花びらは追い求める
今の僕より、明らかに60センチ以上大きな身長で、僕を見下ろすローレル。
かなりの近距離。でかい身長に太い筋肉で、何もしなくとも凄まじい威圧感がある。
問いに僕が答えるより早く、ローレルは僕の顔を見て首を傾げ、口を開く。
「……おめえ、どっかで見たことあるような気が……何だっけなあ」
「えっと、あの」
「あ、思い出したぜ。おめえ、確かシオンってえ名前だろ」
僕の言葉を遮り、突然発せられた僕の名前。
どうして、僕の名前を知っているのか。
かつてヒースもオオバコも僕の名前を知っていたし、〈キーワ〉の人たちは僕たちのことも把握できているのだろうか。
「やっぱそうだろ。ボスが見せてきた顔写真とそっくりだからよ」
「顔、写真?」
「おうよ。写真にいる人物を仲間にしろ、拒まれ、抵抗された場合は殺すことも厭わない……ってよ」
それは、オオバコも言っていた。
やはり〈キーワ〉のボスとやらは、それだけ僕たちを仲間にしようとしている。
でも、一体どこで写真なんか手に入れたんだろう。
ボスって、一体何者なんだろう。
「聞いたぜ? おめえ、ヒースの野郎をぶっ殺したんだってな。やるじゃねえか」
正確にはヒースに止めをさしたのはイベリスだが、わざわざ指摘する必要もない。
まさか名前だけでなく、そんな情報まで知られてしまっているとは。
それも、全てボスから聞いたことなのだろうか。
だとしたら、そのボスはどうやって、それほどの情報を仕入れているのか。
「やるじゃねえか……って、いいの? 仲間を、殺されたっていうのに」
「ああ? 何言ってんだあ、おめえ? 弱えやつが、強えやつに負けた。それだけのことだろうがよ。仲間とは言うが、あいつは別に〈十花〉に入ってたわけでもねえし、そもそも――弱え野郎には興味なんざねえよ」
ヒースは敵だった。二度も僕たちの前に立ちはだかり、傷つけ傷つけられた。
でも。いくら、そんな敵でも。
弱いとか、興味がないとか、そんな風に悪く言われて、僕もいい気はしなかった。
ヒースを斃した僕たちが言えるようなことではないって、分かってはいるけど。
「……ローレルも、僕を仲間にしたいの?」
「まあ、ボスはそう言ってたけどよ……俺様は仲間にしたいとか、そんな感情は一切ねえなあ。どうでもいいんだよ、正直な」
これは驚いた。ローレルも〈キーワ〉の一員である以上、僕たち同じような辛い境遇の人たちを仲間にするべく行動しているのかと思っていたのに。
そんな目的に賛同していない者も、一応はいるということなのだろうか。
しかし。
ローレルが言っていた意味は、そういうことじゃないのだと。
このあとの一言で、察してしまった。
「俺様は、ただ戦いてえだけだ。強えやつと、強力な相手と、激しい命のやり取りをしてえだけだ。仲間にしたいわけじゃねえ、ただ戦いてえんだよ。だから闘技場まで来たってのによ、出てきたやつは弱えやつで拍子抜けだぜ」
ニヤッと、不敵な笑みを浮かべて言った。
狂っている。思わず僕は、そう思ってしまう。
ただの、戦闘狂ってわけか。
どうして〈十花〉がこんなところにいるのかと不思議に思っていたが、なんてことはない。単に、戦闘がしたかっただけだというのか。
「なあ。おめえよ、強えやつ知らねえかあ?」
「……え?」
「本当はボスの野郎と戦いてえんだが、そのためにはもっと働けって言われちまってよ。仲間探しなんつー、めんどくせえことしなくちゃなんねえんだよ。俺様は仲間なんざ興味ねえってのによ。だからよ、手軽に戦える強えやつを知ってたら教えてくんねえかあ?」
どこまでも、戦いのことしか頭にないみたいだ。
他の〈キーワ〉メンバーとは違い、仲間以上に強い相手を追い求めているようだ。
でも。ローレルの言う強い人なんて知らないし、たとえ知っていてもこんなやつに売る気などない。
「……知らない」
「なんだ、知らねえのかあ。ま、いいや。俺様には一人、強い奴を知ってるんでなあ」
そして、またもや不敵に笑む。
僕の頭から足の先まで、全身を舐るように見て。
顎を手で擦り、何やら満足そうに頷いた。
「……それ、って?」
「決まってんだろ――おめえのことだよ」
僕を見据え、そう言い放った。
愕然とする僕をよそに、ローレルは更に続ける。
「ヒースの野郎を殺し、オオバコとも互角……いや、むしろ圧倒してたらしいじゃねえか。ってことはおめえ、強えんだろ。おめえなら、俺様でもちったあ楽しめるかもしんねえ」
ヒースとオオバコの二人と戦ったことで、ローレルに目をつけられてしまった。
戦った事実や戦闘での勝敗など、そういったことが他のメンバーに知られ、その結果、こうして他の人たちに目をつけられることもあるのか。
僕たちの目的からして、それはメリットにもなりデメリットにもなる。
〈キーワ〉の人を仲間にし、誰か元の世界に戻る方法を知っている人がいれば、その人から話を伺う。
だけど、今の僕で。
このローレルに勝てる見込みなど、大してない。
たとえ〈キーワ〉や〈十花〉と接触して仲間に加える機会があったとしても、負けてしまえば烏有に帰す。
「シオン――俺様と、勝負しろ。楽しい楽しい、命のやり取りをしようぜ」
驚愕やら畏怖やらが綯い交ぜになり、上手く答えることができないでいると。
ローレルは、僕にそんなことを言ってきた。
決して頼みや提案などではなく、命令だとしか思えない口ぶりだった。
「ルールは簡単だ。勝ったやつが強い、負けたやつが弱い。勝ったやつが生き残り、負けたやつは死ぬ。それだけのこった」
つまり、紛れもない殺し合い。
僕が、ローレルと、一対一で。
せめて二人なら、血を吸って強くなることができる。それでも絶対に勝てるとは言えないものの、まだ可能性はあるだろう。
しかし、一対一なら話は別。
誰かの血を貰うことができない以上、強化するには自分自身の血を使うしかない。
他人の血を使った場合より強くなる割合は少なくなってしまうし、自分の血を使うには出血するほどの傷を負わなくてはいけない。つまり、相手の攻撃を食らうことが前提となる。
でも、僕は見た。マレーヤを一撃で潰した、あの破壊力を。
一回だけでも受けてしまえば、僕は……本当に、無事では済まないだろう。
「断ったりしねえよなあ? おめえと殺り合えるのが楽しみすぎて、体が疼いてきちまう。そんな俺様に、断るなんつー酷えことはしねえよなあ?」
「……」
拳を強く握り締める。頬を一筋の汗が伝う。歯を強く噛み締める。
僕は、確かな恐怖心と不安を覚えながらも。
ローレルに、更なる提案をする。
「その戦い、受ける代わりに一つだけ提案がある」
「ああ? 何だよ」
「さっき、ローレルは勝ったやつが生き残り、負けたやつは死ぬって言ってたけど。それを撤回してほしいんだ」
「撤回だあ? どういうことだ?」
僕は唾を飲み込む。
小さく深呼吸をしたあと、ローレルを見上げて言った。
「負けたやつは、勝ったやつの仲間になる――そのルールに変えてほしい」




