第九十九話『アイズ』
『たっ……立ったーっ!?』
マイクを片手にバニーコスのまま解説席上に飛び乗ったクリスが声を上げた。
観客席からもどよめきが聞こえてくる。
勝負は決まった。
わずか数名を除く誰しもがそう思う中、小さな翼の少女は立ち上がったのだ。
「やっぱり……」
そんな彼女を見て、辰美が苦笑いを浮かべた。
「……手応えが浅かったからね。仕留め切れなかったかな? って思ったんだけど……」
わずかに悔しげな色をにじませる。この少女にしては珍しいことだ。対してひばりは立つのがやっとの状態で口を開いた。
「……なんとか、見えましたから……。けど、アバターの反応速度がついてこれなくて……」
その答えに辰美が目を丸くした。
「……視えたの? ボクの“雷神”が?」
信じられないものを聞いたように、呆然とつぶやく。その意味を分からずに、ひばりは首を傾げた。
驚いているのは辰美だけでは無く、七組や八組の面々や解説席のふたりもだった。
『……おねーさん、動体視力には自信があったんだけどねい。影くらいしか見えなかったよん』
「本来そんなものだ。私だって刃を追いきれない。辰美の“雷神”は、彼女の流派の上伝クラスの技で、太刀筋が見えないのが特徴だ。それを“見て”、“避け”ようとするあたり、支倉の目はとんでもなものだな」
クールな武瑠をして、驚きを隠せずに解説している辺り、その凄さが垣間見えようとというものだ。
『……あれが見えたってのか?』
『……信じられん』
『ははっ、やるじゃないか』
『……へぇ、見えたんだ。面白そうな子』
『……スゴい』
『……わたくしなど、影すら見えませんのに……』
周囲のざわめきは広がるが、ステージ上で対峙する二人には届いていないようだった。
『っと、そういえばひばりんのライフがゼロに見える気がするのはどういうことかなん? れおりん?』
「……教師をあだ名で呼ばない。ンンッ、支倉さんのライフは、残り0.3%ですよ。生身だったら身動きひとつとれないでしょうが、アバターですからね。ゼロにならない限り行動は可能です。後、机から降りる!」
クリスの質問に、彼女をたしなめながら答えるレオンハルト。
それを聞いて、クリスがうなずいた。
『なるへそねい♪』
言いながら机に腰掛ける彼女へと、レオンハルトの咎めるような視線が飛ぶ。それに気づいたクリスはイタズラを思いついた子供の顔になり、その美しい双丘を見せつけるように腕を組んで谷間を強調させつつウインクを送った。それを見たレオンハルトは呆れたように左手で顔を覆って息を吐いた。
それすら遠い世界の出来事のように。ふたりは互いを見続けていた。
ひばりは、杖にしていた刀を握り直し、足を踏ん張って構えた。一方辰美は、刀を手に凛と立つ。
「……サブアームパージ」
つぶやくようなボイスコマンドに反応し、辰美の両肩に装着されていた大型の肩ユニットパーツとサブアームが排除され、足下に落ちながら粒子となって消えた。
言葉は要らない。
ただ二人の視線が交錯するのみだった。




