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六星高校妖怪研究部~ようこそ、妖研へ!~  作者: 望月おと
【ようこそ、妖怪研究部へ!】
21/22

さよなら、おばぁ

 祖母の指示を頼りに聖海は部長への応急処置を行っていく。看護師や医師ではない祖母。しかし、指示は的確で一時的な止血に成功した。妖術師だった祖母も同じ場面を何度も経験してきたのだろう。指示を受けながら、祖母が場馴れしているように清美は感じていた。


「よし、出来た! 部長、大丈夫ですよ! 必ず、この鬼たちは私が倒しますから!!」


 これ以上、危害が加わらないように別の部屋へ部長を移動させた。


 それにしても、無音の世界は静かだ。こうも音が無いと、不気味で何かが潜んでいるような気がしてならない。聖海は額に冷や汗を浮かべながら、しきりに背後や辺りを気にしている。


 停止しているのは、人やモノだけではない。この世の全てが【動き】を失っている。宇宙にある地球も太陽も月も、何もかも。妖術師には、神をも恐れぬ力があるのかもしれない。


「恐ろしい力だろ? これが、私たち【封印師】の力だ。動くもの全ての動きを封印する事が出来る」

「これが【封印師】の力……。だから、『封印師が現れし時、【世界】は終わりを迎える』って言い伝えが残されてるの?」

「おやまぁ! そんな古い言い伝え、誰から聞いたんだい?」

「顧問の九井先生」

「あー、あの生意気なキツネか。……その言い伝えには、二通りあってね。『清き心を持つ封印師が現れし時、"混乱の世界"は終わりを迎える』、『悪しき心を持つ封印師が現れし時、"安泰の世界"は終わりを迎える』。要は、心がけ次第ってことさ」

「そっか」

「お前の場合は、何の問題もない。自分の信じたように進めばいい」

「うん! わかった」


 妖術師であろうがなかろうが、祖母は何も変わらない。芯が強く、口は少々悪いが根はやさしく面倒見のいい人だ。大好きな祖母にもう一度会えて、会話を交わすことができ、聖海は嬉しさを噛みしめていた。


 一つのピースが見つかったことにより、記憶のパズルは次から次へと急速に空白を埋めていく。そして、ついに聖海は全てを思い出した。幼い頃に祖母から全ての型を教わり、修得後、二人で型の書かれた書物を燃やしたこと。封印師として、【選ばれた者】であること。何より、あの日。祖母の元を離れる直前に彼女が聖海にかけた言葉を。


『お前は選ばれたんだ。 いずれ、その時が来るだろう。……それまでは、全部忘れなさい。封印師の事も、今見えている世界の事も。大丈夫、また思い出す日が来る。お前が私を忘れなければ、必ず。……いいかい、お前は今日から普通に生きるんだ。毎日、笑って過ごすんだよ。それじゃ──聖海、元気でね』


―― 封印ッ!!!!


「どうやら、全てを思い出したみたいだね。あの日、お前の記憶に封印をかけた。……いずれ、この世界と嫌でも向き合わなきゃいけなくなる。それまで、ほんの少しの間でも【普通】に生きさせてあげたかった。一度、この世界に足を踏み入れたら、後戻りは出来ないから」

「……おばぁが そうだったんだね」


 祖母の優しさの裏側にある気持ちが何となく、聖海には分かった。ここに来るまでに部長の話を聞いていたからだ。


 一度、妖術師となった者は後継者が見つかるまで自身が妖術師で あり続けなければいけない。幼い内に引き継いだ場合、妖術師としてのキャリアは長くなるが、その分、【普通】に過ごせる時間は短くなる。


 祖母が妖術師となったのは、五歳の時だった。周りの子たちとは遊ばず、一人黙々と地面に型を書き連ねていたという。それほど、型を覚えるのに必死だったのだろう。


「本当は私じゃなく、兄が継ぐはずだった。あの頃の医学じゃ治らない病気にかかってね……」

「そうだったんだ……。おばぁは、妖術師になったことを後悔してる?」


 聖海の質問に驚いた表情を浮かべた後、ゆっくりと祖母は首を横に振った。


「悔いはない。色々な人たちと出会えたし、何より滅多に出来ない経験をたくさんした。……ありがとう、聖海。久々に会えて、お前と話が出来て嬉しかった」

「……おばぁ?」

「そろそろ時間だ」

「待って! 最後に聞きたいことがあるの!」

「手短にね。もう残っている時間は僅かしかないから」

「私、部長と会ったことある?」

「雷の坊ちゃんとは一度だけね。妖術師の集会でお会いした時、お前と遊んでくれたよ。面倒見のいい出来た子だよ、あの子は」

「そう。……あと、もう一つだけ。──どうして、おばぁは臓器の一部を失くしたの? もしかして、私が【水色の花が見える河原】に行きたいって言ったから?」


 悲しげな笑みを祖母は浮かべた。それが答えのように聖海は感じ、胸が痛んだ。自分のわがままのせいで、祖母は大切な体の一部を失ってしまった。主治医からも、臓器が欠如していなければ長生きできたかもしれないと言われた。


 『孫のお願いを聞くのが私の生き甲斐だ』と父に祖母が生前話していた。幼かった聖海はそれを聞き、自分がわがままを言うことで祖母が喜ぶと解釈し、祖母によく無茶なお願いをしていた。聖海なりに祖母を喜ばせようとしてやっていたことだったが、まさか──そのせいで、祖母が大切なものを失っていたとは。


「ごめんね、おばぁ。ごめんなさい……私のせいで」

「気にすることなんてない。そうなると知っていて、勝手にやったことだ。お前が責任を感じることなんて何もないよ」

「おばぁ……。ありがとう」


 無情にもタイムリミットは訪れた。優しい光が祖母から(あふ)れていく。光は、金色の輝きを放つシャボン玉のような球体へと変化し、どんどん天へと昇っていく。


「お前なら、大丈夫。しっかり、おやり! それと、強力な封印術は一人じゃ出来ない。誰かの手を借りな。……頑張るんだよ、いいね!」


 人前で泣いたことがない祖母が涙を流し、最期の力を振り絞って聖海の手を両手で強く包んだ。その刹那、祖母の体は消滅し、無数の光が弾け飛んだ。光の粒は迷うことなく、上へ上へと舞い上がっていく。「お前なら、大丈夫。だって……アタシの自慢の孫だからね!」という声を残して。


「……大好きだよ、おばぁ。──さようなら」


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