


 聞こえるのは、祖母の声だけ。


── 忘れるんじゃないよ。お前は選ばれたんだ。ゆっくり、ゆっくり思い出してごらん。私と過ごし、身につけた事を。


 「なに……何が起こってるの!?」祖母と過ごした日々の記憶が物凄い速さで、聖海の脳内に流れ出した。そのほとんどが【忘れていた記憶】。


「あ……こんな事あった! 懐かしいなぁ……」

「少しずつ、思い出してきたみたいだね」

「……え? おばぁ!?」


 目の前には、今まで声のみだった祖母の生前の姿があった。小柄で小動物のような愛くるしさがある女性。ゆるいウェーブ掛かった黒髪。音楽室に飾られていたベートーヴェンの肖像画と似ている。キツイ口調とは裏腹に祖母の顔は、いつ見ても穏やかだ。しかし、彼女は亡くなった。火葬場で骨となり、寺の住職 立ち会いのもと、墓に家族と親族で埋葬したはずだ。勿論、聖海もその場にいた。


「何で……どうして?」


 パニックになっている聖海に、その理由を祖母は話し始めた。


「ここは、頭の中にある記憶の部屋。だから、私もお前も実態があるようで無い。この見えてる姿も【記憶】だよ 」

「んー……何か、ややこしいね」

「深く気にしなくていいよ。それより、どこまで思い出した?」

「……どこまで?」

「あれま! ちぃーっとばかし(ちょっとばかり)、【封印】を強く掛けすぎちまったみたいだね。聖海、今から私が書くのと同じ文字をどこでもいいから書いてごらん。お前の記憶を見た限り、他の妖術師の子たちは筆ペンと和紙を使っているようだが、アンタには必要ない。痕跡を残してはいけないよ。だから、指で空間に型を書くんだ」


 祖母は指先で空間に文字を書いた。普通は見えるわけがない。だが、聖海の目にはシッカリと文字が見えていた。 祖母は指先で空間に文字を書いた。普通は見えるわけがない。だが、聖海の目にはシッカリと文字が見えていた。『お前が指で書いた五芒星が光って見えたんだよ』部長の家で風見たちが言っていたのは、これか。聖海は自身の手をまじまじと見つめた。──これが【選ばれし者】の力……。


 祖母が書いた文字と同じように聖海も空間に書いた。 


「【GOOD LUCK(グッドラック)】」

「それじゃ、幸運を祈って──始めるよ!!」


 祖母の後に続き、宙を指で切るようにいくつもの漢字を つらつらと書き連ねていく。縦に 二行、十二文字を書いた所で祖母が言った。


「よし、今だ!! "時よ、止まれ"と叫んでごらん」

「分かった……。 "時よ、止まれ"!!」


──……ガチッ……!!


  大きな音が響き、この世の時が完全に停止した。


「みんなの動きが止まってる……」


 それは奇妙な光景だった。聖海以外、動いているモノが何一つない。当たり前だが、動くものが無ければ音も生まれない。まさに、無音の世界。自分だけの足音が虚しく響く。


 聖海に襲いかかろうと、地を蹴ったままの状態で固まっている鬼たち。飛び散った彼らの(よだれ)までもが、その場に留まっている。恐ろしい鬼気迫る表情も止まっていると、芸術作品のように見える。聖海はすっかり美術館にでも来た気になって、動きを無くした彼らに見入っていた。


「ほら、ボサッとしてる暇はないよ! 早く、あの子の手当てをしないと!! 救急箱と傷が深いから、止血するのにタオルを多めに持っておいで!」

「分かった!!」


 急いで棚から救急箱を取り出し、ラックからタオルを何枚か掴み、聖海は部長の元へ急いだ。思った以上に傷は深く、彼の真っ白いYシャツを赤黒く染めていた。見るからに痛々しい。


「私が指示を出すから、それ通りやるんだよ!!」

「はいッ!!」


 祖母が出てきてやるのが一番手っ取り早いのだが、彼女の肉体はすでに この世にはない。おまけに、聖海の中の【記憶】でしかないため、記憶の部屋から出る事すら出来ないのだ。


 もどかしい。そう感じているのは、誰でもなく祖母本人だろう。見えているのに……。手を差し伸べてやりたい、力になってやりたい。けれど、それはもう叶わない。彼女は、この世にいないのだから……。


 聖海が困っていると、いつだって真っ先に手を差し伸べ、彼女の支えになったのが祖母だった。幼い頃は多忙な両親に代わり、面倒を見て来た。もはや、我が子同然。だからこそ、祖母は もどかしいのだ。声をかけてやることしか出来ない身である事が。


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