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彼女の前世がニホンジン? 2 聖妃二千年の愛  作者: さんかくひかる
13章 エリオン(七人の勇者)
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207 魔王を裁く

 エリオンは、魔力に目覚めたジュゼッペをセルゲイに運ばせ、寝かしつけた。中庭に戻るなり、彼女は待ち構えていたセオドアを厳しく問い詰めた。


「なんて危険な真似をする!」


「……少し刺激しただけで、彼は見事な炎を見せました。鍛えれば、独力で魔王の軍勢を撃退できるようになる」


「何をさせるつもりだ! あの子は、自分が魔王軍の魔法戦士だったことも、両親を失ったことも忘れているのだ。その傷を無理やりえぐれと言うのか!」


「私の目の前で、両親、一族、家臣は、火に焼かれました……その時、五歳でした……」


 セオドアの静かな告白に、エリオンの顔がサッと青ざめた。


「……セオドア。お前の境遇には同情する。だが、だからといってジュゼッペまで同じ目に遭わせていい理由にはならない」


「そうは申しません。ただ、この奉仕団には志だけではなく『力』が必要なのです。弱い者は、我らには不要だ」


「そんなつもりで私は皆を仲間にしたわけではない!」


 彼らを仲間に引き入れたのは、強さだけではない。ネクロザールの所業で傷つけられた彼らを、エリオンは見過ごすことはできなかった。

 彼女の訴えを、セオドアは聞き流す。


「ニコスは高潔な騎士。セルゲイは比類なき怪力。フランツの技、ホアキンの人格はともかく情報収集力は目を見張るものがある……いずれも我らの奉仕に欠かせぬ力です」


 セオドアは剣の柄に手を触れ、自嘲気味に笑った。


「私が仕掛けた戦い。皆、ジュゼッペの味方でした。残念ながら私は好かれていないが、皆、ジュゼッペが一人前の戦士になることを願っています」


「で、でも……火の魔法だけは駄目だ。絶対に……!」


(自分の魔法が両親を殺したのだと、そんな絶望を思い出させたくない!)


 エリオンは拳を握りしめ、逃げるようにその場を立ち去った。



 ジュゼッペの部屋に入ると、彼はすでにベッドから身を起こしていた。


「先生! 僕、魔法を思い出したよ! 竜を呼んでお願いすればいいんだね!」


「ジュゼッペ。火の魔法は危険すぎる。……許すことはできない。私がいなければ、この館も炭と灰になっていた」


 子供はしょんぼりと肩をすぼめる。

 仲間の誰もが、そして何よりもこの子自身が、魔法使いになることを望んでいる。

 エリオンは覚悟を決め、彼の目をじっと見つめた。


「魔法は火だけではない。他にもある」


 ジュゼッペの目が輝き出した。


「火の他は……風、水、土……そうか!」


 少年はベッドから跳ね起き、部屋を飛び出していった。それを追うエリオンは、前世で子供たちを追い回した日々を思い出し、予測不可能な幼子の生命力に苦笑した。


 囲いの向こうから戻ってきたジュゼッペの手には、ひんやりとした輝きがあった。


「先生、これならいいでしょ!」


 手渡されたのは、四角い氷の塊。その中には、鮮やかな赤い薔薇が美しく閉じ込められていた。


「……薔薇? なぜ?」


「先生、薔薇が好きだけど育てるの苦手だって言ったから。これなら枯れないよ」


 エリオンはそっと氷に頬を寄せた。

 アタランテとして最期を迎えた日、降りしきる雪の中で咲き乱れていた薔薇。アトレウスの薔薇園は、自分を辱めるための、彼の財力と権力の誇示に過ぎなかったはず。

 なぜこんなに胸が熱くなるう?

 ひょっとするとあの人は、ただ自分のために、嵐の中でも枯れない花を望んだのか? ……そんなはずはない。彼は一年も行方を眩ませ、あのイシュティと薔薇園を作り上げたのだから。


「先生、大丈夫? 僕、間違ってた?」


 子供に揺さぶられて我を取り戻す。


「……そんなことはない。ジュゼッペの気持ちが……本当に嬉しくて」


「そうか。ねえ、セオドア」


 ギクッとエリオンは振り返る。

 背後に剣士が立っていた。


「先生が火の魔法は駄目って言うんだ。でも、他の魔法はいいって」


「……それで私を倒せるか、やってみろ。エリオン様、構いませんね?」


 エリオンは無言で成り行きを見守った。ジュゼッペが小枝を振り、ブツブツと詠唱を唱える。次の瞬間、キラキラとした氷の結晶が弾け、セオドアの顔を覆った。


「ジュゼッペ!」


 エリオンは慌ててセオドアの顔に手をかざし、氷を解かした。ずぶ濡れになった剣士は、冷静に分析する。


「詠唱に時間はかかるが……我らが周囲を固めれば戦力になる」


「僕も一緒に戦うよ!」


 子供の晴れやかな顔を見て、エリオンはもう、魔法を禁じることはできなかった。


 館に戻る道すがら、エリオンはセオドアに声をかけた。


「……大丈夫か? 痛くはなかったか」


「いえ。ですが、凍りつくのは恐ろしかった」


「ジュゼッペには無茶をしないように言い聞かせる」


「それには及びません。貴重な魔法使い。訓練を重ねてもらわねば」


 セオドアはわずかに口元を緩めた。


「意識ははっきりしているのに、指一本、口一つ動かせない。普段の戦いとは別の恐怖がありましたな」


 立ち去るセオドアの背中を、穴のあくほど見つめる。エリオンの中に何かが芽生えた。



 その後、ジュゼッペは魔法戦士として目覚ましい活躍を見せた。彼の氷の魔法は、敵兵を動きを止め恐怖に陥れた。


(これだ……!)


 芽は葉となり花となり、結実した。


 死を与えるのではない。

 あのおごり高ぶったネクロザールを、ジュゼッペの氷で永遠に閉じ込めるのだ。

 目も見え、耳も聞こえ、意識だけが覚醒した状態で、何もできぬまま跪き続ける氷像に変えてやる。

 死なせてはならぬ。死よりも恐ろしい報復を与えねばならぬ。

 エリオンの唇には、奉仕者には似つかわしくない歪な微笑みが浮かんでいた。


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