第二話 錯綜する思考 血汐雄大編
血汐雄大君は、ややこしい人間です。はい。
ていうか、全部のキャラがややこしいかも・・・?
血汐雄大は、3組の寮の前でふと立ち止まった。誰かが泣いている声が聞こえるのだ。男のような女のような不思議な何処か惹きつけられるような声だった。
「うわああああああああああああん」
女の子のような泣き方だった。しかし、何処か男の子のような声にも聞こえる。いったい誰だろうか。雄大は気になって、そこに向かおうとしたのだが、そんな時、ふと隣に誰かが数人ほど、いつの間にか立っている事に気がついた。
左右を見るとそこには、春風歩夢と嗅土綾香と片岡信也と園生香久山の4人が立っていた。「お前ら何してるんだ?」雄大は反射的に4人にそう聞くと、4人は何かを企んでいるような顔をした。そして、お互いに目くばせをした。何か嫌な予感がする。全員が口を開けようとしていた。
「いやさ。雄大に提案があるんだよね。私達、組まない?同盟って奴。」まず最初に、歩夢が提案してきた。確かに、嫌な予感がする物ではあったが、ある意味ありだなとは思った。
雄大は歩夢をジっと見た。キリっとしていて、狐のような風貌をしており、美人の部類に入る女だった。しかし、学級委員長を率先してやろうとする辺り、少しばかり嫌な女のようにも見える。いや、生徒会長もやっていた気がする。1年生のくせに。ようするに、中学の間に選挙に出たのだ。全く。用意周到というかなんというか。学校もどうして、中学生に立候補する事を是としたのか、全くもって不思議だった。
「この提案は俺がしたんだけどさぁ。この5人なら一番バランスが良いかなぁ。って思ったんだよね。」次に、片岡信也が口を挟んできた。
片岡信也。11組で平均より下の人間だが、どういう訳か頭が無駄に良かった。学校の成績の方も、絶対にどれかの教科は儚地兄弟と同率の1位を取っていた。将棋などをやらせても、この学校でも5本の指に入るだろう強さを持っていた。正直、今回の“ゲーム”の中で、海神大河と並んで、敵に回したくない人間の最たる人間だった。
「そうだな。それもアリだと思う。」雄大は、様子見をする事にし、適当に返事をした。すると、甘えたような声で嗅土綾香が口を開いた。「様子見なんて、あなたって嫌な人ねぇ。」綾香は雄大の肩に手を置いてそういった。甘ったるい香水の匂いが雄大の鼻を刺激した。気色悪い事この上ない。
「良い事を教えてあげるわ。」綾香はもったいぶった口調でそう言った。「良い事?」雄大は、綾香の方を向かずに、信也の方に顔を向けた。「んもう。嫌な人。」綾香はそういうと、つまらなさそうにソッポを向き始めた。雄大に視線をなげかけられた信也は、「ったく」と頭を抱えてため息を吐いた。
信也は今まで気づかなかったが、前を歩いている大河と明香里を指さした。「あいつを孤立させるのさ。海神大河をな。」雄大は自分の耳を疑った。海神を孤立させるだと?何をするつもりだ?雄大の考えを読み取ったかのごとく信也は説明を始めた。
「この学校で一番強いのは、海神大河だろうって思うんだよね。あいつを孤立させれば、俺たち5人に勝機が来るって訳。播磨姜維は正直言うと、頭はそこまで良くないからねぇ。それにあの男、最後の一人になるまで殺しあえとか言って無いし。生き残れば言い訳だよ。うん。でも、幾人かの死者がいると思われるから、海神大河には死んでもらおうって訳さ。」
「・・・・。」雄大は驚きで、目を丸くさせた。やはり片岡信也あなどれない人物だ。俺にとってこの男は、頼もしい味方になるだろう。海神大河には悪いが・・・。俺は、こいつらと組もう。雄大は、口元に笑みを浮かべて、「わかった。」と言って、信也に手を差し出した。信也も雄大のそれに答えた。
「契約設立だね。」信也は嬉しそうにそう笑うと、ギュっと強く雄大の手を握った。雄大は、綾香と歩夢と握手を交わした。そこで、もう一人、園生香久山がいる事に気づいた。5組の園生香久山。全ての成績が中の上で全てに置いて目立った成績の無い男。しかし、その成績が逆に目立っていた。雄大はジっと香久山を見た。香久山は、何を考えているのか口元に意地の悪い笑みを浮かべていた。方向は誰かが泣いている声のする方を向いていた。
「泣いているんだね。」と呟いた後、ハっとしたように、香久山は雄大に視線を合わせた。「血汐・・・。」雄大はコクリと頷いた。
雄大は少しばかり驚いた。自分がこの男に知られている事に驚いたのだ。お互い面識は無いのだから。血汐雄大という人物は、自分で言うのもアレだが、まったくもって有名でもなんでも無いのだから。
「知っている。君は特別だから。」香久山はそれだけ言うと、興味が無くなったのか、ボーっと空を見つめ始めた。何でこの男が、5人の中に選ばれたのかそれが雄大には不思議でならなかった。ところが、その疑問にも信也は簡潔に不可解に答えた。
「彼はね、未来が視る事が出来るんだ。」信也は、それをまるで当たり前のように答えた。ありえない。未来を視る事なんて出来る訳が無い。何を言っているんだ。こいつは・・・。信也は雄大を見て、ニッコリと笑った。「雄大君は信じられないようだね。でも、君は不思議な出来事がこの学校で起きているって気づいて無いみたいだね?こっちにおいでよ」信也はそういうと、雄大の手をつかんで、誰かが泣いている声のする方へ駆け出した。その声を聴いてみると、もはや完全に女の美しい泣き声に変わっていた。
「何だよ!?」雄大は少しだけ抵抗しながらも、そこに向かう足を止める事が出来なかった。女の泣いている所を見るのは申し訳ない気持ちがあるのだが、しかし、誰が泣いているのかが気になったのだ。
その女の泣いている所の近くに着いてみると、そこからは光が溢れだしていた。「光ってる!?」雄大は目を見開いた。信也は「そうだね。」と言うと、ふと立ち止まり、足取りをゆっくりにして、ゆっくりゆっくりと泣いている女のいると思われる光が溢れている所に歩いて行った。そこには、驚くべき光景が広がっていた。雄大は、自分の中の心臓が暴れまわっているのを止める術が分からなかった。
「ほら。彼女だよ。彼女を知ってる?見た事あるよね。クラスメイトなんだから。」信也は怪しげな笑みを浮かべて、後ろで茫然とその光景を見ている雄大の方を振り返った。
あぁ・・・。勿論、“知っている”。しかしそれは、“彼女”ではなく“彼”のハズだった。目の前には、儚地麦人が涙を流していた。しかし、瞳は蒼くなり、髪の毛はウェーブし背中の真ん中の辺りにまで伸びていた。そして、背中からは光り輝く翼があった。
雄大は思った。儚地麦人は実は、女であり、そして・・・。“天使”なのだと・・・。
その美しさにしばらくの間、雄大は動けずにいるのだった。そして、雄大は決心した。彼女を泣かせた人物を許さないと。その人物がどういう訳か、海神大河である事を雄大は、“直観”していた。そして、その直観が一緒にこの光景を見ている、他の4人にも伝染して行っている感覚を雄大は感じていたのだった。
secret seen...
園生香久山は、自分の頭の中に、目の前で泣いている美しい男か女か分からないが、その人物を泣かせているのが、海神大河である事を感じていた。これはきっと、血汐雄大によって引き起こされた事である事を香久山は知っていた。
「めんどくさいなぁ。」香久山は誰にも聞こえないような声でそう呟いた。誰も自分の本当を知らない。未来を視る事は出来る。それは確かに香久山の一部分ではあった。だが香久山はそれだけでは無かった。それは、“平均以上”を必ず得る事にあった。それは、全てにおいて出来る人間はそうそういない。
香久山はその能力と未来を視る力がある故に、全てのゲームを普通にしていたら勝ち残る事を知っていた。自分は、絶対に残ってしまうのだ。半分ずつに消えていくとしても、生き残りの中に絶対香久山は生き残るのだ。この力を両親は、“ギフト”と言っていたが、それが違うのも香久山は知っていた。しかし、香久山にとってそんな事はどうでも良い事だった。
このゲームの生き残り方は知っている。チームを組む事だ。もしくは、孤独に苛まれるか。それゆえに、香久山は知っていた。このゲームの死者は誰になるのかを・・・。そんな事を考えている時、全員が見えない人物が、香久山の後ろに立った。それは、知り合いの男だった。
「香久山・・・。」
香久山はその男を香久山と呼んだ。男はニヤっと不敵な笑みを浮かべた。「それは止めてくれるかな?君はその名前を僕に言ってはいけないんだから。覚えといてよ。君は僕に、“生かされている”んだから。」男はそう言うと、香久山の背中に何かを突き刺した。「うっ!!!」香久山は誰にも気づかれないように、唸り声をあげるのをこらえた。
「お前・・・。」香久山は顔を後ろに振り向けて言った。男は「これを譲ってあげる。気をつけるんだよ。第一のゲームにはね・・・」男はそれだけ言うと、スウっと姿を消した。
香久山は何事も無かった事を装うために、再び儚地麦人のいる方を振り返った。“天使”その単語が、香久山の頭の中に鳴り響いた。香久山は、うんざりだと言うようにため息を吐いた。実際にうんざりしていた。頭の中にこの単語が鳴り響いている理由に、うんざりしていた。
「俺は先に帰る事にするよ。信也。時間になったらそっちに行くから。重要な事があったらLINEにでも送っといて。」香久山はそれだけ言うと、自分の寮のある方向へと向かった。全くアホらしいったらありゃしない。どうしてこんなアホな事が行われなければいけないのか。全ては、あの男のせいだ。“イエス・キリスト”いったい何を企んでいるのだ・・・。
香久山はぶつくさ呟きながら、手に持っている冊子を読み始めた。“集合場所:クロックタワー5階”と新しい情報が書かれていた。時計塔を“クロックタワー”とわざわざ呼んでいる辺り、何か変な物を感じたが、それについては気にしない事にした。香久山は、あの4人がいまだにあの“天使”を見ているだろうと確信し、この情報をLINEに送ったのだった。
secret seen end...
レナ・G・マグノリア編に続く-。
今回の話を見て、完全にわかった方がいるかと思いますが、この小説は能力物です。結構、一人につきたくさんだったり、一つだったり、持ってなかったりとバラバラですが、お楽しみください。
にしても書いてて思ったけど、どのキャラも腹の底で一物もってそうな奴らばっかだなぁ・・・。