8 桃香が誕生日ケーキを作ってくれるなんて
「う~ん やっぱり下手だな、あたし」
桃香が恥ずかしそうにケーキを抱えて戻ってきた。
俺の目の前に置かれたホールケーキ。
ショートケーキらしく、白いクリームが塗られて、イチゴがいっぱい載せられている。
板チョコに『HAPPY BIRTHDAY ゆきと♡♡♡♡♡』とホワイトチョコで書かれている。ハートマークが5つも……
クリームの塗り方はムラがあるし、イチゴの並べ方もキレイではない。いかにも素人が作った感じだ。
でも桃香が一生懸命作ってくれたことに胸を打たれた。
「すごいじゃん。桃香がこんな上手に作れるんだ」
俺はケーキなんか作れないからね。素人クオリティだとしても、桃香を褒め称えたくなった。
「どこがだよ。下手すぎ……麿莉奈だったら、きっとお店で売ってるようなケーキを作るんだぜ」
「いや、見た目も悪くないって。多少デコボコしてるのは、むしろ桃香の頑張りが伝わって来る。男は女の子が頑張ってくれたことがなによりうれしいんだ」
「そっか。やさしいなあ、ゆきとは。大好き♡」
桃香が微笑む。俺が褒めてあげたことがとてもうれしいみたいだ。
続いて桃香はロウソクとライターを取ってくる。17本もロウソクが並べられると、ケーキはロウソクだらけになってしまった。
桃香がロウソクの一本に火を付けて、そのロウソクを持って他のロウソクにも火を付けていく。
17本のロウソクが温かみのある火を灯した。
「電気を消してくる」
桃香は走って行って、照明スイッチを切る。
真っ暗になって、ロウソクの火だけになった。
「記念に動画を撮りますね」
藍が立ち上がり、スマホを構えて俺に向ける。
「よーし、みんな、ハッピバースデーを歌うぜ」
桃香が大声で仕切る。
「「「「「「ハッピバースデー トゥ ユー」」」」」」
拍手とともに女の子5人と氷室さんが歌い始める。
「「「「「「 ハッピバースデー トゥ ユー ハッピバースデー ディア ゆきと~ ハッピバースデー トゥ ユー~」」」」」」
ふ――――
ロウソクを吹き消す。17本もあるから、なかなか全部消えない。
ふ――――
やっと全部消える。
真っ暗になった。
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱぱちぱちぱち
一段と盛大な拍手。
俺は、みんなに誕生日を祝ってもらって、感動の波が押し寄せてきている。
「ありがとう、ううう……ほんとうにありがとう」
涙声で御礼を伝える。
「電気を付けてくる」
桃香が真っ暗な中をそろりそろりと歩いていって、スイッチを押した。
また部屋が明るくなる。
桃香はキッチンから包丁を取って来た。
金髪ギャルが、かいがいしく働いてくれているのは新鮮。
「おーし、6つに切るぜ。7つに切るのは難しいから氷室さんはなしってことで!」
桃香は唯一の大人の氷室さんを仲間外れにする。
「べ、別に要らないですよ。アラサー女にはカロリーが高そうなので遠慮します」
氷室さんがツンデレっぽいセリフで言い返している。
桃香が6等分したケーキの一つを取り皿に乗せて、俺に渡してくれる。
ケーキの内側はびっしりとイチゴやオレンジが詰められている。
「おいしそう。やっぱり上手にできてるじゃん」
俺は褒めまくる。
「へへ、スポンジはなんとか焦がさずに焼けたなって思ってるよ」
「いっただきまーす」
早速フォークで食べようとする。
「あ、待って、ゆきと」
桃香が止めてくる。
「ん?」
「あたしが食べさせてやるよ」
桃香が隣に座って、俺のフォークを奪い取り、一口すくう。
「ゆきと、あーんして」
白いクリームの塗られたスポンジが口の前に差し出される。
「あーん」
ぱく。
甘い。スポンジがふわふわしている。桃香が食べさせてくれたこともあって、味は格別である。
「おいしい。よくできてるじゃん」
正直な感想。
「マジか!? よかったああー うれしー」
桃香が満面の笑顔になる。ケーキを作れて心底ホッとしているようだ。




