第百二十話『誓う蒼天』
「はぁ。そうだよな」
綾香は軽く息を吐き出し、力を抜いた。そしてみんなを見回しつつ笑みを浮かべた。
「思ったよりテンパってたみたいだ。ありがとうな? ひばり。クリスねーさんも」
笑顔で礼を言う綾香を見て、ひばりとクリスが笑い合う。
そして、仲間たちに笑顔が広まった。と、綾香が両手で顔を挟むように自身の頬を叩いた。小気味の良い音が響き、綾香のまなじりに涙がにじんだ。
「……つ〜〜。よし、気合いはいったぁ!」
声を上げ空を見上げる。そして太陽のような笑顔を以てみんなを見回した。
「よし! やるぜ? みんな!! ここから巻き返して勝とう!!」
綾香の言葉に、みんなが力強くうなずいた。と、ひとつ小柄な人影が立ち上がった。楓だ。
「んじゃ、あたしはお暇するよ。まがりなりにも対戦相手チームの人間だしな」
そう、うそぶいて笑う。
そんな彼女へひばりが申し訳なさそうな顔を向けた。
「ごめんね? 山岸さん」
「謝る必要ないじゃん? あたしは敵なんだしさ」
ひばりの謝罪に楓は肩をすくめながら言う。
しかし、まだ何か言いたそうなひばりを見てため息をついた。
「……そんなに悪いって言うなら、本戦ではあたしと戦ってよ。支倉さん」
「ふえ?!」
唐突な申し出にひばりは目を白黒させた。が、楓は気にした様子もなく続けた。
「あんた、東野の“雷神”を見切ったんだろ?」
「う、うん」
実際には少し違うのだが、ひばり自身よくわかっていないため、うなずいていた。
「あたし以外であれが見えたなんて珍しいからね。あんたと対戦したいんだ」
「……」
うれしそうに笑う楓を見て、ひばりは息を呑んだ。が、すぐにうなずいた。
「わ、わかったよ。八組が七組と対戦するときが来たらね?」
そんなひばりの言葉に、楓が満足そうにうなずき、屋上から出ていった。それを見送った綾香は、改めてみんなに向き直った。
「……いまさらかもしれないけど、みんな。あたしに力を貸してくれ」
周囲をその蒼いまなざしで見回し、綾香は頭を下げて頼んだ。
対して周りのメンバーはそれぞれにうなずいた。それを見て、綾香もまたうなずく。そして、あかりと秋人を見る。
「あかり、秋人」
「何カナ?」
「おぅ!」
綾香に声をかけられ、あかりは楽しそうに、秋人は力強く返事をした。
「引き分けでも何でもかまわない。何とかあたしまでまわしてくれ。頼む」
そう言って頭を下げる綾香に、ふたりはうなずいた。
「仕方ないなあ。なんとかがんばってみようカナ?」
「任せておいてくれ」
応える二人に綾香は顔を上げた。
「このプレマッチ。あたしがケリをつける!」
そう言って、綾香は右拳を天に向かって突き上げた。
「まってろよ? タカ。どんな理由でそこに居るのか知らないけど、あたしが助けてやるからな!!」
綾香は、雲ひとつ無い青空に誓った。
綾香には鷹久がなぜあのような待遇に甘んじているのかわからなかった。しかし、彼があのような待遇を由とするはずがないと確信していた。
だからこそ。自らの手で彼を解放すると、綾香は決めたのだった。