結局、こうなってしまった…
翌日の朝、フィーネがいつもの通り、グリザスの癒しの力を与えた後、いつもの時間より遅れて来たのはクロードでは無くて、ギルバートだった。
「おはようございます。」
「おはよう。今日はクロードではないのか?」
不思議に思って聞いてみれば、
ギルバートは布でグリザスの身体の鎧を磨きながら、
「ごめんなさい。新しく体験入団する、オレグ・マーティンっていう人が来るらしくて。
クロードはそちらの面倒を見る事になりました。鎧の破損があれば、報告してクロードに治して貰うようにします。」
「それなら、構わんが。わざわざ手間をかけさせてしまって申し訳ない。」
「いえ、いいんです。グリザスさんは俺達の 姫 ですから。」
「間違ってもこんな死霊の黒騎士が姫な訳がないだろう?」
「ディオン皇太子殿下が守れって言った時から、強制決定です。掃除終わりましたーー。王宮の庭でお待ちしています。」
ギルバートはそそくさと出ていった。
あああ…姫だなんて、何だか居心地が悪い…
そして、ちょっと寂しかった。いつも面倒を見てくれるクロードが、新しい人の面倒を見るようになったっていうのが…。
庭に出てみれば、騎士団見習い達が待っていて、その他に体験入団するという、男が一人クロードと一緒に立っていた。クロードより背が低い。何の変哲もない黒髪のそのへんにいそうな青年だ。
クロードがグリザスに向かって。
「おはようございます。グリザス指導官。ディオン皇太子殿下に頼まれた、王宮のお客様です。」
オレグと呼ばれた青年は、頭をぺこっと下げて。
「オレグ・マーティンです。よろしくお願いします。」
グリザスは頷いて。
「グリザス・サーロッドだ。まずはお前の剣の腕を見せて貰おう。」
「解りました。」
二人は模造剣を持って、相対する。
見習い達は興味深々で二人の様子を見学していた。
見習い達の中で、腕が立つのはクロード・ラッセルと、ジャック・アイルノーツである。
さて、この男はどのくらい腕が立つのか…。
オレグはタっと地を蹴って、斬りこんできた。
カンっとグリザスは剣で軽くはじき返す。
すると今度は左側から鋭く斬りこんでくる。
グリザスが苦手な方向が解ったのか。
それでもかろうじてその鋭い突きを跳ね返すグリザス。
こちらから攻撃を仕掛ければ、軽く避けられた。
見習い達は皆、驚く。
ギルバートがクロードに。
「おい、あの男、凄いな。対等にグリザス指導官とやりあってる。」
クロードも頷いて。
「さすが…凄い…。」
その後は互いに鋭い剣の応酬が繰り返される。
しかし、グリザスは最後に力技で、オレグの剣の攻撃を跳ね返せば、オレグは吹っ飛ばされた。
ふわりと宙返りをし、着地してから、オレグは笑って。
「強いですね。グリザス指導官。さすがです。」
「いや、凄い強さだな…」
「お褒めに預かり光栄です。」
ぺこっとお辞儀をし、オレグはクロードの傍に戻り。
「体験入団してよかったよ。俺…こんな凄い人に指導してもらえるなんて。」
クロードもニコニコして。
「そうだろう。これで身体はなまらないだろうし。鍛えられるからね。」
二人は仲がよさそうだ。
その後は、いつも通り、皆の剣の指導をし、午後からゴイル副団長の講義の為、教室へ向かう。
クロードはオレグの隣に座り、一生懸命、面倒を見ていた。
それを後ろから見て、グリザスは何だか懐かしさを感じる。
そういえば、自分もクロードに良く面倒を見て貰ったか…。
この青年も、字を書くのが不慣れなようで、一生懸命メモを取っていた。
思わず後ろから声をかけて、
「もし、メモが取り切れなかったら、後で教えてやるから…。俺も、字が書くのが苦手だった。」
オレグは嬉しそうに。
「有難うございます。グリザスさん。いい人ですね。」
講義が終わった後、自分が書いたメモをオレグに見せてあげた。
ギルバートやカイルも、一緒になって、オレグにメモを見せたり、解らない所を教えてあげたりしている。
クロードがそんな様子を隣の席で座りながら、嬉しそうに見つめ。
「みんな、いい人だなぁ…。俺、みんなと一緒にいれてとても幸せだ…。」
ギルバートが驚いたように、
「何をいまさら言っているんだ?クロード。俺達は仲間だろう?」
カイルも頷いて。
「そうだ。仲間だ。腹が減ってきたなぁ。そうだ。オレグも一緒に、飯食おうよ。それとも王宮の飯の方が美味いかなぁ。」
オレグは目をキラキラさせて。
「王宮の飯も美味いけど、ここの飯も食ってみたい。今日は食っていって大丈夫かな?」
クロードが立ち上がって。
「寮のおばちゃんに言ってくるよ。たぶん、余計に作ってあると思う。量だけは多いよ。」
「ありがとう。クロード。」
グリザスは食事をしないので、自分の部屋に戻ったが、オレグやクロード達は食堂で楽しく食事をしたようだった。
夜はカイルがやってきて、鎧の掃除をしてくれた。
カイルがグリザスの鎧を布で拭きながら。
「グリザスさん、寂しいでしょ?クロードと何かありました?」
「クロードと?喧嘩はした覚えはないが…」
あの図書館でのなんとも言えない雰囲気になった事を思い出す。
カイルが困ったように。
「クロードから、ディオン皇太子殿下にお願いしたらしいんですよ。グリザスさんの面倒、分担してほしいって…」
「そうか…」
何だろう…。心の中にガラス片が突き刺さった。そんな気がした。
カイルが帰って行くと、窓の外をぼんやりと眺める。
星がキラキラと瞬いていて。
死霊である自分に、普通に接してくれるこの騎士団の仲間たちはなんて、優しいのか…
幸せだけれど…寂しい…。
クロードには婚約者がいて、婚姻することにより、第一魔国と第二魔国との絆が深まり、
噂ではフォルダン公爵家の爵位も継ぐと言われている。
色々と思う所があるのであろう…。
コンコンと扉をノックする音がした。
こんな夜遅くに…来る男は…
「どうぞ。開いている。」
やはりクロードだった。部屋へ入るなり。
「貴方…ずるいですよ。なんで、泣いているんです?」
「え?いや…泣いてはいないが…」
「俺がいないと寂しい…って…思ったんでしょ?だって…凄く伝わってきたんだ。貴方の気持ちが…」
間近でクロードに見つめられる。
「どうなんです?」
「俺は…お前がいないと寂しい。」
「それは、恋なんですか?それとも友情?貴方に聞きたいんです。」
「聞いてどうする?」
クロードはグリザスの兜の口元の辺りにかぶりつくように、口づけをしてきた。
「魂の世界で、愛してあげますよ…もう、逃がしませんから…」
景色が反転した…
周りは美しき夕空…。
夕闇の中で、魔族の姿のクロードがグリザスの肩に手をかける。
グリザスはもう、クロードのなすがままに身をゆだねた。
ついに真っ黒になってしまった。Bl疑惑ではなく確定しちゃったよう( ;∀;)




