ルディーン・ソナルデを拉致してお届けした。
今日はお休みの日の午後、珍しくユリシーズがグリザスの部屋に遊びに来ていた。
クロードと三人でおしゃべりを楽しむ。
ユリシーズがため息をついて。
「勇者ってさ…何が正しいのか正しくないのか解らなくなってきた。
勇者だからって、悪事を働いていいのかな…?」
クロードが珈琲を飲みながら。
「ディオン皇太子殿下が悪事でも働いているのかい?」
「うん…ルディーンって人を捕らえようとしているんだ。丁度今頃、フォルダン公爵家へおびき寄せて実行するみたいなんだけど。」
そこへミリオンが魔法陣を展開して転移してきた。
「よぉ。遊びに来たぜ。ディオンがどうしたって?」
ユリシーズがミリオンに向かって。
「首輪を着けて、いう事を聞かせたいんだって。ディオン皇太子殿下が、ルディーンに対して。」
「重傷だな。」
ミリオンは呆れたように。そして、グリザスに聞いてくる。
「お前はどう思う?」
俺に聞かれても…困ってしまう。俺はどうしよもなくクロードに囚われていて…
クロードと目があった。
ドキンと心臓が無いはずなのに、胸が鳴る。
「ディオン皇太子殿下が苦しまれているのなら、俺は力になってやりたいと思う。それが多少悪い事でも。」
皆、驚いたようにこちらを見る。
クロードがグリザスに向かって。
「悪い事でも皇太子殿下の力になりたいの?グリザスさんは?」
「俺の忠誠は王家と聖女様だ。あまりにも非道な事なら躊躇するが、王家の命令には逆らえない。ルディーンをさらって来いと命じられたならば、さらってくるのが黒騎士の在り方だ。」
ミリオンもグリザスの言葉に頷いて。
「そうだな…俺は奴の親友なのに、苦しんでいるのを見過ごすなんて…。ルディーンの奴をリボンをつけて差し出すのが友情だよな。セシリア様には申し訳ないが。」
クロードが呆れて。
「感化されてるよ。ミリオンまでーーー。」
ユリシーズは立ち上がって。
「勇者として間違っているけれど、フォルダン公爵家の為なんだ。俺、ルディーンを捕まえてディオン皇太子殿下に差し出すよ。」
皆が一斉にクロードを見る。
クロードは仕方ないという風に。
「よし、ルディーンをさらって、ディオン皇太子殿下に届けよう。俺達の忠誠を見せるんだ。」
しかし、この時、グリザス達は知らなかった。この件について既に解決していたことを…
翌日の昼前、皆でソナルデ商会の奥にあるルディーンの屋敷目指して出かけた。
どうも昨日はルディーンが見事、ディオン皇太子から逃げたようだからである。
誰も彼の家へ行った事がなかったので、徒歩である。
ソナルデ商会の店構えは立派で、のジュエリー、ペンダントとか指輪、髪飾り、色々と取り揃えて並んでいる。
屋敷よりもしかしたら、店にルディーンがいるかもしれない。
中に入れば、店員の青年が傍まで寄ってきて。
「いらっしゃいませ。何がご入用でしょうか。」
最近、庶民向けの安価なジュエリーにも手を出しているので、右側のコーナーは平民の女の子達でにぎわっていた。左側の奥は貴族用の高価なジュエリーコーナーなので、客はちらほらである。
クロードが店員に。
「ルディーン・ソナルデはいるかな?友達なんだけど。」
「ルディーン様でしたら、奥に。お名前は?」
「クロード・ラッセル。っていえば解るよ。」
「かしこまりました。」
4人が待っていると、奥からルディーンが出てきて。
「おや。皆さん、お揃いで。彼女とかのプレゼントですか?クロードの彼女はグリザスだから、それはないですかね。」
ミリオンがルディーンにひそひそ声で。
「ちょっと、外で話がしたい。出られないか?」
「解りました。」
外へ出た途端、グリザスがガシっとルディーンをとっ捕まえる。
「な、何事ですかね?」
クロードが布で口をふさぐ。
「悪いな…ルディーン。俺達は王家に忠誠を誓う騎士だから。」
ユリシーズがルディーンの足首を縛って。
「ごめん。フォルダン公爵家の為なんだ。」
ミリオンが魔法陣を展開する。
「それじゃ転移だ。行くぞ。」
皆、ディオン皇太子の部屋へ転移した。
転移したら、部屋に誰もいなかった。
仕事をしているのだろう。
ユリシーズがテーブルに置いてあった金の首輪を見つけて。
「この首輪を着けたかったんだけど、着けられなかったんだって。
性的な事をディオン皇太子殿下にしか出来ないのと、夜は王宮に強制的に転移させられるっていう制約がついているんだ。」
ミリオンがユリシーズに。
「グリザスが押さえている間に早く着けろ。」
グリザスは床にルディーンを押さえつけて、用意してあったロープで改めて身動きできないように縛り上げた。こういう事は戦で経験していて得意である。
ユリシーズはルディーンの首に首輪を着けた。
「よし。これで大丈夫だな。」
クロードが頷いて。
「このまま、転がして帰ろうか?公務、いつ終わるか解らないし。」
グリザスも同意して。
「忠誠をひけらかすのも感心しない。戻るとしよう。」
ミリオンが再び魔法陣を展開する。4人は姿を消した。
午後になってセシリア皇太子妃が、部屋に戻ってきた。
そして、縛られているルディーンを見つけると、悲鳴をあげた。
「きゃあっーー。どうなさったのですか?ルディーン。と、ともかく縄を解かないと。」
と、縄を解こうとしたが、ふと、ディオン皇太子が何やらプレイでもするつもりで、邪魔をしたらまずいのではないかと考え直して。
「ご、ごめんなさい。皇太子殿下とのプレイですか?私、今日は別室で寝ますから。ごゆっくり。男色の世界って奥が深いわ。」
急いで姿を消した。
さらに時間が経って、ディオン皇太子が珍しくフィリップ殿下と共に戻ってきた。
フィリップ殿下とは第二王子で、弟に当たる。
「兄上、今日は疲れましたね。いいのですか?お邪魔しても。」
「ああ、かまわぬ。最近の学園はどうだ?たまにはゆっくりと話がしたい。」
部屋の扉を開ければ、ルディーンが縛られて転がされているのを見つけ、2人は固まる。
フィリップ殿下が何やら察したのか慌てて。
「兄上、又の機会にしましょう。失礼しますっ。」
凄い勢いでその場から姿を消した。
ディオン皇太子はルディーンの口をふさいでいる布を解きながら。
「何があった?何故、縛られてここにいる?」
「それはともかく、縄を解いて下さいよ。」
縄を解いてやると、まずは手洗いに行かせて、脱水を心配し水を飲ませた。
ずっと縛られていたままであるから、当然である。
軽く食事もさせて、やっと一息ついて、疲れたように手足をさすりながらルディーンは説明する。
「クロード、ミリオン、グリザス、ユリシーズが貴方への忠誠が何たらとか言って、拉致されてきたんですよ。また、首輪も着けられてしまったんですが…どういう事です??」
「俺は何も命じていないぞ。あいつらにじっくりと聞かないとならないな…おい、ルディーン。転移しろ。騎士団寮だ。」
「その前に首輪を取って頂かないと、そろそろ日が暮れる。夜はここから出られない強制力が働く首輪でしょ?」
ディオン皇太子は首輪をルディーンから取ってやる。
2人は騎士団寮へ転移した。
その頃、4人はやりきった感で、機嫌よくグリザスの部屋でおしゃべりしていた。
ミリオンが立ち上がって。
「今日は楽しかった。そろそろ帰るわ。」
ユリシーズも同じく立ち上がり。
「俺も…ああ、アイリーンに怒られちゃうな。今日は半日留守にしちゃったし。」
その時、ディオン皇太子がルディーンと共に魔法陣を展開して現れた。
「お前ら…どういうつもりだ?ルディーンを縛って転がしておいたことについて説明しろ。」
グリザスを始め皆焦る。
凄い怒っているっ???
何かまずかったのか??
ユリシーズが説明する。
「皇太子殿下の望みを叶えたまでです。首輪を着けてルディーンを捕らえたい。何かまずかったでしょうか?」
クロードも頷いて。
「逃げられたって聞きました。まぁ従兄だけど、手の早いのは有名でしたから、それによって皇太子殿下が苦しんでおられるのなら、お力になりたいと。」
ミリオンもディオン皇太子の肩にがしっと手を置いて。
「お前の力になるのが友ってもんだろう?俺はお前の親友と思っている。ありがたく受け取れ。って、何で首輪外して一緒にいるんだ?ルディーン。」
グリザスが説明する前に3人がペラペラと説明してくれた。
まぁ俺は寡黙な黒騎士だからな。
ルディーンは呆れたように。
「ミリオンとクロードはダチだと思っていたが、まぁ手ひどい裏切りですかね…。
この件は解決していますんで、聖女様の冠の注文を頂いたんですよ。だから、逃げる事もせず、仕事をやりますって事で皇太子殿下と仲直りしました。俺にとって聖女様の冠の仕事は魅力的ですから。」
ディオン皇太子はグリザスにも。
「お前も他の連中と同様か?」
騎士の礼を取り跪く。
「俺は王家に、皇太子殿下に忠誠を誓っております。皇太子殿下がルディーンを欲しているのなら、力になりたい。そう思ったからこそ、拉致し部屋へお届けしました。」
ディオン皇太子は満足したように。
「皆の忠誠嬉しく思う。今回は反省している。俺の願いは正しい事ではなかった。
それなのに、皆、動いてくれてありがたく思う。有難う。」
ルディーンがディオン皇太子に向かって。
「そこ、礼を言う所ですかね?間違った道を進んだら諫めて欲しいでしょ??」
「こいつらはこれでいい。俺を諫めてくれる役目はローゼンに任せているからな。お前も諫めてくれるか?」
「仕方ないですな…」
「本当はそこまで忠誠をささげてくれるお前達の事が嬉しかった。」
「「皇太子殿下っーーー」」
「ディオンっーー。」
ユリシーズとクロード、そしてミリオンがディオン皇太子に抱き着く。
さすがにグリザスはそれは出来なかった。
なんかいい光景だな…
この光景をずっと見ていたい。
200年間、呪いの洞窟で耐え忍び、このマディニア王国へ帰ってきた。
こんな幸せな生活が送れるとは思わなかった。
俺ぐらいだろう。死霊で幸せになれたのは…そこは有難くて誇らしく思う。
皆がワイワイ騒いでいる中、一人、再び跪いて、グリザスはディオン皇太子殿下に。
「一生、忠誠を誓います。なんなりと申し付けて下さい。俺は貴方のお陰でこうして暮らしていける。愛する人とも巡り合うことが出来た。」
ディオン皇太子は頷いて。
「まだ、満足するな。お前にはまだまだ、沢山、幸せを味わって貰わなくてはならない。
アマルゼの呪いも、黒竜魔王の討伐も終わっていない。よろしく頼むぞ。グリザス。」
「任せて下さい。」
跪いたまま、頭を下げる。
何とも言えぬ満ち足りた思いを感じた。
冬の夜は静かに深けていくのであった。




