それだけは、絶対に
勝負を申し込んできたローレルに、僕が出した提案。
――負けたやつは、勝ったやつの仲間になる。
つまり、僕が勝った場合はローレルが僕たちの仲間に加わり。
ローレルが勝った場合は、僕が〈キーワ〉に入らないといけない。
一長一短で、僕にもデメリットはある。
でも、ただ仲間になれと誘うだけでは、きっと大人しく従ってくれはしない。
だからこその提案だ。
僕と戦いたければ、その提案に乗れ――と、
あくまで口約束という形にはなってしまうが、僕が勝った暁にはローレルを仲間に加えることができるようになる。
僕だって絶対に負けるわけにはいかなくなるものの、さっきローレルが言っていたルールは負けた者は死ぬ、だ。
どちらにせよ負けられないなら、幾許かはマシだろう。
「仲間、ねえ……。正直、俺様はそんなもん興味ねえが、おめえを仲間にすりゃあボスは喜ぶだろうし、そうなれば俺様はいい働きをしたってえことで、ボスと戦う機会が得られるかもしんねえなあ」
ローレルは頭に手をあて、何やら考え込む。
やがて、ニヤッと笑みをこぼして言ってくる。
「おめえと殺し合いできねえのは残念だが、いいぜ。その提案、乗ってやるよ」
交渉は成立。
僕はローレルを仲間に加え、ローレルを救った上で元の世界に戻る方法を探るために。
ローレルは僕を仲間に加え、自身の働きを評価された結果ボスとの戦闘を果たすために。
お互いにとって負けられない戦いが始まることが、今ここで決定した。してしまった。
「戦いの日だが、明後日の昼でどうだあ?」
「……いいよ。異論はない」
「がはははっ、決まりだなあ。楽しみに待っとくぜえ、おめえと戦える日をよ」
楽しそうに笑いながら、ローレルは立ち去っていく。
……やってしまった。
勝てる自信があるわけでもないのに、つい勝手なことを言って、相手を乗せてしまった。
ヴェロニカとイベリスが知れば、どう思うのだろうか。
危険なことはするなと、僕を諌めるのかな。
でも、今更逃げることはできない。
どっちにしろ、今後も〈キーワ〉の人たちとは戦うことになっていたはず。それが、予想以上に早くなっただけ。
僕は――絶対に勝つ。勝たないといけない。
「あ、シオン!」
ふと。声をかけられたので振り向くと、二階からヴェロニカとイベリスが下りてきていた。
僕の近くにまで駆け寄り、少し乱れた息を整えたあと問うてくる。
「……こんなところで何してるのよ? いきなりどっか行くのはやめなさいよ」
「あ、ああ、ごめん」
別に、ローレルとのやり取りを見られていたわけではないらしいが。
パーティーの仲間である二人に隠しておくわけにもいかないし、そもそも隠し通せるはずもない。
だから、やっぱり二人には話しておく必要があるだろう。
僕は、意を決して話し出す。
ローレルと話した内容を、余すところなく全て。
「……そ、それって、シオンが一人で戦うの?」
「そうなる、と思う。あいつは、僕と戦いたいみたいだから」
「そんな……何でそんな無茶な話に乗ったのよ!? あんたも見たでしょう? 危険よ、あいつがあんたの提案したルールに従ってくれるも限らないし、もし……もし、殺す気で来たら……どうするつもりなのよ」
ヴェロニカの心配も分かる。そう言われるのは予想通りだった。
二人もローレルが戦っているところを見ていたわけで、あいつの強さをちゃんと見たからこそ、まだ戦うのは得策ではない……と、そういうことだろう。
僕だって、勝てる自信なんてものはないけど。
ある意味これは、チャンスでもあるのだ。ローレルを仲間に加えることができれば、今後の戦いにもいい影響を与えそうだし、それにローレルが元の世界に戻れる方法を知っている可能性もある。
たとえ危険だったとしても、その可能性に賭けてみたい。
「それに、あたしは嫌よ。あんたが……あいつらの仲間になるのなんて」
「だ、大丈夫だって。勝てばいいだけなんだからさ。しかも、勝ったらローレルを仲間にもできるんだから、それはいいことだと思うよ」
「あんた……作戦とかあるの? 勝算とか……」
「いや、それは、まあ……」
「……ないんじゃない」
作戦とか勝算とか言われ、思わず目を逸らすとジト目で突っ込まれた。
僕を心配してくれるのは凄く嬉しいが、僕だって逃げるつもりはない。ここは譲られないのだ。
まだ納得いってなさそうなヴェロニカに、どうやって説得するべきか悩んでいたら。
ヴェロニカの肩を、後ろから優しく叩く者が。
ヴェロニカが後ろを振り向くと、イベリスがヴェロニカの肩の上に手を置いたまま首を横に振った。
「大丈夫デスよ、ヴェロニカ。シオンがこう言ってるんデスから」
「イベリス……あんたは、シオンがどうなってもいいの?」
「いいわけありマセンよ。ワタシだって、もちろん心配デスし不安デス。でも、シオンが決意したことを止めたくもありマセン。だから、ワタシは信じるだけデス。シオンは絶対に勝ってくれるって、そう信じるだけデスよ」
「……イベリス」
イベリスは、いつも飄々としていて。明るくて、無邪気で、変態で。
なのに、こんなにも僕のことを。
ただ、嬉しかった。
これは、無責任だとかそういうことじゃない。信頼の証だと、分かっているから。
「……全く、もう。分かったわよ。でも、これだけは約束してちょうだい。絶対に、負けないって。絶対に、あいつに勝つって」
「……うん。ありがとう、ヴェロニカ、イベリス。僕は――絶対に勝つよ」
僕を信じてくれた二人に、そう宣言して微笑みかけた。
負けられない理由が、もう一つできてしまったな。
これで負けてしまえば、二人を裏切った形になってしまう。
だから、何が何でも勝ってみせる。
二人に、そして自分自身に、そう誓った。




