直前の約束と鼓舞
ローレルと勝負の約束をしてから、二日が経った。
今日は、ローレルと戦う日だ。
ローレルと戦うという話をしたあと。ヴェロニカやイベリスに協力してもらって、今日までにかなり特訓をした。
万が一にも負けるなんてことがないよう、荒野に出現する魔物を討伐したりして必死に鍛えまくった。
だから、準備は万端だ。
「……シオン。あんたに、これを渡しておくわ」
闘技場の扉の前。
到着し、中に入る前にヴェロニカが言いながらとあるものを手渡してくる。
それは――王都アンブレットにてみんなでお金を出し合って購入した、魔法を吸収するという効果のある盾。
今まで、ヴェロニカが持っていたもの。
それを、今ここで僕に渡してくるとは思わなかった。
「え、でもこれって……」
「いいわよ。あいつが魔法を使ってくるとは思えないけど、ちょっとでも攻撃を防げたらと思って。絶対に、負けてほしくないもの」
「ヴェロニカ……ありがとう。うん、絶対に勝ってくるよ」
僕は、盾を受け取った。
全く、どれだけ負けられない理由を作れば気が済むのか。
ヴェロニカから盾も貰ってしまえば、絶対に勝って返さなくてはいけない。
武器は、血で作り出せるから大丈夫だ。
だから、これで本当に準備は完了した。
僕は緊張を覚えながら、扉を開く。
辺りを見回すも、まだローレルは来ていないようだった。
だが、奥からとある少女が向かってきているのが見えた。
白のショートカットに、髪と同色の猫耳と尻尾。
そう――ネリネだ。
「ネリネ、何でここに?」
「……別に、試合を見に来ただけ。あなたは……」
「僕は、出場するんだよ。戦わないといけない相手がいるんだ」
「……そう。殺されないように気をつけて」
それだけを言って、再び観客席に戻っていく。
もしかして、僕のことを心配してくれたのだろうか。
いや、さすがに自惚れすぎか。
だけど、ネリネも僕の戦いを見てくれるというわけで。
ちょっと緊張するけど、負けてるところは絶対に見られたくない。
「よお、逃げねえでちゃんと来たみてえだなあ」
ふと。背後から声が聞こえたので振り向くと、すぐ後ろにローレルが立っていた。
相変わらず大きな体で、僕たちを見下ろしている。
「……逃げるわけないよ。ローレルのことも、救いたいから」
「あ? 救うだあ? 何言ってっか分かんねえが、おめえと殺り合えるならいい」
この上なく嬉しそうに、ローレルは笑った。
本当に、心の底から戦いが好きなんだな……僕には、全く理解はできないが。
「ついてこい。おめえはどうせ初めてだろ。俺様が一緒にエントリーしてやるよ」
「う、うん。分かった」
ローレルが歩き出したため、その背中について行く。
ヴェロニカとイベリスは観客専用の受付にてチケットを購入する。
「俺様は、このガキ――シオンと試合をやりてえ」
「対戦相手をご指名ですね。お互いの了承は済んでおりますでしょうか」
「は、はい。大丈夫です」
受付の人が、僕のほうへ訊ねてきたので頷く。
ローレルは次々と僕の隣で手続きを行い、料金を全額支払う。
「あの、僕の分の金額は……」
「気にすんじゃねえ。せっかく、おめえと殺り合えるんだ。金なんか気にしてる場合じゃねえだろ」
何というか、調子が狂う。
ローレルも、戦闘狂ではあるものの、あまり悪い人には思えなくなってしまう。
「俺様はこっちだが、おめえは向こうの控え室に行け。がはははっ、楽しみにしてるぜ」
言って、ローレルは右側の扉に入っていく。
そうか、受付の奥にある扉は控え室になっていたのか。
僕は心臓の鼓動が速まるのを実感しつつ、左側の扉を開ける。
一人、二人、三人。
僕以外に、控え室で控えていたのは三人だけ。
ここの人は全員、これから試合を行うのだろう。
中年の男性に、かなり若く細身の男性。そして高齢の女性までいる。
やはり、老若男女問わず、色々な人が参加しているみたいだ。
もちろん、傍から見たら、僕みたいな幼い女の子が来たことで驚かれているのかもしれないけど。
やがて、一人が消え、再び一人入り。
更に、一人出場し、もう一人控え室に入ってくる。
それを繰り返し、待ち続け、ついにそのときがやってきた。
「次、シオン。順番だ」
会場のほうからやって来た男性が、僕の名を呼ぶ。
短く返事をし、奥にある扉を開き、薄暗い通路を進む。
一歩踏み出すごとに、緊張して心臓が高鳴る。
やがて、光が見えてきた。
ついに、始まるのか。
深呼吸をして、僕は――一歩を踏み出し、観客全員の注目を浴びた。
「シオンVSローレル! 未だ負け知らずのローレルが、初めて対戦相手を指名したとのこと! どこまで食い下がれるか見ものですね!」
審判の言葉も、まるで僕が負けてしまうとでも思ってるみたいだ。
いや、まるでじゃないか。きっと、そうなのだろう。
何回も出場しているのに一回も負けていないようだし、その強さは審判なら当然分かっているのだろうから。
見上げて、観客席の中からヴェロニカやイベリス、ネリネの姿を探す。
しかし、生憎と人数が多すぎて見つからなかった。
でも、三人が見てくれていることに変わりはない。
僕は、もう一度深呼吸する。
更に、両手で頬を叩いた。
自分自身を鼓舞するかのように。
よし――絶対、勝つぞ。
みんなに約束したから。自分自身に誓ったから。
絶対に、負けない。
「それでは、勝負開始です!」
審判の声が、会場中に響き渡った。




