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ドーピング・ブラッド

 今、自分に何が起こっているのかなんて、確かなことは分からない。


 でも、さっき唾を飲み込んだとき、少しだけ鉄の味がした。

 その直前には吐血をしたし、口の中に残っていた血を飲み込んでしまったのだろう。


 そう。血を飲んだのだ。

 職業クラスが吸血鬼である、僕が。


 吸血鬼が血を啜ったとき、どうなるのか。

 それに関しては何も説明がなかったため断言はできないものの、今のこの感覚は、おそらく間違いない。


 これが――吸血鬼の能力だ。


「シオン……」


 ヴェロニカの呟きが、聞こえた。

 決して大きな声ではなかったが、不思議とはっきり耳に入ってくる。

 もしかしたら、聴覚まで上がっているのかもしれない。


 僕は立ち上がり、地を蹴り、ダンゴムシへと駆け出す。

 自分でも驚くくらい、凄まじい速度で目標へと達し。

 自身の小さな拳で、ダンゴムシの強硬な体を殴打した。

 

 途端、巨大な体が宙を舞い、耳をつんざく噪音を伴って地に落下する。

 それっきり、ダンゴムシは動かなくなった。


 倒した……と、いうことだろうか。

 そんな考えを裏付けるように、ダンゴムシの体が消え、硬貨と思しき小さな物体が数個出現した。


 敵を倒すと金銭が手に入るって、こんなところまでゲームを再現しているのか。

 見かけによらず、呆気なく倒せる敵でよかった。

 まあ、ここミントスペアは最初の大陸だし、それほど強い敵は出てこないだろう。

 ゲーム通りなら、だけど。


「大丈夫?」


 犬を抱え、ヴェロニカに手を差し伸べる。

 すると、短く頷いたのち手を取って立ち上がった。

 せっかくだし、お金は拾っておこう。

 さすがに独り占めする気はないため、ヴェロニカと半分ずつ分ける。


「これ、一枚どれくらいの価値なのかしら」


「日本と同じならいいんだけどねぇ」


 硬貨を見ても何も分からないので、ステータス画面を確認してみる。

 所持金の欄には、760と記されていた。

 ……だめだ。数は分かったけど、物価とかどれくらいなのか知らないから何とも言えない。


 と、ステータス画面を閉じようとしたとき。

 自分のレベルが3に、他のステータスの数字もいくらか上昇していることに気づいた。

 そうか、さっきダンゴムシの魔物を倒したから、経験値が入ったのか。

 レベルアップのファンファーレとかないんだな……敵を倒したらこまめに確認しておいたほうがいいかもしれない。


 攻撃力、防御力……と順に見ていき、とある一箇所で僕の視線が固まってしまう。

 どういうことだ、これ。

 何で運勢の数値だけが、0のままなんだよ。


 確かに犬に追われたりダンゴムシに襲われたりはしたけど、そんなに不幸なことばかりでもないと思うんだけどなぁ。

 助けが来てくれたし、自分の力が発覚して敵を倒せたし。

 だからそれは、不幸というよりも――。


「ねぇ、シオン」


 ふと、ヴェロニカが何やら深刻そうな表情で声をかけてくる。

 訝しんでいると、ヴェロニカはいきなり詠唱を始めたかと思うと、やがてせいれいの姿が消え去った。

 そういえば精霊を呼び出したのだから、当然帰らせることもできるのか。

 じゃあ、わざわざ僕が抱き抱える必要なかったのでは……。


「さっきの、何だったの? なんか、いつも以上に目が紅くなって、すごく強くなってたけど」


 “さっきの”とは、僕がダンゴムシを斃したときのことだろう。

 まさかの殴打一回で終わってしまったし、その直前まで手も足も出なかったのだから不思議がるのも仕方ない。


「精霊使いのヴェロニカが精霊を呼び出せるように、吸血鬼の僕にも固有の能力があるってことだと思う」


「あれが、そうなの?」


「たぶんね。血を飲み込んだら、強くなるっぽい」


 今の段階では、その程度の説明しかできないが。

 おそらく、ただ戦闘能力が上がるだけでなく五感にも影響がありそうだ。

 さっきの戦闘中、明らかに聴覚や視覚が向上しているように感じたし。


 血を飲まないといけないっていう条件があるとはいえ、この吸血鬼の能力はかなり強いと思う。

 これがもしただのゲームで、正式にリリースされていた場合、吸血鬼を選ぶ人は多くなるんじゃないかな。

 まあ、他の職業クラスの能力がどんなものなのか、まだ分からないけど。


「そうなんだ……ありがと、助けてくれて」


「えっ? いや、お礼を言われるようなことじゃ……僕自身もやられそうになってたわけだし」


 素直にお礼を述べられ、少し面食らってしまう。

 今まで、あまり他人に感謝されるということがなかったから、ちょっと恥ずかしい。


「と、とりあえず、早く行こ。アンブレットはまだまだ先みたいだから」


「あれ、もしかして照れてる?」


「うるさい」


 今後も魔物に襲われることがあるだろうから、よく周りを警戒しとかないとな。突然不意を突かれてしまわないように。

 そんなことを考えながら、僕たちは再びアンブレットの街へ向かう。


「そういえばさ、このゲームの魔物って何で犬とかダンゴムシとか、日本にもいるようなものが多いのかしら」


 肩を並べて歩いている途中、ヴェロニカが問うてくる。

 多いって言っても、まだ犬とダンゴムシしか見ていないから分からないけど。


「虫とか動物とか、そういうのをモチーフにしてるだけじゃないの? 確かに日本にいるものと似てはいたけど、所々違う箇所もあったでしょ。大きさとか、色とか、柄とか、目や口とか、声とかね」


「なるほど、確かにそういう魔物は他のゲームでもいるわね」


 ポケ○ンとかなら、一番分かりやすいかもしれない。

 大抵の場合、何もモチーフが存在しないというのは少ない気がする。

 少なからず、どんな魔物にもモチーフというのは存在するのではなかろうか。

 もちろん、ゲーム内での話だが。


 などという会話をしながら、僕たちはひたすら歩く。

 目的地は、あと僅かなところにまで近づいてきていた。

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